ワイヤレスイヤホンを買おう


生まれてからワイヤレスイヤホンを使ったことがない。

なぜ音楽を聴くのにイヤホンを充電せねばならんのか、よく分からないのだ。電気代の不満をぶつけたいわけではない。ただ、電気で動く以上、電池切れの呪縛からは逃れられない。曲中で急に無音になる危険性と隣り合わせなのだ。例えば、Bon Joviの『It’s My Life』でサビの瞬間にイヤホンが燃料切れになってしまえば、恐らく脳内で音が補完されるだろう。あれ、補完されれば問題ないか。一番熱狂的な部分で仕事を怠ったイヤホンへの不満を理路整然と述べるつもりだったが失敗した。頭の中で爆音で鳴らせばいいのだ。音漏れも無い分こちらの方が好ましい。「音が鳴っている」と感じる主体としてのあなたがいればいいのだ。自分からの働きかけを止めてはならない。
iPhoneユーザーではないからエアポッズなるものとも無縁だ。友人が通話で使っているため、声が恐ろしくクリアに聞こえるのは知っている。少し前にワイヤレス対応ヘッドホンを買ったが、落ち着かなくて結局ケーブルを繋ぎはじめてしまった。

イヤホン問題は恋愛においても深刻な点を含んでいる。イヤホンがケーブルでなくなったら、今の中高生は気になる子が音楽を聴いている時に何と声をかけるのか。「片耳貸して」と分岐点から伸びる片割れを共有する感覚を知らないのだろうか。私には見当もつかない。このやり取りが「1個貸して」になると少し滑稽さを感じてしまう。ところが、最近のある恋愛ドラマでは女性が元カレのワイヤレスイヤホンを間違って持ち帰り、自宅でケースに自分のそれが入っていて勘違いに気が付いた、というくだりがあった。大義を得たことで劇中では再開を果たすのだが、これを見るとイヤホンの種別と恋愛はあまり関係がないらしい。ちなみに私は恋愛物に関心があるわけではない。主演が仮面ライダー俳優だから一応目を通しているのだ。Amazonの恋愛リアリティショーを見るのも好きな女優が進行役を務めているからだ。再放送している朝ドラでは出番が少なくなってきた。もっと出してほしい。冒頭のクレジットを敢えて見ないようになった。

この元カレ兼主演のように落としたことに気が付きづらいのもワイヤレスの弊害というか怖さである。線で繋がれていない分、少しの衝撃で耳から離れそうだ。通勤ラッシュで使おうものなら落としたことに気が付けても拾うことは至難の業だろう。片耳だけで売っていればまだ潰しが利きそうだが、一定程度の片耳イヤホン難民が存在する以上、そう上手くは回っていないようだ。その点、有線イヤホンを使っていれば難民になる心配がない。どうしても非有線イヤホンしか持ち合わせがないのであれば、それらに穴をあけて紐を通しておくと、紛失の心配から解放されるだろう。鞄から引っ張っておけばより安全だ。

ここまででだいたい1,000字らしい。今日は例の女優がインスタグラムでランチライブをやっていた。続きを書きたい気持ちをぐっとこらえ、断腸の思いでアーカイブに向かうとしよう。


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