【116日目】ミッドナイト・反るジャー


June 23 2011, 10:16 PM by gowagowagorio

5月26日(木)

昨晩のこと。

効き目の確かな座薬を入れたというのに、ミノリの熱が下がらない。昨日などは、病院で座薬を入れて15分後には36℃台まで熱が引いていたと言うのに。いよいよ深刻な状況かと、心に暗い雲がかかる。

ちゃんと座薬が入っているかどうか確かめるため、アキコがオムツを開ける。

「おとうちゃん、これは薬効かないよ」

苦笑するアキコに促されオムツを覗くとそこには、病人とは思えない、みごとなウンチが鎮座していた。

ミノリは、恐らく座薬を入れた直後にウンチをしたのだろう。そのせいで、入れたばかりの座薬が押し出されてしまったのだ。高熱のクセに食事だけはいつも通り、便秘も解消されたため、ウンチの量と回数が多い。それが意外な所で弊害をもたらした訳だ。

発熱しているミノリ自身ももちろん可哀想だが、そのせいでナツモにも退屈な思いをさせている。ミノリをずっと抱いていなくてはならず、ナツモと一緒に遊べない。ナツモの事を怒鳴らないようにしようと努めてはいるものの、ナツモがやたらとミノリに触ろうとするため、ついつい強い口調で「やめろ、近づくな!」と言ってしまう。

それが疎外感を生むのだろう、昨日など、ナツモは、叱られてもいないのに訳もなく泣き出した。かなりナーバスになっていると見える。このまま行くと、ミノリのことを逆恨みするようになりはしないだろうかと心配したが、今日は健気にミノリの食べる紫芋を潰している。

なるほど、ナツモを一人で遊ばせて寂しい思いをさせるくらいなら、ミノリの看病に巻き込んだほうがいい。お姉ちゃんとして、病気の妹のために自分も役に立っているという充足感を与えてやれる。

ミノリの熱は、昨晩までのように39℃台まで上がる事はなくなったが、依然として38℃台後半に留まっている。

それでもミノリの額が全然熱く感じられないのは、我々の手が39℃台に慣れ過ぎてしまったからだろうか。

エリサなど、

「触っても熱くないのに39℃近くもある、体温計が壊れてる」

と言い張っている。機械よりも自分の手を信じているのだろう。強情な婆さんのようだ。

−−

ミノリの看病から来る寝不足がアキコも僕も限界を迎えている。ミノリが泣いた時に二人してオロオロと起きていても非効率なだけだ。このままでは共倒れしてしまう。そこで今夜は交代制でいくことにする。前半、大体22時から2時までは僕の当番、それ以降、朝まではアキコの当番である。

0時を少し回った頃。即ちそれは僕が担当の時間帯に、それまで寝ていたミノリが目を覚まし泣き始めた。

すかさず抱き上げたものの、何やら様子がおかしい。泣き方が、昨晩までと違うのだ。これは、熱にうなされた苦しげで弱々しい泣き方ではなく、エンジン全開のシャウト系である。

さらにミノリは、シャチホコのように背中をびいいいん、と反らせて固まり、僕の抱っこを拒否するかのような態度を見せる。何が気に食わないのだろうか。

反った背中を戻して胸元に収めようとする僕に対し、ミノリは病人とは思えないパワーで抵抗してくる。一体何処にそんな背筋力があると言うのか。

落ち着かせようとシャブリをくわえさせるがそれが逆効果だった。火に油を注いだようにミノリの泣き声は激しさを増し、ついにアキコを起こしてしまった。

「かわろうか?」

アキコは明らかに不機嫌だったが、ミノリがあまりにも激しく泣いて引きつけを起こされても困るので、僕は素直にミノリをアキコに渡した。

「なんか、反っくり返って抱かせてくれない。俺に抱っこされんのがイヤみたい」

一応、事情を説明するものの、今のアキコからすればそれは間抜けな戯言にしか聞こえないだろう。

しかし、ミノリはアキコの胸にも大人しく収まることはなかった。アキコの腕から逃れるように、びいいん、と反っくり返ったままである。その姿を見て、僕は心配になるというより、どこかでホッとしていた、というのが正直な気持ちである。

良かった、ミノリが泣いているのは俺のせいじゃなかったんだ。

「アキコが抱いても反るんだね」

ここで、素直な感想を漏らしたのが間違いだった。

「反るんだね、じゃないよ!当番制にした意味ないじゃん!自分担当の時間帯は責任持って全うしてよ!」

「・・・ごめんなさい」

アキコに叱られながらも、よくよくミノリを観察してみると、どうやら熱はそこまでなさそうだ。

まさかこれは・・・いつもの夜泣き?と言うことは、元気になってきた証拠?

元気になったらなったで、手のかかる子である。

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