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世界奴隷化計画 第3話

モンスターペアレントとの闘い

<人 物>

吉川里帆(30)聖カトレア女学院英語教師
鈴森花梨(17) 里帆生徒
松尾莉奈(17) 里帆生徒
岡田美里(17) 里帆生徒
西村博(43)体育教師・生活指導担当
有本薫(58)聖カトレア女学院校長
岡田晴美(50)PTA会長・美里の母
岡田勝(55)美里の父・塾経営


○都内地下鉄・中(朝)
   まあまあ、混んでいる車内に
   マスクをしたスーツ姿の人々に混じり
   吉川里帆(30)が乗っている。

車内アナウンス「新型ナロコ感染拡大防止の
        ため、
        車内ではマスクを着用の上、
        会話はお控えください」

   里帆、大きくため息をつき、
   耳にイヤホンを付けスマホで
   音楽を聴き始める。

○聖カトレア女学院・全景(朝)
   木々に囲まれ、広々とした
   敷地に、蝉の声が響く。
   蔦が絡まるレンガ作りの校舎と、
   ステンドグラスが施された
   チャペルが建っている。

○同学校門・前
   マスクをしたセーラー服姿の女子高生
   や教師に混じり、
   入ってくる鈴森花梨(17)。
   門をくぐるなり、
   おもむろにマスクを外す。
   そこへ駆け寄る西村博(43)。

西村「鈴森、マスク!」

   花梨、大きくため息をつき、

花梨「あのさ、先生、頭大丈夫?
   この暑さのなか、
   マスクで熱中症のリスク高まるの
   体育教師ならわかりますよね?」

西村「規則は規則なんだ!」

花梨「これ明らかな人権侵害ですよ、
   私、法学部志望なんですけど」

   そこへチャイムが鳴り、

花梨「あ、遅刻しちゃう!」

   花梨、マスク外したまま、
   昇降口の方へ走って行く。

○3年A組の表札

○同クラス中
   里帆が教壇に立っている。
   クラスの座席は半分ぐらいが
   空いている。
   花梨以外の生徒は
   全員マスクをしている。

里帆「えー今年はナロコ自粛の影響で
   夏休みが随分短かったけど、
   みんな元気でしたか?」

花梨「先生、高3ほとんど、
   予備校行ってて休みだから
   ソーシャルディスタンス取れてるし、
   苦しいから、
   みんなもマスク外して
   いいんじゃないですか?」

里帆「いやー、正直、
   私もマスクをしながらの授業は
   本当に苦しいんですよね」

花梨「じゃあ外せばいいじゃん」

里帆「うーん」

花梨「先生、ウチの学校の校長、
   いつも、
“自分の頭で考える人間になろう!”
って、言ってるじゃん、
アレ、嘘なの?」

里帆「みんなは外したいと
思っているのかな?」

松尾莉奈(17)が手をあげる。

莉奈「ウチの親、医者だけど、
熱中症になる確率のがずっと高いから、 
   マスクするな、って言ってるんで
   取っていいですか?」

里帆「そっかー。どうしようか?」

   考え込むように腕組みをする里帆。

花梨「とりあえず、私は取りますので」

莉奈「私も取りますので」

   二人に引き続き次々と
   他の生徒もマスクを外し始める。
   その横で下を向いて
   ずっとマスクをしたままの
   岡田美里(17)。

○同学内職員室・中
   授業を終え、
   自分の机に戻ってくる里帆。
   そこへ有本薫(58)が近づいてくる。

薫「吉川先生のクラス、
  全員マスクしてないって
  本当ですか?」

里帆「あ、校長、その件なんですが・・」

   思い切ったように話そうとする里帆。
   そこへ救急車の音が鳴り響き、
   西村が凄い勢いで入ってくる。

西村「体育の授業中に生徒が
   熱中症で倒れました!!」

薫「え!」

   すぐに現場に走る薫。

   ×××

○校長室中
   応接セットのソファーに腰掛ける
   薫と岡田晴美(50)。
   晴美はマスクの上に
   フェイスシールドもしている。

晴美「ナロコの新規感染者が、
   毎日これだけ増えているなかで、
   全校生徒に
   マスク着用は自由にしたって、
   どういうことですか?」

薫「先日も、マスクをしたまま
  体育授業をしていたクラスで
  熱中症で倒れた生徒がいたんですよ。
  幸い軽症ですみましたが、
  この暑さでは
  まずは生徒の安全を第一に・・・」

晴美「で・す・か・ら、
   生徒の安全を第一に
   感染症予防を徹底してください、
   って言っているんですよ!」

薫「岡田さん、冷静に考えてください。
  熱中症の昨日の救急搬送者数、
  1240人ですよ。
  今の時期は、
  まずは生徒達を熱中症から
  守ることの方が大事では・・」

晴美「熱中症は水分取ったりすれば
   防げますけど、
   ナロコは空気感染するんですよ。
   症状なくたって家族にうつして、
   重傷化したら責任取れるんですか?」

   晴美、強い口調で言う。

   ×××

○聖カトレア女学院全景(朝)
   生徒や教師が次々と登校してくる。
   全員が門をくぐると同時に、
   マスクを取る。
   生徒も教師も笑顔で挨拶を交わす。

生徒①「先生、おはよう!」

里帆「おはよう!」

生徒②「あー気持ちいい!
    やっぱ、ウチの学校最高!」

   生徒①満面の笑みで
   生徒②にハイタッチする。
   じゃれ合う生徒たちの姿を
   幸せそうに目を細め、見つめる里帆。

○3年A組教室中
   誰もマスクをしていない。
   教壇に立ち出席簿を見る里帆。

里帆「美里さんは今日もお休みかな?」

花梨「親がモンペだと、大変だよね」

莉奈「美里、病んでんじゃね?」

   里帆、心配そうな顔をして
   美里の机を眺めている。

○岡田家全景
   ごく普通の建売風の築18年位の家。
   インターフォンの前に立つ里帆。

   ×××

○岡田家玄関
   玄関のドアと三和土の間に
   透明なビニールシートが
   つり下げられている。
         エアコンは止めてあり、
   網戸になっている。

○同岡田家中
   フェイスシールドに
   さらにマスクをした晴美と
   マスク姿の里帆が座っている。
   晴美、額の大粒の汗を
   アルコール除菌シートで拭いている。

里帆「あの、お苦しいようでしたら、
   私がマスクをしているので、
   はずしてくださって結構ですよ」

晴美「結構ですっ!」

里帆「美里さんはお元気でしょうか?
   もうお休みになって一週間なので、
   ちょっと心配になったもので」

晴美「ええ!元気ですよ!
   もう学校に行かないなら
   感染の心配もないですし!」

   ×××

○美里の部屋の前
   ノックをする里帆。

里帆「美里さん、入ってもいいかな?」

   応答はないが、
   ドアをそっとあけて中に入る里帆。
   ドアを開けると
   透明なビニールシートが
   天井から吊り下げられている。
   誰も居ない部屋で
   フェイスシールドとマスクをつけた
   状態でベッドに寝ている美里。
   エアコンは止めてあり、
   窓も閉まっている。

   目は遠くをみつめているように
   虚ろで、ガリガリに痩せこけている。
   ベッドの周りには
   アルコール除菌ジェルのボトルが
   大量が散乱している。
   里帆、びっくりした顔をする。

里帆「美里さん、大丈夫?」

   里帆、エアコンのリモコンを探す。

美里「・・・」

里帆「部屋に誰も居ない時は
   マスクしなくてもいいのよ!
   エアコンのリモコンは?」

美里「エアコンつけると、感染するから、
   お母さんが隠した…」

   里帆、全ての窓を全開にする。

里帆「ちゃんとご飯食べたり
   出来てるの?」

美里「食欲ない・・・」

里帆「美里さん!」

   かけよって美里を抱きしめる里帆。
   虚ろな表情の美里。
   美里のマスクとフェイスシールを
   そっと外す里帆。
   美里、急に目を見開く。

里帆「美里さん、ゆっくり息を吸って」

   美里、里帆の目をやっと見て、
   ゆっくり息を吸う。
   里帆、持っていた
   ペットボトルのキャップを開け、
   美里に差し出す。
   美里、我に返ったように
   ボトルを受け取り、飲み始める。
   美里、顔を上げ、

美里「先生!」

美里、泣き始める。
   里帆、美里の頭を撫でながら

美里「もう大丈夫よ、大丈夫」

   と繰り返す。

○岡田家玄関・前(夕)
   フェイスシールドをして
   マスクをしているスーツ姿の
   岡田勝(55)が入ってくる。
   首には空気除菌カードを
   3枚吊り下げ、
   手にはゴム手袋をしている。
   玄関にある、里帆の靴に気づく岡田。

岡田「おい!誰か来てんのか?」

   イラだったように大声で言いながら、
   アルコールスプレーを
   里帆の靴に何度も大量にかける岡田。

○美里の部屋・中
   美里、その声を聞き、
   ガタガタ震えだす。
   震える美里を抱きしめながら
   ドアの方を凝視する里帆。
   階段を、
   荒々しく上ってくる足音が鳴り響く。

                続く



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