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代数学の基本定理

代数学の基本定理
 
ガロア理論による方法

複素関数論でLiouville の定理を用いて証明される次の定理がガロア理論ではどのように示されるのかを見る。

 定理(代数学の基本定理) 定数でない$${\mathbb{C}\left[ X \right]}$$に属する多項式は$${\mathbb{C}}$$ に根を持つ。


 
$${\mathbb{Q}}$$ を有理数全体$${\mathbb{R}}$$を実数全体$${\mathbb{C}}$$を 複素数全体とする。
 
体$${L,K}$$ について$${L}$$ は$${K}$$ の拡大体とする。このことを$${L/K}$$と表す。そのとき、$${L}$$ の$${K}$$ 上の線形空間としての次元を
$${\left[ L:K \right]}$$とかき、$${L/K}$$の拡大次数と呼ぶ。
 
$${\left[ L:K \right]\left\{ \begin{matrix}L \\| \\K \\\end{matrix}\right.}$$
(1)$${\left[ L:K \right]\ge 1}$$であり、
$${\left[ L:K \right]=1\Leftrightarrow L=K}$$

(2)$${\left[ L:K \right]<+\infty }$$、$${M}$$ を$${L/K}$$の中間体とする。すなわち、
$${\left[ L:K \right]\left\{ \begin{matrix}L \\| \\M \\| \\K \\\end{matrix}\begin{matrix}{} \\\left[ L:M \right] \\{} \\\left[M:K\right] \\{} \\\end{matrix} \right.}$$
このとき、
$${\left[ L:K \right]=\left[ L:M \right]\left[ M:K \right]}$$
がなりたつ

(3)$${f\left( X \right) \in K\left[ X \right]}$$ を$${K}$$ 上既約とする。
剰余環$${L=K\left[ X \right]/f\left( X \right)}$$とおく。このとき、
$${L}$$は $${K}$$ の拡大体で
$${\left[ L:K \right]=\deg f\left( X \right)}$$
が成り立つ。($${L/K}$$は代数拡大という)


 
$${K}$$ を$${{{\mathbb{R}}^{{}}}}$$ の拡大体とする。
 
 
主張1: $${\left[ K:\mathbb{R} \right]=2}$$$${\Rightarrow }$$$${K=\mathbb{C}}$$
証明)
$${\left[ K:\mathbb{R} \right]=2}$$であるから$${K\ne \mathbb{R}}$$したがって$${\beta \in K\backslash \mathbb{R}}$$となるものが存在する。このとき、$${\left[ \mathbb{R}\left( \beta \right):\mathbb{R} \right]=2}$$である。$${\beta }$$はある2次方程式$${a{{X}^{2}}+bX+c\in \mathbb{R}\left[ X \right]}$$の根であるが、実数でない。したがって2次方程式判別式は
$${{{b}^{2}}-4ac<0}$$。そして$${\beta =\frac{-b\pm i\sqrt{4ac-{{b}^{2}}}}{2a}}$$である。
これを$${i}$$について解いて
$${i=\frac{2a\beta +b}{\pm \sqrt{4ac-{{b}^{2}}}}\in \mathbb{R}\left( \beta \right)=K}$$
がわかる。これから
$${\mathbb{C}=\mathbb{R}\left( i \right)\subset K}$$
となる。
$${\left[ \mathbb{C}:\mathbb{R} \right]=2}$$であるから
$${\left[ K:\mathbb{R} \right]=\left[ K:\mathbb{C} \right]\left[ \mathbb{C}:\mathbb{R} \right]}$$より$${\left[ K:\mathbb{C} \right]=1}$$ がえられるので$${K=\mathbb{C}}$$でなければならない▆
 
主張2:$${\left[ K:\mathbb{C} \right]=2}$$はありえない
証明)$${\left[ K:\mathbb{C} \right]=2}$$は$${K\ne \mathbb{C}}$$を意味するので、$${\zeta \in K\backslash \mathbb{C}}$$がとれる。このことから矛盾をひきだそう。$${\zeta }$$は2次方程式の根である。その2次方程式を
$${\alpha {{X}^{2}}+\beta X+\gamma \in \mathbb{C}\left[ X \right]}$$ とおく。つまり、
$${\zeta =\frac{-\beta \pm \sqrt{{{\beta }^{2}}-4\alpha \gamma }}{2\alpha }}$$ である。ところが、$${a,b\in \mathbb{R}}$$にたいして、
$${\sqrt{a+bi}=\sqrt{\frac{\sqrt{{{a}^{2}}+{{b}^{2}}}+a}{2}}+i\sqrt{\frac{\sqrt{{{a}^{2}}+{{b}^{2}}}-a}{2}}}$$
とおける、つまり複素数の平方根がまた複素数になることから$${\zeta \in \mathbb{C}}$$でなければならない。これは、$${\zeta \in K\backslash \mathbb{C}}$$という事実に矛盾する。▆
 
主張3:$${\left[ K:\mathbb{R} \right]}$$が奇数$${\Rightarrow }$$$${K=\mathbb{R}}$$
証明$${\gamma \in K}$$をとる。$${\left[ K:\mathbb{R} \right]=\left[ K:\mathbb{R}\left( \gamma \right) \right]\left[ \mathbb{R}\left( \gamma \right):\mathbb{R} \right]}$$において、$${\left[ \mathbb{R}\left( \gamma \right):\mathbb{R} \right]}$$ は奇数でなければならない。代数拡大$${\mathbb{R}\left( \gamma \right)/\mathbb{R}}$$を実現する最小多項式を$${{{\Phi }_{\gamma ,\mathbb{R}}}\left( X \right)}$$ とすると $${\deg {{\Phi }_{\gamma,\mathbb{R}}}\left( X \right)=\left[ \mathbb{R}\left( \gamma \right):\mathbb{R} \right]}$$は奇数である。奇数次の多項式は必ず実数根を持つ($${\because }$$$${\underset{X\to -\infty }{\mathop{\lim }}\,{{\Phi }_{\gamma,\mathbb{R}}}\left( X \right)=-\infty }$$かつ$${\underset{X\to \infty }{\mathop{\lim }}\,{{\Phi }_{\gamma,\mathbb{R}}}\left( X \right)=\infty }$$であることと中間値の定理よりどこかでゼロになる)最小多項式は既約多項式で、ゼロを持つ既約多項式は1次式しかない
つまり、$${{{\Phi }_{\gamma,\mathbb{R}}}\left( X \right)=\left( X-\gamma \right)\in \mathbb{R}\left[ X \right]}$$となり$${\gamma \in \mathbb{R}}$$ である。$${\forall \gamma \in K\Rightarrow \gamma \in \mathbb{R}}$$
より、$${K=\mathbb{R}}$$となった。▆


そこで次の定理を証明しよう。これが証明されると、最初にのべた代数の基本定理が示されたことになる。

定理:$${\alpha }$$ を$${\mathbb{R}}$$上代数的とする。そのとき、$${\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{R}}$$ か$${\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{C}}$$のいずれかがなりたつ。


 
証明)$${\alpha \in \mathbb{R}}$$のときは、$${\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{R}}$$であるから定理は正しい。そこで、$${\alpha \notin \mathbb{R}}$$であるとする、すなわち$${\mathbb{R}\left( \alpha \right)\ne \mathbb{R}}$$と仮定して$${\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{C}}$$を証明する。主張3より、$${\left[ \mathbb{R}\left( \alpha \right):\mathbb{R} \right]}$$ は偶数でなければならない。
 
いま、$${K}$$を$${\alpha }$$ を含む$${\mathbb{R}}$$のガロア拡大とする。$${\left[ K:\mathbb{R} \right]=\left[ K:\mathbb{R}\left( \alpha \right) \right]\left[ \mathbb{R}\left( \alpha \right):\mathbb{R} \right]}$$より
$${\left[ K:\mathbb{R} \right]}$$は偶数である。ガロア拡大の定義、$${\#Gal\left( K/\mathbb{R} \right)=\left[ K:\mathbb{R} \right]}$$であるから、
$${\#Gal\left( K/\mathbb{R} \right)={{2}^{e}}m}$$、ただし、$${e\ge 1}$$であり$${m}$$は奇数である。Sylowの定理より、$${Gal\left( K/\mathbb{R} \right)}$$の2-Sylow部分群$${H}$$を見つけることができる。すなわち、
$${H\subset Gal\left( K/\mathbb{R} \right)}$$ 、$${\#H={{2}^{e}}}$$
$${H}$$ の固定体$${{{K}^{H}}}$$をかんがえる。
 

$${\left[ K:\mathbb{R} \right]={{2}^{e}}m\left\{ \begin{matrix}K \\| \\{{K}^{H}} \\| \\\mathbb{R} \\\end{matrix} \right.\begin{matrix}{} \\\,\,\,\,\,\,\}\left[ K:{{K}^{H}} \right]=\#H={{2}^{e}} \\{} \\\}\left[ {{K}^{H}}:\mathbb{R} \right]=m \\{} \\\end{matrix}}$$


 
上図で、
$${\left[ {{K}^{H}}:\mathbb{R} \right]=\frac{\left[ K:\mathbb{R} \right]}{\left[ K:{{K}^{H}} \right]}=\frac{\#Gal\left( K/\mathbb{R} \right)}{\#H}=m}$$
が奇数であるということがキーポイントとなる。すなわち主張3により、$${{{K}^{H}}=\mathbb{R}}$$ となり上図はつぎのように圧縮されてしまう。
 

$${\begin{matrix}K \\| \\\mathbb{R} \\\end{matrix}{{2}^{e}}}$$

   $${\left[ K:\mathbb{R} \right]=\#Gal\left( K/\mathbb{R} \right)={{2}^{e}}}$$

ここで、$${e=1}$$ の場合には、主張1より$${K=\mathbb{C}}$$となり$${\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{C}}$$ となる。
したがって、$${e\ge 2}$$から矛盾を導けば証明がおわったことになる。
 $${{e\ge 2}}$$と仮定しよう。群$${{Gal\left( K/\mathbb{R} \right)}}$$は位数が$${{{{2}^{e}}}}$$ である。したがって位数が$${{{{2}^{e-1}}}}$$の部分群ん$${{{{H}_{1}}}}$$を含む。また、$${{{{H}_{1}}}}$$は位数 $${{{{2}^{e-2}}}}$$ の部分群$${{{{H}_{2}}}}$$を含む。
結局体の系列のタワー

$${{\begin{matrix}K \\| \\{{K}^{{{H}_{2}}}} \\{{|}_{2}} \\{{K}^{{{H}_{1}}}} \\{{|}_{2}} \\\mathbb{R} \\\end{matrix}}}$$

は 
$${{\left[ {{K}^{{{H}_{2}}}}:{{K}^{{{H}_{1}}}} \right]=\frac{\left[ K:{{K}^{{{H}_{1}}}} \right]}{\left[ K:{{K}^{{{H}_{2}}}} \right]}}}$$$${{=\frac{\#{{H}_{1}}}{\#{{H}_{2}}}=\frac{{{2}^{e-1}}}{{{2}^{e-2}}}=2}}$$$${{\left[ {{K}^{{{H}_{1}}}}:\mathbb{R} \right]=\frac{\left[ K:\mathbb{R} \right]}{\left[ K:{{K}^{{{H}_{1}}}} \right]}}}$$$${{=\frac{\#Gal\left( K/\mathbb{R} \right)}{\#{{H}_{1}}}=\frac{{{2}^{e}}}{{{2}^{e-1}}}=2}}$$
$${{\left[ {{K}^{{{H}_{1}}}}:\mathbb{R} \right]=2}}$$であるから主張1により、$${{{{K}^{{{H}_{1}}}}=\mathbb{C}}}$$ 。したがって、$${{\left[ {{K}^{{{H}_{2}}}}:{{K}^{{{H}_{1}}}} \right]=\left[ {{K}^{{{H}_{2}}}}:\mathbb{C} \right]=2}}$$これは主張2と矛盾する。これで証明はおわり▆
 表題の定理は次を示せば良い。
定数関数でない多項式$${{f\left( X \right)\in \mathbb{C}\left[ X \right]}}$$ は$${{\mathbb{C}}}$$に根をもつ。

$${{f\left( X \right)={{a}_{0}}+{{a}_{1}}X+\cdots +{{a}_{n}}X^{n}}}$$にたいして、係数の複素共役をとってつくった多項式$${{\bar{f}\left( X \right)={{\bar{a}}_{0}}+{{\bar{a}}_{1}}X+\cdots +{{\bar{a}}_{n}}X^{n}\in \mathbb{C}\left[ X \right]}}$$とする。
$${{g\left( X \right)=f\left( X \right)\bar{f}\left( X \right)}}$$ は実数値をとる多項式である。$${{\alpha }}$$ を $${{\mathbb{R}}}$$ の上での$${{g\left( X \right)}}$$ の分解体における$${{g\left( X \right)}}$$の根とする。$${{\alpha }}$$は$${{\mathbb{R}}}$$のうえで代数的であるから定理より、$${{\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{R}}}$$ または$${{\mathbb{R}\left( \alpha \right)=\mathbb{C}}}$$であるがいずれにせよ$${{\alpha \in \mathbb{C}}}$$である。そして、$${{0=g\left( \alpha \right)=f\left( \alpha \right)\bar{f}\left( \alpha \right)}}$$。したがって $${{f\left( \alpha \right)=0}}$$または$${{\bar{f}\left( \alpha \right)=0}}$$。
$${{f\left( \alpha \right)=0}}$$のばあいは$${{\alpha \in \mathbb{C}}}$$が$${{f\left( X \right)}}$$の根。$${{\bar{f}\left( \alpha \right)=0}}$$のばあいは$${{\bar{\alpha }\in \mathbb{C}}}$$が$${{f\left( X \right)}}$$の根である。


実数体を複素数体へと拡大していく過程は、実数では根が見いだせなかったものが複素数というより階層が上の体において根が見いだせるという自然な理解を与えてくれる。
任意の多項式に対する最小分解体が存在すること、奇数次の実数係数の多項式は実根を持つこと、複素数は常にその平方根を持つことなどの事実を用いた。しかし、実数体から複素数体にいたる体の拡大、ガロア拡大という思想を獲得するにはガロア群のヒエラルキーとの対応関係を考える必要がある。最後にはガロア群が決定的な役割を果たしている。

 

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