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ブラシュケの楕円

定理:$${B\left( z \right)=z\frac{\left( z-a \right)\left( z-b \right)}{\left( 1-\bar{a}z \right)\left( 1-\bar{b}z \right)}}$$
$${\left| a \right|<1,\left| b \right|<1}$$
を考える。 $${\left| \lambda \right|=1}$$ にたいして、$${B\left( z \right)=\lambda }$$をみたす3点$${z=}$$$${{{z}_{1}},{{z}_{2}},{{z}_{3}}}$$をとる。$${{{z}_{j}}}$$ と$${{{z}_{k}}}$$($${j\ne k}$$) を結ぶ直線は楕円$${\left| w-a \right|+\left| w-b \right|=\left| 1-\bar{a}b \right|}$$にたいする接線である


 
上であたえた3次のブラシュケ積において$${B\left( z \right)=\lambda }$$ 、$${\left| \lambda \right|=1}$$ をみたす 3点$${z=}$$$${{{z}_{1}},{{z}_{2}},{{z}_{3}}}$$ を円周上にとると。上で与えた$${B\left( z \right)}$$ の2つのゼロ点$${a,b}$$ を焦点とする楕円への接線で作る3角形をみつけることができる。



この円にふくまれる楕円はポンスレの定理をみたしている。すなわち、

ポンスレの定理:
2つの楕円$${E,F}$$が下のような配置でおかれている。$${F}$$ の上の任意の点からはじめて、$${E}$$ に接線をひくと$${F}$$ の上の別の点にぶつかる。その新たな点からまた先のとは違う接線をひく。そしてふたたび、$${F}$$ 上の新たな点をみつける。不思議なことに、これを繰り返すと最初の点にもどる。
 

 
 


 勝手な点から初めて、上のような操作をして、最初の点にもどるというのは、$${E}$$と$${F}$$ のお互いの配置が関係している。最初の点に戻ることがわかった場合は、初期点の選び方に無関係に戻る。戻らない場合は初期点をどのように選んでも戻らない。また戻るときにはこの場合n=5ステップで戻るが、このnというのは不変数である。このような状況は、楕円に限らず2つの2次曲線がある配置に置かれており、いったんn角形がつくられると、外側の点はどこから始めてもn角形を作るという不変的な性質である。これを一般的に述べるには射影幾何学が必要となる。ポンスレはナポレオンの軍隊に所属しロシアへの遠征に参加したが、捕虜となり収容所で射影幾何学の研究をしたそうである。

しかし、ふしぎなことにこのポンスレの定理は幾何学とは全く別の所に顔を出す。台湾の数学者らによる
H.L.Gauand P.Y.Wu
Numerical range and Poncelet property,Taiwanese J.Math,7(2003),no.2,173-193
は衝撃であった。数域という関数空間での話題に幾何学が飛び込んできたから。

n=3の場合を考えていこう。
 
1.数域での記述
ポンスレの定理に現れる楕円は数域(numerical range)の周囲としてあらわれる。
$${A}$$を$${n\times n}$$行列とする。$${W\left( A \right)=\left\{ \left( Ax,x \right):x\in {{\mathbb{C}}^{n}},\left\| x \right\|=1 \right\}}$$ を$${A}$$ の数域と呼ぶ。
例1.

$${A=\left( \begin{matrix} 0 & 1 \\0 & 0 \\\end{matrix} \right)}$$
$${x=\left[ \begin{matrix}{{z}_{1}} \\{{z}_{2}} \\\end{matrix} \right]}$$
とすると、
$${Ax=\left[ \begin{matrix}{{z}_{2}} \\0 \\\end{matrix} \right]}$$
であるから、

$${W\left( A \right)=\left( Ax,x \right)=\left( \left[ \begin{matrix}{{z}_{2}} \\0 \\\end{matrix} \right],\left[ \begin{matrix}{{z}_{1}} \\{{z}_{2}} \\\end{matrix} \right] \right)={{z}_{1}}{{z}_{2}}}$$
となる。$${1=\left\| x \right\|={{\left| {{z}_{1}} \right|}^{2}}+{{\left| {{z}_{2}} \right|}^{2}}}$$ より、
$${{{z}_{1}}=r{{e}^{i\theta }}}$$,$${0\le r\le 1}$$とおくと
$${{{z}_{2}}=\sqrt{1-{{r}^{2}}}{{e}^{i\varphi }}}$$ とかける。
したがって、$${{{z}_{1}}{{z}_{2}}=r\sqrt{1-{{r}^{2}}}{{e}^{i\left( \theta -\varphi \right)}}}$$
となる。$${x=r,y=\sqrt{1-{{r}^{2}}}}$$とおけば、$${2xy\le {{x}^{2}}+{{y}^{2}}}$$ をつかうと
$${0\le r\sqrt{1-{{r}^{2}}}\le \frac{1}{2}}$$ となる。ここで、$${r}$$を$${0}$$ から$${1}$$ まで動かせば$${0}$$から$${1/2}$$の値をすべてとる(2回とる)。$${\theta ,\varphi }$$ は任意にとれるので、$${W\left( A \right)}$$は$${0}$$を中心、半径 $${1/2}$$の円(円周とその内部全部)ポンスレの楕円はこの場合$${W\left( A \right)}$$の周囲で半径 $${1/2}$$の円の周囲ということになる。
それではブラシュケ積ではどうか、今の場合
$${a=b=0}$$であるから
$${B\left( z \right)=z\frac{\left( z-a \right)\left( z-b \right)}{\left( 1-\bar{a}z \right)\left( 1-\bar{b}z \right)}={{z}^{3}}}$$。
したがって、$${\lambda =1}$$とすると$${B\left( z \right)=\lambda }$$の解は
$${{{z}_{1}}=1,{{z}_{2}}={{e}^{\frac{2i\pi }{3}}},{{z}_{3}}={{e}^{\frac{4i\pi }{3}}}}$$となる。そして、楕円は焦点が$${a=b=0}$$なので0を中心とする円となる。じっさい$${\left| w-a \right|+\left| w-b \right|=\left| 1-\bar{a}b \right|}$$は$${\left| w \right|=1/2}$$ となる。つまり半径が$${1/2}$$ の円である。

 


 
 
例2

$${A=\left[ \begin{matrix}0 & \sqrt{3}/2 \\0 & 1/2 \\\end{matrix} \right]}$$

上と同じように計算すると、
$${W\left( A \right)=\frac{\sqrt{3}}{2}{{z}_{1}}{{z}_{2}}+\frac{1}{2}z_{2}^{2}}$$となる。
 これは、単位円に包まれる楕円で、$${0}$$ と$${\frac{1}{2}}$$ を焦点とし、短軸の長さ$${\frac{\sqrt{3}}{2}}$$、長軸の長さ1の楕円であることが示される。

 
次の定理からも同じ結果を得ることができる。。
 
Elliptical range theorem:

定理 $${A}$$ を複素数を成分とする$${2\times 2}$$行列でその固有値を$${{{\lambda }_{1}},{{\lambda }_{2}}}$$ とする。$${A}$$の数域は$${{{\lambda }_{1}}}$$ と$${{{\lambda }_{2}}}$$ を焦点とする楕円とその内部(楕円盤)である。また、楕円の短軸の長さは$${2r={{\left\{ tr\left( {{A}^{*}}A \right)-{{\left| {{\lambda }_{1}} \right|}^{2}}-{{\left| {{\lambda }_{2}} \right|}^{2}} \right\}}^{1/2}}}$$ であり長軸の長さは$${2R=\sqrt{{{\left| {{\lambda }_{2}}-{{\lambda }_{1}} \right|}^{2}}+4{{r}^{2}}}}$$である。
 

Chi Kwong Li, A simple proof of the Elliptical Range Theorem,ProceedingA.M.S.vol.124, 1996

この定理を使って計算してみよう
$${A=\left[ \begin{matrix}0 & \sqrt{3}/2 \\0 & 1/2 \\\end{matrix} \right]}$$

の固有方程式が$${t\left( t-\frac{1}{2} \right)=0}$$となるので
固有値は$${{{\lambda }_{1}}=0}$$$${{{\lambda }_{2}}=\frac{1}{2}}$$
$${{{A}^{*}}A=\left[ \begin{matrix}0 & 0 \\0 & 1 \\\end{matrix} \right]}$$より、
$${2r={{\left( 1-0-\frac{1}{4} \right)}^{1/2}}=\frac{\sqrt{3}}{2}}$$、$${2R=\sqrt{1/4+3/4}=1}$$
したがって、ポンスレの楕円は焦点が$${0}$$と$${\frac{1}{2}}$$で短軸の長さ$${\frac{\sqrt{3}}{2}}$$長軸の長さは1である。
 
さてブラシュケ積$${B\left( z \right)=z\frac{\left( z-a \right)\left( z-b \right)}{\left( 1-\bar{a}z \right)\left( 1-\bar{b}z \right)}}$$では$${a=0,b=\frac{1}{2}}$$を代入して
$${B\left( z \right)=\frac{{{z}^{2}}\left( z-1/2 \right)}{1-\frac{z}{2}}}$$
となる。$${B\left( z \right)=\lambda }$$において$${\lambda =1}$$とすると、
$${{{z}^{2}}\left( z-\frac{1}{2} \right)=1-\frac{z}{2}}$$
となり、この3次方程式の解は
$${{{z}_{1}}=1,{{z}_{2}},{{z}_{3}}=\frac{-1\pm i\sqrt{3}}{4}}$$
をえるがこれは次の図で$${{{w}_{1}},{{w}_{2}},{{w}_{3}}}$$ として表れている。

 


 
結局、数域を用いればポンスレの楕円がみつかり、ブラシュケ積
$${B\left( z \right)=\lambda ={{e}^{i\theta }}}$$ からも、えられる3次方程式の解として円周上の3点を見つけて、この3点を結んでできる3角形を$${{T}_{ \lambda }}$$とおくと、$${\bigcap\limits_{\lambda \in \mathbb{T}}{{{T}_{\lambda }}}}$$が ブラシュケの楕円となる。


3角形を一般化してn角形の場合もどうような考えを進めていくことができるが計算はめんどうなようである。
 
 
 

Finding Ellipes U.Daepp,P.Gofkin,A.Shaffer,K.Voss
MAA PRESS,American Mathe Society
The Carus Mathematical Monographs, vol.34

 
ポンスレの定理の詳細を以下のwebpageにてみることができる。

Poring over Poncelet

http://olivernash.org/2018/07/08/poring-over-poncelet/index.html

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