【映画独話】オッペンハイマー
素晴らしい。見終わった後、「良かった」という言葉しか思い浮かばなかった。何もない「良かった」ではなく、様々な要素が渦巻いてどこから言い出せばよいかわからない時に出る「良かった」である。脳内で何度も好きなシーンを思い描いた。能動的ではなく、受動的に反芻させられる。私はシャワーに入りながらずっと頭の中で追体験していた。
今回の作品はノンフィクションだからダンケルクの時と同じような客観的な撮り方かなと考えていたが、かなりオッペンハイマーの人間性とドラマを主観的に描いていた。
原発の威力とその惨劇を直接的な描写ではなく、オッペンハイマーの心情描写という間接的な視覚表現を用いて伝達している点が心を揺さぶる。特にカメラワークがオッペンハイマーの心情とリンクしていた。さらに大袈裟な演技やCGを用いた映像表現ではなく(使っているだろうが、劇中ではCGらしいものは見受けられなかった)、揺れなどのカメラワークやボケや焦点のずらしなど光の演出、BGMだけで演出している点が違和感なく伝わってきた。
特にトリニティ実験での爆発シーンは手に汗握る。爆発した瞬間の無音。燃え上がる火の海とオッペンハイマーの息遣いしか聞こえない場面。嵐の前の静かさとはまさにこのことを言う。このギャップがその凄まじさを物語っている。
ロス・アラモスの住民?もしくはマンハッタン計画の関係者が歓喜に酔いしれる中、スピーチをするオッペンハイマー。その時のアルコールを飲んでふわっとする浮遊感を想起させる視覚表現は印象深い。悦びに満ち溢れている人にフォーカスを当てていくのもオッペンハイマーの心の内と乖離していて、メタ的にその場面を垣間見ることができた。
ストーリーとしては、オッペンハイマーとストローズの裁判(厳密な言葉の定義では裁判ではない)を描いている。しかし、オッペンハイマー自身の大学時代からさかのぼっていたため、進行している裁判が主点というよりオッペンハイマーのドラマを描いているように見えてくる。
途中で気づいたが、スクリーンの高さが異なっていた。これによって、画面いっぱいに使う時のインパクトが大きくなる。視覚的な幅度とコントラストが素晴らしかった。時系列が異なるシーンを交互に織り交ぜるノーランらしい構成。映画の中での時系列としては最も最新のことである裁判のシーンが白黒なのが良い。
IMAXのサウンドが凄まじい。音って周波数なんだなと痛感させられた。その後サウンドトラックを聞いたが、IMAXのような心臓にどすんと圧が襲いかかる感覚はなかった。
ちなみに今回はHans Zimmer ではなく、Ludwig Göransson。ノーラン監督とは2020年の『TENETーテネット』からタッグを組んでいる。
気になった劇中歌のタイトルや、出演していた俳優をクレジットで追っているうちに気づいたが、思ったより有名な俳優が出演していた。
途中でストローズ=ロバート・ダウニー・Jrということに気づいたが、冒頭のシーンでは全くわからなかった。「やっぱりあの俳優か」と思ったのは、ケネス・ニコルスを演じていたデイン・デハーンである。
「えっ??」と驚いたのは、グローヴス大佐はマット・デイモンが演じていたことだ。確かによく見るとマット・デイモンだ。
終わり方も「あ、ここで終わるんだ」と思った。エンドロールを眺めながら、映画の余韻に浸る。正直、3時間という長さを思わせないほど濃密な時間だった。
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