Birth 2(次女の場合)

11月2日 6:30、チャンギ国際空港に降り立つ俺。 南国特有の湿気が肌にまとわりつき、香辛料の香りが鼻をつく。

タクシーへ乗り込み、gorioの住むコンドミニアムへ。 空港からはタクシーで30分の距離だ。

すでに生まれちゃってたらどうしよう?

一抹の不安と焦りを感じながらその時間を過ごす。

が、 そんな心配をよそに、コンドミニアムに到着してみると gorioは風船のように膨らんだおなかを抱えて熟睡中。

で、その日はおしるしこそ来たもののなんてことはなく、 IKEAでベビーベッドなんかを物色(遅っ)。

「この、いっちゃん安いのでいいよねー」

などと、 穏やかに過ぎて行く。

……ん? 俺の、あのミッション・インポッシブル完遂の意味は? 

ま、いーか。

そしていよいよ、妊婦にとって最も縁起がいいと俺が決めた、 11月3日、「いいお産の日」がやってきた。

朝一から検診へと向かうのは、マウント・エリザベス総合病院。 シンガポールで最も栄えているオーチャードの中心地にそびえ立つ リッパな病院である。

gorioの担当医は、ミズ・アン・タンという、 何やらシンガポールでは著名な女医さんらしい。 病院の壁には、様々なマスメディアに取り上げられた証として 新聞や雑誌の切り抜き、そしてモデルばりにポーズを決めた アン・タン女史のポートレートが所狭しと飾ってある。

ほほう、なかなかお綺麗な先生ではないか。

「と、思うでしょ」とgorio。「今先生通ったの気づいた?」

ん?この写真の通りの女性は、一切見かけませんでしたが?

そこへ、

"gorio, come in."

呼び出しを受け、診察室のドアを開く我々。

( ゜д゜) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゜д゜) ・・・?

はい、壁の写真はレタッチ決定!かなり後処理入ってます。 まあ、腕が良ければいいんです。先生は。

まずはモニターを取られるgorio。

長女の時もそうだったが、胎児の心拍は一向に上がらず、 陣痛もまだまだ弱い。

"Baby is so sleepy..."

これは今日もなしかと感じ始めた我々二人。

しかしながらアン・タン女史、 しきりに今夜産むことをgorioにすすめている模様。

「子宮口がだいぶ柔らかくなってきてるわ(英語)」

ふむふむ。

「前にも言ったけど、羊水が足りてないの(英語)」

ほほう。

「それに、ほら、見える?コード(臍の緒)がベビーの 首に巻きつきそうだわ(英語)」

なに!それは危険じゃないか。

「このままいくと明日には産まれそうなんだけど、 明日の14:00には私、手術が入ってるのよ(英語)」

そうか、ただでさえリスキーな分娩らしい雰囲気だし、 大事なときに先生が他の妊婦さんにかかってたらマズイもんな。

その前に産ませようとしてるのか。なるほど! でも、手術って?妊婦さんの?帝王切開かなにか?

「いいえ、私のよ。私、膝を痛めてしまって、 今プレートが入ってるの。それを取るのよ(英語)」

( ゜д゜) ・・・

アン・タン・・・アンタのかい!

ともかく、陣痛促進剤をブチこまれるgorio。 午後にもう一度診察して、そのまま入院させようというプランである。

病院から出るともうお昼時をだいぶ過ぎており、我々の腹も減っている。 gorioにとっては出産前の最後の昼餐ということで、 美味いインド料理店のビュッフェを目指すものの 既にランチタイムはクローズド。

しかしながらそんなことでは引き下がらないタフネゴシエーターgorio。 出産後はしばらく来れないことを強調して 心優しきインド人の心を開き、見事ビュッフェゲット! たくましすぎる・・・母は強しということか。

ところでアンタ、陣痛は??

夕方になっても一向に強まらない陣痛に少々焦れながら 再びアンタン女史のもとへ。

「促進剤、効かないみたいね・・・どこかで落とした?」

シンガポーリアンジョークを交えつつ、考え込むアンタン女史。

「OK」と言うや、手にゴムをはめて立ち上がる。

手を膣に突っ込まれるgorio。

ここでアン・タン女史のゴッドハンドが炸裂する!

「ぐりっ」

gorio曰く、そんな感覚だったらしい。 まるで子宮口を指で広げるような。

「OK。夜、分娩室へ直接来て頂戴ね!シーユー!」

涼しげな顔のアン・タン女史にそう告げられ、病室を出る。

ともかく、彼女の指先で何か細工をされたgorioは、 あんなに穏やかだったのが嘘のように陣痛に襲われ始める。 病院から出た時点で、もはやまともに歩けない状態に。 まさにハンドパワー。

これが噂の、陣痛を完璧にコントロールするという 「アン・タン・マジック」か・・・!(聞いたことないけど)

とはいえ、まだ陣痛の間隔は長く、 入院の道具を持っていなかったこともあり、 一度自宅へ戻り待機することに。

はじまりは11月3日、いいお産の日。 確実にその瞬間が近づいていることを実感しながら、 最終章へ! 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?