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プライシングというマーケティングの結晶について

今月もトライバルメディアハウスの社内勉強会「TPA」の時間がやってきた。今回は製品戦略と価格戦略について学ぶ回だ。

というわけで、特に価格について思ったことを書き留めておきたい。
価格戦略についてまず読んだのは以下の1冊だ。



価格の数だけ意図がある

まずは以下のリストをご覧頂きたい。ちょっと長いのだけど……

1. 定額価格
2. 顧客に合わせた相場
3. 月額の会費制や定期購入制
4. 成果の一定割合
5. 資産価値や取引額などの一定割合
6. 一式のパッケージ料金
7. 費用プラス一定の手数料
8. 時間あたり料金制
9. イギリス式オークション(オークション会場のような競り上げ型)
10.  オランダ式オークション(アムステルダムの花市場のような競り下げ型)
11.  セカンドプライスオークション(イーベイ型)
12.  業界標準価格(役者への最低支払額など)
13.  単価設定(記者や翻訳者の1ワードあたり料金)
14.  物価連動型の年間報酬
15.  部品別の価格設定(デル方式)
16.  基本料金プラス追加料金(一般的な航空料金など)
17.  提示価格
18.  需要に連動した価格設定
19.  事前発注割引
20.  無料と有料グループの組み合わせ(広告料収入で運営されているメディアなど)
21.  フリーミアム(基本的な商品やサービスは無料で提供し、高度な機能には課金する)
22.  利子の徴収
23.  違約金制
24.  カミソリと替刃モデル(本体と付属品に分けた価格設定)
25.  所得に応じた料金制(一部の労働組合は給与に応じて組合費を徴収している)
26.  限界費用価格
27.  マーケットシェア拡大のための値下げ
28.  普及にともなう値下げ
29.  頻繁な価格変動
30.  期間限定の割引
31.  季節料金制(休暇シーズンのホテル料金など)
32.  購入量に応じた値引き
33.  食べ放題
34.  競争価格
35.  資本参加
36.  高度な専門サービスに対する報酬
:【価格の心理学】より

既にページを閉じたくなっているかもしれないが、これでも全ての価格モデルを網羅したものではない。

重要なのは、これらの価格モデルそれぞれに、適合する商品/サービスがあり、あるいは適合しうる条件があるということだ。
その適合性は、つまり顧客に対する提供価値によって左右されるものと言えるだろうか?



出会い系サイトの価格モデルについて説明しよう

例えば私が昔関わっていた出会い系サイトだと、「ポイント購入とその使用によるサービス提供」が広く普及していた。

かわいい女の子(のアイコンを掲載したユーザー)にメッセージを1通送るのに500円掛かるとなれば、なかなか正気の人間は躊躇するものだが「購入済みのポイントを50pt使用する」だと結構使ってしまうという、なんというかなんというかな仕組みだったのだが、あれも価格モデルの一つと言って間違いではないだろう。

ちなみにこの場合、ポイントの使用時には利用者にペイン(痛み)が発生しない一方で、ポイントをまとめて購入する際に大きなペインが発生してしまう。

ではどうするか?

21.  フリーミアムモデル と組み合わせるのが当時の業界において一般的だった。

そもそも出会い系サイト利用者の目的は出会うことであり、出会えないなら1円たりともお金を払いたくはないのである。

そこでお金を払ってもらうためには、少なくとも出会える可能性を感じてもらう必要がある。

そのために出会い系事業者は、まずは無料でポイントを付与し、そのポイントを使ってメッセージのやり取りを開始してもらうのである。

上手くメッセージが続いてくれれば利用者は出会える可能性の高まりを感じて無料で付与されたポイントがなくなった後もやり取りを続けるためにポイントを購入してくれるという寸法だ。

もちろん、その際には30.  期間限定の割引 が適用される。(厳密に言うと、「初回購入限定」といった価格付けだ)

「300pt3,000円のところ、初回限定で500円!」みたいな。

これを購入した利用者がメッセージのやり取りを続行したものの、不幸にして出会えなかったとしよう。

しかしポイントは残っている。
となれば、別の相手を探して残りのポイント内でデートの約束を取り付けられるよう努力することになるだろう。

そして次の相手とやり取りをしている最中にポイントが足りなくなり……

そんな時にポイント購入ページに登場するのが32.  購入量に応じた値引き である。

「300ptだと3,000円のところ、1万円のまとめ買いでボーナスポイント付けて1,500ポイント!」とか。

かくして様々な価格モデルの組み合わせによってポイント購入額は積み上がり、ARPU(1ユーザーあたりの平均収益)が向上していくのである。

しかし後日談を記すならば、現在出会い系サイトに取って代わったマッチングアプリにおいては、こういったポイント購入モデルは数少なく、3. 月額の会費制や定期購入制 が主流となっている。

この変化は、ポイント購入モデルにおいて、出会い系サイト事業者がサクラを用意して利用者に不当にポイントを使わせるインセンティブが高く、実際にそういった業者が跋扈したこと、そしてそういった不健全な状態が数年間続いたことにより、利用者にポイント購入制サイトへの不信感が高まってしまったためと言われている。

月額制であれば、たしかに事業者がサクラを用意するインセンティブは起こりにくく、実際に現在知名度のあるマッチングアプリはサクラがいないようだ。

このようにビジネスに対する適切な価格モデルの設定には、ユーザーや社会の変化に対する適応も必要となってくる。

また、似たようなビジネスと思われる結婚相談所やお見合いアプリでは、月額制に加えて4. 成果の一定割合 (成婚料)を取るという価格モデルが多いようだ。

これは同じ「出会い」についての価値提供であっても、出会い系サイトやマッチングアプリで求められる出会いと、結婚相談所やお見合いアプリで求められる出会いの質が違うことに起因する。

後者で求められるのは身元のしっかりした、生涯を共にできる異性との安心感のある出会いであり、それゆえに仲介者である結婚相談所やお見合いアプリ事業者による身元やステータス(年収を偽っていないか、同時進行で二股を掛けていないかetc)の確認を、ユーザーが是認している。

こういった情報を事業者が把握することにより、成婚料という成果報酬を受け取れる条件の達成判定が可能となっているわけだ。

一方、マッチングアプリではこういった価格モデルは採用しづらい。
「デートの約束は確かにしたが、実際に会いに行ったらすっぽかされた」と主張されればその真偽の確認は困難だからだ。

このように価格モデルにはそのビジネスのターゲットとなる顧客や、顧客に対する提供価値、さらにはそのビジネスを成り立たせている全ての要因が反映されることとなるのである。



そんなわけで、プライシングはマーケティングの結晶である

注意が必要なのは、上記の「全ての要因」には企業(自社)と顧客だけでなく、競合他社やサプライヤーといった他のプレーヤーも含まれるということだ。

というか、顧客視点で見れば世界のほとんどの企業は無価値であり、興味・関心を持つ対象にはなりえない中で、顧客自身に必要な価値を提供しうる(と認識された)ごくわずかな企業のみがようやく視界の片隅に入ることを許されるわけなので、企業側に身を置くのであれば顧客視点での「必要な企業マップ」にどのように入り込むかを考えるにあたって、他の企業との相対的な位置取りを考慮するのは必須なのである。

購入利用ごとに競合相手が異なり、顧客がそれぞれのニーズを満たすための選択肢も複数ある。
~中略~
競合相手が変われば価格領域も違う。したがって、競合相手の選択と、それに合わせたポジショニング次第では、まったく違う価格設定ができる。
:【価格の心理学】より

そう、つまり価格モデルとはマーケティングという領域を織りなす全要素の結晶なのだ。

やっと紹介する2冊目の本は、まさにこの関係を書籍全体で現している。

プライシングの本だと思って読んでいたらマーケティング戦略の話しか出てこない勢いだった。

違った。マーケティング戦略の話こそがプライシングそのものなのだ。

価格は、本当はさまざまな意義を持ちます。でも取引や共同ビジネスでは相手とのメッセージのひとつにすぎず、そのメッセージは、私たちの大いなる関心事である所持金に影響するので、重要視されます。つまり価格は経済活動におけるひとつのコミュニケーションツールにすぎませんが、実際には表層的でない価値もあらわしているのです。
:【価格の心理学】より


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