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Poem)「あなたを呼んでみる」(朗読のための詩から)

かつての、漂流物には
まだ誰かの名前があったのだ
それは時の中に沈んでいった静寂、
だったが、
ここに流れる漂流物には
名前が失われていった。
持ち主がいない。
静寂という名前は、
波に波に飲み込まれて行った。

本当は、という言葉の影には、
いくつの真実が眠っていると
いうのだろう。
本当は、と話し出す時、
なだれ込んでくる声に包まれる。
本当は、沈黙。
本当は、影。
本当は、あなた。
本当は、昨日。
本当は空。
本当は、
雨。雨。雨。

雨のレースを潜る。(くぐる)
時間の扉は、通路を開く。
〈本当は、〉
夜ゾラの深い底を称えている道が開く。
開く、開く。
扉は開くためのもの。
誰の意思が扉を閉めるのか。記憶。
雨、雨、雨が開く記憶。
記憶。
キ・お・ク、。

呼び止めるもの、
呼び覚ますもの。
生まれてからずっと、
空が私を見ていたわ。
生まれてからずっと、
空があなたを見ていた。

雨が降りしきる横で、
無記名であったはずの雲が、
顔を出す。
ものの名前を呟きながら、
漂流するものの魂を運んでいきながら。
本当は、
と話し出したくなる朝もやの中で。
あなたを呼んでみる。
呼んで、みる。
みる、…

※ 第9回 朗読カフェ山梨クラムボンにての朗読詩。『山梨クラムボン詩集』より
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#詩 #現代詩 #Arimの詩

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