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Poem)“I was thinking about the stones“(※詩と思想『詩人集2019』参加作品)

来る日も来る日も、私は石を集めて歩いた。来る日も来る日も、太陽が上っていった。

山が夜の脇から形を現し、草や木が空へ伸びていった。土の中には細い根が山の血管のように張り巡らされていった。

小石は土の涙のようにこぼれ落ちていた。岩盤は天使が腰を下ろすために用意された。ある日、土砂降りの中を、烏が小石をくわえて羽ばたいた。ひとつ向こうの山へ。鳥は山から山へ移っていく。発芽する種のように小石を運んだ。羽が震わせて浮かび上がらせる空の輪郭を、ふたたび繋ぎあわせるように流れていく風紋に、鳥たちは鳴き声を響かせた。いつからだろう。鳥の意思が聞き取れるような気がしはじめた。空は山を抱え、移ろう感情のように木々の色を変化させた。雨を連れてくるのは空。風を起こすのも空。夕焼けを拡げては山を誘い。空に包まれた山は、毎夜、石の中に恋文を綴った。何万年もの星のような光を貯めていった。

"I was thinking about the stones" 
ある日夢から醒めて、口をついて出た言葉を反芻する。
拾ってきた原石のかけらを、枕元に置いて寝たせいだろうか。石の光の恋文の綴りを教えてもらいたくて、夢の続きを思い出しながら、発光する青い光を空にかざしてみる。羽。その時、大きな羽が太陽を遮るように横切り。その時、石の中に畳まれた羽が拡がり。(視界の外側に見えたのか、石から羽ばたいたのか今となってはよくわからないが)

天使が腰掛けた石には時々たくさんの陽炎のような羽が落ちている。そこに触れるものの内側には、光の雫が宿り。その中に“天使の涙“と言われる石も生まれ、地上の悲しみを拭い去ると伝えられた。

来る日も来る日も、石を集めに行く。小さなヒカリノシズクを手にして、そっと古い街の片隅に灯しておく。



✧詩と思想『詩人集2019』土曜美術社(定価5000円+税)2019.8.31発行日
素敵なアンソロジーです。ぜひどうぞ。
参加作品(398頁)です。書き下ろしです。
Arim 小林万利子

#現代詩 #詩

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