*寄り道*「部活の思い出」

How's it going?国産バイリンガルの魚住です。

今回はnoteのお題に挑戦です。

テーマ: #部活の思い出

高校・大学共に演劇部で役者していた私には、役の数だけ思い出があります。ですが、舞台の外にも思い出はたくさんありました。

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大学2年生の夏。

我が演劇部は夏になると部員総出でバスを貸し切り、合宿に出かける。合宿と銘打ってはいるが、大きな公演を控えているわけでもなく……基礎練習や軽い稽古をしつつ、みんなで遊ぶのが実態だ。宿泊先や内容は、部員のうち4人で構成される”実行委員”が決定する。

さて、そんな合宿へと向かう出発の朝。集合場所に着くと同級生の女子・Sの周りにやたらと人が集まっていた。

「これ見て!」

Sはお洒落なネックレスをしており、それをみんなに見せていた。可愛いね、素敵だね……そんな称賛の言葉に対し、

「Mにもらったの!」

とSはにっこりと嬉しそうに微笑んだ。Mというのは、部内でSが仲良くしている演出家だ。MはそんなSを横目に、照れ臭そうにはにかんでいた。


バスが到着し、荷物の積み込みを終えて思い思いの席に着く。今回の合宿参加者は1年生から4年生まで、総勢30名ほどだった。

「はーい!みんなおっはよー♪」「おはよー」

バスが動き出すと、今回の合宿を取り仕切る”実行委員”のうち二人ーーE先輩とN先輩がマイクで話を始めた。どんなスケジュールで練習やレクリエーションをするのか、何をするのか……そして、泊まるところはどんなところなのか。

「……今回泊まるところは!なんと!!神隠しの噂もあるみたい!!きゃー、みんな気を付けてー!!」

E先輩の話に、ノリのいい我々演劇部員は「えー!」「こわーい!」などと反応する。E先輩の話を要約すると、今回宿泊する施設の近くには裕福な家族が住んでいたという大きな屋敷があるらしく、その家に住み着いた少女の霊が遊び相手ほしさに誰かを連れていってしまうらしいーーというものだった。

「めっちゃ怖いじゃん、ね、アリナ!!」

隣に座っていたKが声をかけてきたが、その目は好奇心に満ち溢れていた。Kは中学から演劇部に入っていて、その声量や実力は群を抜いていた。

「K、全然怖がってないじゃん!後ろまで聞こえてるよ!」

Mが茶化すと車内はワッと笑いに包まれた。

「それでね、……」

オカルト話が大好きなE先輩がはしゃぎながら話を続けようとすると、

「E、そういうの、もういいから」

横からN先輩が止めに入った。普段のN先輩からは想像できないような、冷たく鋭い口調だった。心なしか、顔色が若干悪い。N先輩は部内で一番霊感が強く、この手の話題や現象に敏感だった。ただ、でっち上げた都市伝説や嘘の話には反応したことが無かった。車内にちょっとした緊張が走る。

「ご、ごめん、N……」

「ま、そ、そんなわけで、ちょっと危ないところだから、外での活動は早めに切り上げて、夜は基本的に施設の中で過ごすスケジュールです!!」

しょんぼりとするE先輩に代わり、同じく実行委員である同級生のTが仕切り直した。Tはムードメーカー的存在で、脚本や演出を担当したときには周りを上手く引っ張ってくれていた。

「あとちょっとしたら、ビンゴを用意してるんで、体調大丈夫な人は、みんなでやりましょう!ね、ね!!」

「豪華景品もありますよ!!」

Tの隣に座っていた、同じく実行委員のWも加勢する。二人のおかげもあってか、車内は再び明るさを取り戻し、ビンゴも盛況に終わった。尚、私は一列も揃わず「リーチクイーン」という不名誉なあだ名を与えられることとなった。


途中のSAで各自昼食を調達しつつ、施設に到着したのは昼過ぎだった。部屋は男女別・2人1部屋で割り当てられていた。私はKと相部屋だ。部屋割は実行委員によるものだったが、各部屋ともに比較的仲のいい2人組で構成してくれていたようだった。有難い。

部屋の確認と荷物の運び出しの後は、早速基礎練習と稽古だった。基礎練習はストレッチや呼吸法、発声、滑舌など、部長であるR先輩指導の元、普段通り行われていった。

「……ごめん、E、鍵持ってる?私部屋に戻る……」

休憩を挟み、この後は台本を使っての初見読みの稽古へと移るはずだった。休憩時間が終わろうとしたタイミングでN先輩がE先輩に声をかけた。

「あ、うん……はい。N、大丈夫?」

「うん、ちょっと休む。あとお願いできる?」

「あ、分かった……」

部屋の鍵を受け取ったN先輩は、重そうな足取りで稽古場を後にした。

「ねえ、アリナ……N先輩どうしたのかな」

右隣にいたKが声をかけてきた。

「大分体調悪そうだよね……」

「朝にE先輩がバスで話をした時も、ちょっと顔色悪かったよね」

左隣にいた同級生のCも、不安そうに話しに入ってきた。

「N先輩、何か良くない空気でも感じてるのかな」

私の言葉に、KとCは半信半疑なようだったが、

「え、ちょっとアリナ先輩やめてくださいよ!」「怖いっすよ!」

近くにいた1年生たちが騒ぎ出す。ごめんごめん、と軽く謝りながら周りを見回すと、TやMなど他の部員もN先輩が部屋に戻ったことには気づいているようで、似たような話題が挙がっていた。

「……よーっし、休憩おしまい!初見読みやりまーす!」

N先輩が抜けたまま、E先輩の元気な声で稽古は再開されたが、なんとなく皆の不安は払しょくされないままだった。


稽古の後は夕食だった。稽古の時のジャージのままで過ごしている部員も多かったが、私と同学年の女子はほとんど私服に戻っていた。

「あ!S、またそのネックレス復活だね!」

食堂で隣に座ったSに、私は声をかけた。

「うん!稽古中は流石にね、外しちゃったけど……気に入ってるからさ!」

「お、Sさんの例のネックレス。俺、朝よく見てなくてさー」

向かい側に座った4年生のY先輩も声をかけてきた。

「Mのセンスがいいね、Sさんに似合ってる」

「へへ、ありがとうございます!」

すると、

「N!大丈夫?!」

隣のテーブルからE先輩の声が聞こえた。どうやら体調が悪かったN先輩が夕食に合流したらしい。

「N先輩、無理しないでくださいね」

私やSの言葉に、N先輩はありがとう、と応えてくれたが、まだ体調は万全ではなさそうだった。

「N先輩、俺次のセッティング代わりにやりますよ。E先輩に教えてもらいながら」

WがN先輩に声をかけた。夕食の後は肝試しと称して近くの林を散策する予定になっていた。肝試しと言うよりはスタンプラリーに近く、事前に実行委員であるN先輩とE先輩が道中にチェックポイントを設置し、グループに分かれてタイムを競うというものだった。同じ実行委員であるTとWは準備には携わらず私たちと同じように参加するつもりだったが、急遽Wが運営側へと回るようだ。

夕食後、稽古場でくじ引きをしグループを決め、早速1番目のグループが出発した。メンバーはSとTとMの3人。次のグループは、前のグループが戻ってきたら、あるいは前のグループが出発した10分後に出発するというルールだった。

第1グループは8分少々で戻ってきたが、TとMの二人だけだった。

「あれ、Sは?」

E先輩が尋ねると、

「靴紐ほどけちゃったみたいで、追いかけるから先行ってーって……」

とTが答えた。夏とはいえ18時も過ぎて大分陽が落ちている。ちょっと心配だね、という声も上がった。そんな中、2番目のグループである私とK、そしてY先輩が出発した。私たちのグループも、10分以内には会場へと戻った。

「Sは?」

今度はWが尋ねてきた。

「え、会ってない……」「私たちより先を歩いてると思った……」

そう、私たち3人はSを見かけていない。そのため、Sは1人で戻ってきているものと思っていた。

「Sさん、戻ってないの?」

Y先輩の質問で、一気に場が静まり返る。皆がそれぞれ近くにいた人と顔を見合わせ、不安を共有している。

「ちょ、一旦イベント中断!S探そう」

E先輩の掛け声で、Sの捜索が始まった。何人かはSが戻ってきた時のために室内に待機したままだったが、私を含めほぼ全員で外に探しに行くことになった。

施設から林に向かう途中、3分ほど歩いた道でY先輩が皆を呼び止めた。

「ねえ、これさ!」

私たちはY先輩の周りに集まる。

「これさ……Sさんが自慢してたネックレスだよね」

Y先輩の手には、確かにSが朝から見せて回っていたネックレスが握られていた。ほんの数秒の静寂だったと思うが、その場の時間がぴたっと止まったように感じた。

「Y先輩、部屋にいる人の誰かに電話しましょう」

私が提案すると、Y先輩はそうだね、と言って携帯電話でE先輩に電話をかけ始めた。

「もう暗いからさー、TとMを中心に男子はルートを辿って、Y先輩と女子はここからそのまま部屋に戻ろう」

Kの呼びかけで、私たちはまた二手に分かれSを探した。しかし、TやMなど男性陣が戻ってきても、Sは部屋に現れなかった。もちろん、道中でSを見かけていないと言う。葬式以上の静けさに包まれた室内では、すすり泣く声も聞こえてきた。部長のR先輩の表情も険しい。

「R先輩……捜索願、出した方がいいんじゃないですか」

Wが重々しく口を開いた。ただならぬ単語に、すすり泣く声も一層ボリュームを増す。

するとその時、Tと目が合った。目は口ほどにものを言うとはこのことか。私はゆっくりと頷いた。その後TはE先輩に視線を戻した。E先輩も頷く。ふと隣にいたY先輩を見ると、彼もまた頷きを返してきた。なるほど、ここまでか。

「ぶ、部長!」

E先輩が口を開いた。

「ごめんなさい、ドッキリです!」

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そう!!ドッキリだったんです!!!!!

私たちは”演劇部”でした。演劇部員が本気出して演技してしまった結果、ドッキリの枠を飛び出してしまったんですね……

発起人はT。Tが思いついたその瞬間、部室にいたメンバーが仕掛け人として全員駆り出されました。E先輩、N先輩、S、M、K、Y先輩、そして私。Y先輩がネックレスを見つけるまでが計画していた部分だったんですが、すすり泣きやら捜索願やら、シナリオは全く予想していなかった方に転がってしまって……この後、仕掛け人である私たち8人はR部長にみっちり説教を喰らい、部員全員の前で散々土下座しました……。ちなみに、Sはひよこの着ぐるみを着て登場する予定だったので、ひよこの姿のままで説教され土下座をする羽目に。

大学時代に演った舞台の中でも一番印象に残るものでした。再演?勘弁してください……!!

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