見出し画像

Poem)ところで…

ところで、うちに来たのは何回目かね。
初老の紳士に声をかけられる。
前から入ってみたいと思っていた古いレンガ作りの古本屋。古本屋かどうかは本当のところわからないけれど、店先の棚には今朝の新聞も売っている。

あの、初めてなんです、何度も通りがかってはお訪ねしたいと思っていて。
きみはウインドの白い本を欲しかったのかな。あれは昨日売れてしまったよ。
会話が噛み合わないけれど、気持ちが通じている、
ああ、そうですか、手持ちがなくて迷ってました。
本というのはね、出会わなければならない読み手のところには、必ず届くものだ、
きっと、そのうちまたきみの前に、現れるだろう、あの本は。

初老の紳士は、店の奥に行ってしまった。
レンガ作りの建物は、昭和初期なのだろうか、よく地震に耐えていたなと思いながら、歩きだす、そしてもう一度振り返る。
川の音がやけに大きく聞こえてきて、ああ、やっぱりこれは夢だと、思い。
何度前を通る店だろう、夢でも現でも構わない、私にあの白い本がやってくる日。


#詩   #現代詩

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?