【20日目】朝食は、いとをかし


February 28 2011, 6:49 AM by gowagowagorio

2月19日(土)

今日はナツモが舌好調。

それは朝食時のことだった。
ナツモは味噌汁が好きである。オカズが嫌いなものだった日など、味噌汁とゴハンしか食べないぐらいだ。だから、昨晩残った味噌汁を食べるかとナツモに聞いた。すると衝撃的な発言がナツモの口から飛び出した。

「たべないよー、ブレックファストはおかしなんだよ」

「・・・味噌汁は?」

「ごはん」

「ブレックファストもごはんなんだぞ。朝ゴハンって言うだろ?」

「ちがうよー、おかしだよー」

言われてみると、ナツモのいつもの朝食は、パンにヌテラ(チョコレートスプレッド)をたっぷり塗りたくり、星のカタチをしたチョコレートチップをトッピングしたものと、チョコレート味のコーンフレーク、そしてミロである。今までさして気にも留めていなかったが、これでは毎朝チョコレート菓子しか食べていないようなものだ。だからナツモがそんな認識になるのだ。これはマズい。朝食メニューの改善は急務だ。

などと考えていると、ナツモがすかさず次の「口撃」を仕掛けてきた。

「ねーねー」

「ん?」

「もっちゃん、これだからさー」

僕に向かって無邪気に中指をおっ立てるナツモ。

「・・・!?」

絶句する僕。
4文字言葉の決めポーズなど、どこで覚えたと言うのだ。学校でマセた子供がナツモに教えたのではないか?だとしたら、実にけしからん。これは折を見てクレームを入れなくてはなるまい。狼狽する僕。
ところがナツモは自分の中指をしばらく眺めていたかと思うと、

「・・・あ、まちがえた。こっちだー」

とおもむろに薬指を立て直し、
「おねえさんゆび」とにんまりと笑うのだった。
なんだ、そういうことか。ビックリさせやがる。でもな、まだ確実にお姉さん指が立てられないのなら、人様の前でその話題はやめたほうがいいぞ。そう思いつつも、どのように説明すればナツモに納得してもらえるかが見当も付かないため、結局はこのまま放っておくしかないのだろう。それにしても、3歳児のあのポーズはなかなかインパクトがあるものだ。

そして朝食が終わると、ナツモが今度はベッドルームの鏡の前に立ってニヤニヤしている。

「なにしてんの?」

「だってー、かわいいんだもーん」

「誰が?」

「もっちゃん。ひひひ」

・・・ひひひ、ではない。

恐らく髪型や洋服すべてが自分の好みにピタリとハマったからこその発言だとは思うが、ここまで臆面もなく自分が好きだと、将来が不安である。願わくば、公衆の面前ではなく、人知れずひっそりと鏡を眺められるような自分好きになってもらいたいものである。

午後はアキコが通っているタヒチアンダンスのレッスンを見学にしに行く。
ダンススタジオは、シンガポールリバー沿いのウォーターフロント、クラークキーにある。シンガポールは土地の高低差がほとんどなく、水の流れが恐ろしく緩やかなため、川の水は常に茶色く濁っていてとても美しいとは言い難いが、川沿いに立ち並ぶ倉庫を改築したレストランたちのレベルは高く、いつも観光客で賑わっている。タヒチアンダンスの前に腹ごしらえのため、そのようなレストランからは少し離れた場所にある、バクテ・レストランへと赴く。バクテとは、豚肉のスペアリブを、ニンニクやハッカク、シナモン、コリアンダーなどの漢方系薬膳スープでじっくり煮込んだローカルフードである。白米にスープを豪快にぶっかけていただく。アッサリしていながら複雑で滋味深いスープは、何度食べてもまったく飽きがこない。なんなら毎日だって食べられる。アッサリしているため二日酔いの日だって食べられる。僕の中ではチキンライスを超えてナンバーワンシンガポールフードなのである。

満腹になったところでダンススタジオへ。アキコは日本でかなり真剣にタヒチアンに取り組んでいたので、こちらでも続けられることができて満足気である。そして、母親のショーを何回も観ているナツモもタヒチアンダンスが好きで、今日も練習を見ながら人目を盗んで密かに自分で踊ったりしている。しかし、それを目ざとく見つけたコーチが

「あら、いっしょにやる?」

と声をかけた途端に、恥ずかしがってやめてしまう。そういえば家でも、「のぞいちゃだめ」と念を押してからドアを閉め、自己流のダンスを踊っていることがある。まったく、鶴の恩返しみたいなヤツである。

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