韓国コンテンツはなぜ流行るのか?① 〜イカゲームの「アイコニックさ」と「リアルさ」が視聴者の心を掴む〜
Netflixを中心に韓国のコンテンツがグローバルを席巻しています。K-POPも世界のメインストリームへと昇華させ、アカデミー賞を受賞する映画も生み出す韓国の猛進は凄まじいものです。なぜこんなにも韓国はコンテンツに成功しているのか。このシリーズでは、成功のヒントを韓国コンテンツから紐解きます。第1回目は2021年に大ヒットしたドラマイカゲームについて考えてみたいと思います。
アイキャッチーでアイコニック
イカゲームは、英語にするとsuquid game。このタイトルのわかりやすさは何よりもユニバーサルな表現として、ブーム化しやすい利点があります。実際、イカゲームをモチーフにしたグローバル通貨としてのビットコインが作成され、大問題になったのは記憶に新しいところです。
イカゲームの主催側は、特徴的なピンクの作業服を着ており、それがタイトルのロゴなどにも活かされている。また、初回のゲームとなる、日本で言うところの「だるまさんがころんだ」ゲームでは、本作品の象徴とも言える不気味な少女の人形が登場する。こういったアイコニックなものが多く散りばめられていることで、視覚的な面白さが伝わるのと同時に、言語を必要としないノンバーバルな表現も達成しているのです。
少し前の日本Netflixコンテンツ、「今際の国のアリス」も同じくデスゲーム作品でした。デスゲームの作品は、日本の漫画でヒット作も多いため、日本の得意とする分野でもあります。しかし、今際の国のアリスはゲームやストーリー展開に特徴はありながらも、アイコニックさがないことで、世界でイカゲームほどバズるコンテンツにまでは発展していません。
イカゲームはゲーム参加者も緑色のジャージ姿で統一されています。この緑色のジャージと赤い作業服、少女の殺戮人形コスチュームはハロウィンのタイミングでも爆売れ。また、カルメ焼の型抜きゲームなどは、多くのyoutuberが真似してバズるなど、今の時代にマッチした流行となったのです。
このような二次利用されやすいコンテンツというのは、波及的に多くの機会やメディアを通して、全世界へと発信されていきます。あらゆる形で広告機能を果たし、結果的に元のコンテンツに触れる人が増える。アイキャッチーでアイコニックなポイントを作っておくことが、グローバル市場で勝利する大きな鍵であることは間違いありません。
ストーリー展開の速さと分かりやすさ
最近の流行る音楽には、イントロがほとんどないといいます。コンテンツの瞬発力、つまり開始からどれだけ早く心を掴むか、は今の時代より重要になってきています。イカゲームはすごい速さでゲームが始まり、そしてばったばったと人が死んでいきます。その展開の速さで、次を見たいと思わせる今時のコンテンツスピードを持った作品だと感じます。
ここでも日本のドラマを引き合いに考えてみます。もちろん、日本のドラマも展開が早いものは増えています。デスゲーム作品とともに近年流行っているゾンビドラマの中で、「君と世界が終わる日に」という作品があります。この作品も第一話から衝撃的なストーリー展開が見どころで、日常から非日常へと進むテンポ感は視聴者を惹きつけるところでした。
ただ、日本のドラマはどうしても役者フォーカス、心情フォーカスで、日本人受けしやすい作りになっていると感じます。また、先述の今際の国のアリスにも共通するところですが、言語的な情景補足が必要な場合が多く、映像だけでストーリーを引っ張っていくような、分かりやすさがかけている場合も多いです。
イカゲームはストーリーと展開、ゲームの面白みと分かりやすさを中心にドラマを加速していく魅力があります。もちろん人間ドラマ要素もありますが、そこも普遍的なテーマに設定されており、韓国ドラマとして韓国人に感情移入させるようなプロットではないのです。
リアリティのある設定
イカゲームは冒頭10分ほどで主人公のダメっぷりを知ることになります。闇金から借金をしていて、その返済のためにとんでもないデスゲームに巻き込まれる。そこの理由がきちんと示されることによって、あり得ない設定ながらも、リアルの視点を持って作品にのめり込めます。
日本のデスゲーム系は、若者が突然奇妙なゲームに否応なく巻き込まれるパターンも多く、気づけば別の世界へと飛ばされていた、という設定のものも多い。これはドラマでフィクションである、ということが示されるため、視聴者としてはなんとなく無理矢理な設定に違和感を感じながら観なければならなくなります。
あえて現実味を排除したエンタメ作品も、もちろん面白いものはたくさんあります。例えば、映画「バトルロワイヤル」は、もっともらしいBR法という法律の制定に伴い、高校生にデスゲームを強いるわけですが、映像的な面白さと、そもそもの設定の面白さもあり、そこに違和感を感じる暇もないのです。
ですが映画とは違いドラマは連続していくストーリー。デスゲームとはいえ、そこにリアルがある方が、観客はのめり込みやすいのです。イカゲームでは、今の社会の富裕層と貧困層の格差問題などにも焦点を当てています。普遍的でリアルな課題を共有してくるストーリーライン、これもまたグローバルなコンテンツとして需要が高い理由の一つなのです。
今回取り上げたイカゲームから考えられる、売れるコンテンツの教訓としては以下の3点です。
①Youtuberに取り上げられそうな、アイコニックなものを取り入れること。
キャラクター、ゲーム、衣装でも何か特徴的なものを取り込むのがバズる種になります。
②スピード感と分かりやすさを大切に。
いかに早く心をキャッチするかの重要性は、このサブスク時代には不可欠になっています。また、視覚的にも分かりやすい展開が理想です。
③そしてもう一つはリアリティ。
SFやファンタジーは変わらず人気である一方で、CGやすごい映像慣れした消費者は、逆にリアリティのあるコンテンツの方に引き寄せられているように感じます。あまりに非現実なものより、自分たちの世界と照らし合わせて深掘りができるような、リアリティを持ったものの方が、今の時代にはフィットしそうです。
特に今の消費者が求める「リアルとは何か」というところは、別の考察のしがいがありそうですので、また別の機会に取り上げたいと思います。