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みんなで幸せになろうよ~チャネル・スチュワードシップと流通戦略~

振り返ってみると、形あるものを売ることのない人生だった。

大学を卒業してから携わったのはレンタルサーバーの営業であり、イベントの運営だった。

その後インターネット大好きだったのでネット業界に移り、コミュニティとかゲームとかに関わってきた。

インターネット大好きな私は、流通という分野に興味がないというか、はっきり言って嫌いだった。

インターネットの普及で卸問屋は絶滅する!
中間流通業者はネット時代には無用の長物!!
全ての分野で生産者と生活者が直接つながる時代がやってくる!!!
まだ多段階流通やっている業界は時代遅れの遺物!!!!

そんな風に思っていた時期が私にもありました。

しかし仕事として関わっていないとはいえ、この社会に何十年か生きていると、どうもそれほど話が単純ではないということがうっすらと見えてくる。

流通とはなんなのか。インターネットが普及し、これからもネット上でできることが増え続けていくことが確実な現代において、中間流通業者は存在し得るのか。

あるいは若い頃の私が思っていたように最終的には全てが中抜されてしまうけれども、単にその速度が予想していたよりは速くないということなのだろうか。

トライバルメディアハウスの社内勉強会「TPA」で今回、流通戦略を学ぶことになったのは、そういった私がこれまで漠然ともっていた疑問を整理する良い機会になったと思っている。

今回読んだのはこちら。



流通チャネルの存在意義

資本主義社会の到来と共に高度化した分業体制は、それぞれの業態・業界での事情に応じて多段階の様々な流通チャネルを構築していった。

なぜそうなったのかと言えば、それぞれのチャネルにおけるプレイヤーに存在意義があったからだ。

あたりまえの話だ。しかし、そのあたりまえこそが私の問いへのシンプルな答えだった。

流通とは、一般に「生産から消費に至る商品の移転」を指す
:【流通・営業戦略 (現代のマーケティング戦略③)】より

上記は「流通」の定義だが、もし単に商品が生産された瞬間から消費に至るまで一貫した不変の価値を持っているならば、中間流通はまさに不要となるだろう。

それこそインターネットで生産者と消費者が直接つながれば済む話だ。

だがもちろん、そうではない。

マーケティングの4Pに"Place"が入っているのはなぜなのか?

どこで買うか、どのように買うかということが顧客にとっての価値の一端を成しているからに他ならない。

さらに付け加えるならモノはそれだけで価値が完結するとは限らない。

BtoBの事例だが、「流通チャネルの転換戦略」に掲載されているシスコの例では、2001年のITバブル崩壊による市場縮小にともなって、パートナー(つまり中間流通業者だ)の再編をおこなった。

2001年の初め、シスコは大胆な一歩について発表した。変化した環境におけるニーズを満たすためには、需要を創造し、顧客を教育・サポートできる中間業者を、強くサポートする必要があると考えた。
:【流通チャネルの転換戦略】より

こういった、「顧客の教育・サポート」というものも顧客から見た価値の一つである。

つまり、流通チャネルに参加するということは、顧客から見たその製品・サービスの「価値」を形成することへの参加と同義なのだ。



顧客に届ける価値を最大化するための流通戦略

では、流通チャネルを通じて顧客に届ける価値を最大化するためには(そして価値提供者として最大の利益を得るためには)具体的にどうするべきか、ということについて書かれたのが「流通チャネルの転換戦略」である。

この本の副題「チャネル・スチュワードシップの基本と導入」に上げられる”チャネル・スチュワードシップ”がその答えであるとしている。

 チャネル・スチュワードシップには2つの重要な目的がある。第1の、明白な目的は顧客に対する価値を高め、スチュワードの利益を向上させることである。メンバーがチャネルに参加したいと思う主な理由は、市場の規模を拡大するか、既存顧客の購買量を増やすことを通じてパイを大きくすることにある。
 第2の、副次的な目的は、柔軟で、かつ強固なチャネルを作ることである。スチュワードシップとは、全ての中間業者が、役割や実績と無関係にチャネルに残り続けるといった、社会保障制度のようなものではない。
:【流通チャネルの転換戦略】より

つまりチャネル・スチュワードシップが目指している2点を言い換えるならば「チャネルを通して顧客に対する価値を高めるために、チャネルに参加するメンバー(当然顧客も含む)全員が得する仕組みを作ろう」ということと「チャネルを通して顧客に対する価値を高めるために、必要なプレイヤーに参加し、貢献してもらえる仕組みを作ろう」ということになるだろう。

これだけ書くと、なんだか組織戦略に似てきますね、という話になりそうだが、最大の違いは「チャネルには大体の場合複数のプレイヤーがいる」ということだ。

実効性のあるスチュワードの下で、チャネル参加者たちが理解することは、大幅な改善がすぐに達成できるとは期待できないということである。短期的な結果ではなく、長期にわたるベネフィットをもたらす変化のためには、忍耐が必要である。
~中略~
チャネル・スチュワードシップとは、漸進的変化の原則に従うものである。
:【流通チャネルの転換戦略】より

漸進的変化の原則に従わざるを得ないのは、参加するみんなが納得しなければチャネルの改善というのは達成できないからだ。

私の大好きなマンガ「東京喰種 :re」のクライマックスでこんな台詞がある。

秩序ってのは”全員に都合が良くなきゃ”力も保てねーんだよ
:【東京喰種 :re 16巻】より

「流通チャネルの転換戦略」に書かれていることはつまりそういうことであり、チャネルパワーは秩序を守るための力として必要に応じて使うべきだが、パワーを棍棒のように振り回すだけなら、それはチャネルの顧客に対する価値を高めるのとは逆方向へと向かわせるだろう。

”全員に都合が良くなきゃ”いけないのだ。

利害が対立しがちなメーカーと流通業者がどうやって?

信頼とコミットが必要だ。

信頼は関係性の歴史を表した言葉であり、コミットメントは関係性を維持し発展させるという、将来への意思を示した言葉である。
:【流通チャネルの転換戦略】より

時間を掛けてお互いに信頼を築き、チャネル参加者たちが顧客の価値を高めるという共通の目標にコミットした時、そのチャネルは顧客にとって価値のあるチャネルになれるのではないか。



で、結局これからも中間流通業者は存在し得るのか。

参加するチャネルの、顧客に対する価値を高めることができるならもちろんYes。

そうでないならば、メーカーであっても流通業者であってもNo。

Yesであり続けるために必要なのは、顧客への価値を高めるために、自社だけではなく共に価値を創造する他企業までふくめて、その価値提供に応じた報いを受けられる仕組みを作る「意志」と「行動」だろうか。

そしてもちろん、他のすべてのビジネスに関わる原則と同様に、私達は変化し続ける顧客に価値を届け続けるために、変化し続けなければならない。

本書で提唱していることを実行するのは、簡単ではない。我々が推奨する分析方法とプロセスは、状況に適応させ継続させるべきものである。そして、一定の原則を踏んで、究極の目標に向かって進んでいくことを念頭に置いている。しかも、目標自体が継続して進化している、ということも理解しておく必要がある。
:【流通チャネルの転換戦略】より


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