【240日目】ハレーポッター


February 9 2012, 6:23 AM by gowagowagorio

9月27日(火)

今日も、一人では広すぎるベッドの上で目が覚める。

普段は両側にアキコとナツモがいて、僕は長い身体を屈葬よろしく折りたたんで寝ているのだが、こうもベッドに余裕があると、かえってスースーして居心地が悪い。

ふと横を見ると、昨晩は確かにベッドの横に敷いたマットレスで熟睡していたはずのミノリが、いつのまにかベッドに這い上がって来て僕の隣で丸くなっていた。夜中に目覚めて、人恋しくでもなったのか。想像するに、猫を飼うと、きっとこんな感じなのではないだろうか。猫アレルギーの僕には、それを確かめる術はないけれども。

ミノリは心なしか、いつもよりも伸び伸びと、笑顔多めで過ごしている気がする。隙あらば上からのしかかってくる、悪魔のような姉貴の影に怯える必要がないからか。それとも、朝8時を過ぎても僕が外出することなく一緒に過ごしているからなのか。いつもはナツモの行動ばかりに目が行きがちだが、今は必然的にミノリの一挙手一投足をつぶさに観察できる。

こうしてみると、ミノリは随分と人間らしいコミュニケーションが取れるようになってきた。ミノリが手で掴んだものを僕に見せたいときには、ちゃんと僕のほうを振り返り、「これみて!これ!」とでも言うように腕を伸ばして掴んだものを掲げるし、抱っこをせがむときには両手を広げて僕を仰ぎ見る。

しかし、言葉に関してはまだまだ出てくる気配が感じられない。先日唯一飛び出した「バイバイ」も、あれ以来聞かせてはくれない。ナツモはわりと早い段階で言葉を発しはじめた記憶があるけれど、ミノリはもしかしたら喋り始めるのは遅いかも知れない。

それにしても、ナツモがいないと、こうも記すことがないものか。認めるのが癪ではあるが、この日記がかなりの部分でナツモのワガママに支えられていることを痛感する。

僕自身の出来事にも特に変化はない。そろそろ生活のリズムを取り戻そうと、ミノリが朝寝を始めると同時にアイオンのスターバックスへ出向き、バイトとして頼まれているコピーを書いたりもしたが、せいぜいその程度だ。

自由気ままだし、ラクなのだが、何か物足りない。結局、メリハリがないということなのだろう。後1ヶ月もすれば仕事復帰となるわけだが、このまま日本へ帰ったら仕事が始まっても同じ精神状態に陥りそうである。これはつまり、子供の相手というのはそれほど苦労が耐えない、大変なものなのだということを意味している。子供の言動は常に予測不可能だけに、その苦労に拍車をかけている。

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さて、昼食も外で済ませて家へ戻ると、ちょうどミノリが目覚めたところだった。

僕はミノリの顔を覗き込んで、ふと違和感を覚えた。なんだろう、どうも、ミノリの印象がいつもと違う気がする。数秒間、その違和感の正体を探る。

・・・そうか、目だ。

いつもは見事なまでに腫れぽったい一重のミノリの目が、寝起きのせいか、くっきりと二重になっている。するとどうだろう、全然違う顔だと思っていたナツモとミノリだが、こうしてみると、そっくりの姉妹である。一重と二重ではこうも印象が変わるのか、と、今さらながら改めて驚く。

ミノリの、ややタレ目がちな腫れぽったい一重の目だってなかなか味わい深く、愛おしいものだ。別に、二重の目が見た目として優れていると言う気は毛頭ない。

それでも僕は、ミノリが嫌がらない程度に、二重になった瞼の溝を確かなものとするべくミノリの瞼を指の腹で引っ張ろうと試みた。しかし、それがかえって余計な事だったようで、指で触った瞼の溝は、あっという間に形状記憶合金のようにぷくっと隆起した。

ぱっちりオメメのミノリは幻と消え、僕の目の前ではいつも通り腫れぽったいタレ目のミノリが、ぺかっと笑っているのだった。

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