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物理書籍版「ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ」感想

 平成最後の日に発売された、ニンジャスレイヤー・トリロジーを締めくくる第3部最終章「ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ」の物理書籍版について、主にTwitter連載版との比較を中心として感想を書く。ネタバレを含むので未読の方は注意されたい。

 全体の流れはTwitter連載版とほぼ同じで、例えばニンジャスレイヤーがシャトルにしがみつく前に連戦をこなしたりすることはない。第3部終了後の原作者とのIRCセッションではデッドムーンが参戦することも仄めかされていたが、結局彼は登場していないし、ニンジャスレイヤープラスにて公開された【オハカ・エピタフ】のモノローグが組み込まれることもなかった。そのため劇的に変わった部分は殆どないのだが、描写が足りなかったり分かりにくかった箇所は丁寧に補足されており、読みやすさが格段に上がっている。特に、各陣営がどのような思惑で行動しているのかがきちんと示されており、それらの動きについて疑問が浮かぶことなくスラスラ読んでいけるのが良い。

 Twitter連載版では第3部最終章に入る前に「鷲の翼編」というプレシーズンエピソード群が連載されていたが、書籍版には未収録となっている(追補編希望!)ため、一体どうするのだろうと思っていたが、口絵にあらすじを載せることによって強行突破していたので笑ってしまった。とはいえ状況の説明を簡潔に済ませてすぐに本題へと入っていくテンポ感はある種の小気味良さもあり、そもそもニンジャスレイヤーが「これまでのあらすじ」から始まる作品であることも含めて考えるとこれはこれで有りなのかもしれない。しかし「ラオモト・チバが傭兵部隊を雇ってアマクダリから離反し第三勢力になったこと」については流石に描写外で話が進み過ぎた感は否めないか。一方で、鷲の翼編で言及されなかった結果、最終章での行動にやや唐突感があったサヴァイヴァー・ドージョーについては「ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ」から直に繋がる分、違和感がさほどなかったのは怪我の功名だと思う。なお、忍殺Tについてはそもそも最終決戦に関わっていない(そこに良さがあるのだが)こともあってか一切説明されておらず、その結果として忍殺Tを被った男が唐突にPOPする展開になっており色々とヤバい。

 加筆修正はどれもツボを押さえていて良い仕事だと思う。特に湾岸警備隊周りの加筆が非常に素晴らしい。ヘヴィレインのオリジンエピソードである「サンセット・アンド・ヘヴィレイン」が書籍版に収録されていないので、彼のキャラを立てるために用意したと思われるが、これによって湾岸警備隊の結束力が強調されており、故にその後のアマクダリの戦線崩壊とヘヴィレインの敗走に絶望感が生まれる作りになっているのは見事と言う他ない。Twitter連載版では気付いたらダークニンジャに首を刎ねられていたアルデバランの出番が大幅に増えているのも嬉しい。ストーンコールドも「デイドリーム・ネイション」が書籍版に未収録となったことで「死に場所」を失った結果、最終章に登場することとなったのだが、呪いを受けた身でなお八面六臂の活躍を見せていてひたすら格好良い。特に最後のハーヴェスターとのやり取りは敵ながら泣ける。
 Twitter連載時では描写が少ないとの声も上がっていたトランスペアレントクィリンとホワイトドラゴンについては相当書き足されるかと思ったが、クィリンのイクサの解像度が上がった程度でそこまで大きな変化はなかった。この二人は第3部全体を通して引っ張ってきたキャラなので疎かに出来ない一方で、ニンジャスレイヤーとアガメムノンの最終決戦より目立たせてしまうわけにもいかないし、実際難しい話だがこの辺が落とし所なのだと思う。
 他の好きな加筆修正箇所は、カスミガセキ・ジグラット前の大通りで繰り広げられるザイバツと湾岸警備隊の疾走感溢れるイクサ、スカラムーシュの台詞の変更、フィルギアとコヨイ・シノノメの台詞の追加、ユンコ・スズキとモーターオムラの関係性についての補足など。それと物凄く細かいが、サイレントキルが独力でパーガトリーにダメージを与えたのはアマクダリ・アクシスの意地が表れているようで地味に気に入っている。

 気になった点として、ネヴァーダイズではパトリアークやスコージなど、出てきたはいいがその後の行方が分からないニンジャが散見されるのだが、イスパイアルの爆発四散が明言された程度でその辺のフォローがあまりされていないのは少し残念。キルスウィッチは第4部で再登場すると信じてもいいですよね……?

 総じて、Twitter連載版のグルーヴ感はそのまま残した上で丁寧に作り込んだ一冊と評価出来るように思う。第3部は書籍版に未収録のエピソードが多く、「モータードリヴン・ブルース」や「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」といった名作が収録されないことに歯がゆさを覚えることもあったが、それでも一度は死んだフジキドが再び生者として蘇るまでの物語をしっかりと完結させてくれたボンド&モーゼズとダイハードテイルズに、改めて感謝の言葉を伝えたい。

 ネヴァーダイズは最初から最後まで大好きなエピソードだが、「死者の忘却」を何よりも許せなかったフジキドとナラクが共に戦いを挑んだ果てに、生者と死者が手を取り合うオーボン・フェスで物語が締めくくられる流れは何度読んでも胸が熱くなる。第4部でも、オーボン・フェスは経済活動に組み込まれる形で存続しているらしい。経済効果をもたらすが故に続けられているというのはいかにもネオサイタマらしくて笑ってしまうけれど、一方でフジキドやシノブの願いも確かに叶えられているのが、とても好きだ。

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オマーク(OMAKE)

【第3部の追補編を勝手に作ってみるコーナー】

「ネオサイタマ・アウトロウズ」(Neo-Saitama Outlaws)
・「ザ・ドランクン・アンド・ストレイド」
・「マスカレイド・オブ・ニンジャ」
・「ニンジャズ・デン」
・「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」
・「ニンジャ・サルベイション」
・「ノー・ワン・ゼア」(ボーナストラック)

解説:「ザ・ドランクン・アンド・ストレイド」「マスカレイド・オブ・ニンジャ」「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」は「仮面」が出てくるエピソード繋がり。「デッド・バレット~」と「ニンジャ・サルベイション」は共に「救済」をテーマに据えた話なので一冊に収録したい所。「ノー・ワン・ゼア」は時系列上では第1部にあたるが、個人的にオールタイムベスト級の名短編なのでボーナストラック扱いで無理矢理ねじ込んだ。

「ネオサイタマ・アウトロウズ Vol. 2」(Neo-Saitama Outlaws Vol. 2)
・「フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ」
・「アーバン・レジェンド・アブナイ」
・「ネオサイタマ・シティ・コップス」
・「ゴッドハンド・ザ・スモトリ」
・「アンエクスペクテッド・ゲスト」

解説:オープニングの「フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ」におけるモータルが活躍する展開が「アンエクスペクテッド・ゲスト」へと繋がっていく構成。「ゴッドハンド・ザ・スモトリ」は基本的に他のエピソードとは関係ないが、ヨロシサン製薬が登場するので一応の繋がりはある。やや毛色が異なるものの、フジキドが苦悩する裏でモータルの弱さと強かさが描かれる傑作「ソイ・ディヴィジョン」も入るなら追加したい。

「プレリュード・トゥ・ザ・ロンゲスト・デイ」(Prelude to "The Longest Day")
・「センスレス・アクツ」
・「バトル・オブ・ザ・ネスト」
・「デス・トラップ、スーサイド・ラップ」
・「ニチョーム・ウォー……ビギニング」
・「ハウス・オブ・サファリング」
・「モータードリヴン・ブルース」
・「オイランドロイド・アンド・アンドロイド」

解説:「モータードリヴン・ブルース」は開戦前のエピソードだが、「オイランドロイド・アンド・アンドロイド」と対になる話でもあるのでここに入れても良いと思う。「バトル・オブ・ザ・ネスト」は初めて読んだ時は何だこりゃという感想だったが、アマクダリが下部組織を整理していた時期の話ではないかという考察を見て、それを踏まえた上で読み直したら初読時とは打って変わってサツバツ・ノワールな作品のように見えて驚いた。

【ヴェニヴィディヴィシの軌跡】

Twitter連載版:

・「ローマ・ノン・フイト・ウナ・ディエ」におけるニンジャスレイヤーのソーマト・リコール中に名前が出る
順当に読めば、ニンジャスレイヤーはセンチュリオンを倒す前にヴェニヴィディヴィシと交戦したことになる

・「ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ」にて登場(?)
上記二点から、ヴェニヴィディヴィシは第1部~第2部初期(「モータル・ニンジャ・レジスター」以前)の間にニンジャスレイヤーと交戦して生き延び、第3部最終章まで生存していたことになる

・第3部終了後に行われた原作者とのIRCセッションにて、「なぜニンジャスレイヤーはヴェニヴィディヴィシを知っていたのか」という質問に対して「(直接いまテキストにあたっていないので明言は避けるが)おそらく単純なミスだと思う」との回答がなされる
この質疑応答を受けて考えられる可能性は二つ
1.ニンジャスレイヤーがセンチュリオンより後に思い出した古代ローマカラテ使いは本来ヴェニヴィディヴィシとは別の人物だったが、取り違えが生じてしまった
2.ニンジャスレイヤーが思い出せる古代ローマカラテ使いはセンチュリオンが最後であり、ヴェニヴィディヴィシは単に何らかのミスで紛れ込んでしまっただけだった

物理書籍版:

・「ローマ・ノン・フイト・ウナ・ディエ」におけるニンジャスレイヤーのソーマト・リコール中に名前が出る
この時点で先に挙げた二つの可能性はなくなるため、前述の質疑応答とは矛盾する形になる

「ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ」では彼の代わりに「フラウィウスウァレリウスセウェルス」というニンジャが登場(?)
上記二点から、書籍版におけるヴェニヴィディヴィシはニンジャスレイヤーと交戦はしたもののそこで爆発四散したか、あるいは生き延びられても第3部最終章までは生存出来なかったと結論付けられる

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