レイジング・ブル

オレは悪くない、という奴はたいてい悪い

 主人公はボクサー。美人に一目ぼれして、結婚まで持ち込み、ボクシングでもチャンピオンになる。頑張って結果を出しているけど、妻への愛着が強すぎて、なにかと浮気を疑い、夫婦関係は微妙になる。

ボクサーを引退した主人公は、飲み屋を始めて、そこでジョークを言う仕事をする。アメリカンジョークというと、今の日本ではおもしろくない話の代表みたいに思われている。デニーロの話すことがおもしろいのかどうか、いっこも分からない。たぶんおもしろくない、独りよがりな話、という筋書きだ。笑えるかどうかは、オチがどうとか、構成がどうとか、といった次元ではない。話す人が好かれているかどうかだ。

プロレスの超有名な人に会った時、やはり取り巻きの人が、プロレスラーのさしておもしろくないギャグに爆笑していた。テレビ局でプロデューサーのつまらないギャグが大うけしたり、大寺の坊さんのギャグに小坊主が追従笑いをする現場に居合わせたことがある。どこの世界でも、アメリカでも、同じようなことが行われているんだと分かった。

 この作品の主人公は、飲み屋に来た未成年の問題で逮捕される。その時、オレは悪くないのに、と言う。酔ってないという人がたいてい酔っ払いであるように、悪くないと言う人は、たいがい悪い。となると、ほぼすべての人間が悪人、ということになる。

いま自分の思考を検証してみても、自分は悪くない、正しく考え、間違いのないように行動している、と思っている。

ただ気づいていないだ。

悪いことをしているのか、していないのか、検証するすべはない。

 ものすごく悪いことをしていれば、警察が動き出すから分かるだろうけど、普通に周りに迷惑をかける程度の悪であれば、ほとんど気づかないまま生きている。この作品のボクサーは、勝手な思い込みで妻の浮気を心配し、妻や弟に不快な思いをさせる。程度の差こそあれ、誰でも人に嫌な思いをさせることはある。嫌な思いをさせたのに気づいていないことは、おそらく山ほどある。自分は悪くない、とは言わないようにしよう。


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