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Egg「Egg」レビュー

カンタベリー・ロック(カンタベリー系)の概要については、「カンタベリー・ロックシーンを整理する」を参照してください。
1st Album
Release Date: 1970
Personnel:
Dave Stewart - Keyboards
Mont Campbell - Bass, Vocals
Clive Brooks - Drums

 エッグ / Eggはロンドン出身のバンドであり、地理的には本来カンタベリーとは関係ないのだが、メンバーのデイヴ・スチュワートモント・キャンベルが後にカンタベリー・ロックシーンと合流するため、このバンドも遡る形でカンタベリー系の一派とされている。エッグの音楽性は変拍子の多用やクラシックの大胆な引用など実験的な要素が強く、彼等とワイルド・フラワーズ / The Wilde Flowers一派の邂逅はシーンにさらなる深みを与えたといえるだろう。エッグは現代の感覚からするとキーボード等の音が時代がかって聴こえる所があり、特にオルガンロックに馴染みの薄い方にはやや取っ付きにくい音楽のように感じられるかもしれないが、カンタベリー・ロックのファンとしてはぜひこのバンドも押さえていただきたいと思う。

 エッグは元々ユリエル / Urielという名前で活動していたが、ギタリストのスティーヴ・ヒレッジが脱退したためキーボードトリオとして名を改め再出発する。そして制作されたのが1stアルバム「Egg」だが、ギターが抜けた穴は一切感じられず、キーボードを主軸に据えたロックバンドとして完璧に仕上がっている。さて、キーボードトリオの代表格といえば俗に言う「五大プログレバンド」の一角であるエマーソン、レイク&パーマー / Emerson, Lake & Palmerだが、このアルバムの音楽性は彼等の作品とは違い、全体的に冷ややかな感触があるのが特徴といえる。スチュワートのキーボードプレイは後年の演奏に比べるとかなりストレートなスタイルだが、キース・エマーソンのようにエモーショナルに燃え上がるのではなく、曲によってはクールな表情も見せているのが彼らしい。

 楽曲はキャンベルの実験精神が反映されたと思しき複雑なナンバーがずらりと並ぶ。変拍子も当然の如く組み込まれており、これが1stアルバムとは思えないほど挑戦的な内容である。とはいえ決して難易度が高い音楽ではなく、特に「While Growing My Hair」や「I Will Be Absorbed」といった歌モノは実験的な試み云々を抜きにして純粋にクオリティが高い。特に「I Will Be Absorbed」は自分の中ではカンタベリー・ロックを代表する名曲の一つであり、エッグの歌モノはもっと評価されても良いと思う。トーン・ジェネレータの多用にはやや食傷する所もあるが、作品の出来を毀損するほどではない。総じてエッグというバンドの方針が分かりやすく示された佳作といえるだろう。個人的には、2ndアルバム「The Polite Force」よりも本作品の方が洗練された雰囲気を持っているように感じるのが興味深い。

PICK UP

03. I Will Be Absorbed

If I ever find
What I'm looking for
I will be absorbed
And never write again

 変拍子ポップの名曲。場面ごとに拍子が次々と切り替わっていくにも関わらず、曲として破綻することなく一貫してメロディアスな旋律を聴かせるのは流石。キャンベルのボーカルはロバート・ワイアットリチャード・シンクレアの陰に隠れがちだが、ノーブルな声質で個人的にはかなり好みである。

04. Fugue In D Minor
 
ヨハン・ゼバスティアン・バッハの「トッカータとフーガニ短調」のカバー。他の曲に比べるとあまり捻ったアレンジではなく、原曲をそのままキーボードトリオの編成で演奏してみたといった風情だが、この時代においてはクラシックをロックのフィールドに持ち込むことそれ自体が先進的であったということは補足しておきたい。

05. They Laughed When I Sat Down At The Piano...
 
ピアノの独奏にトーン・ジェネレータが重なるジョークソングめいた曲。トーン・ジェネレータの音はまるで聴衆が演奏を嘲り笑う様を表したかのような響きであり、エッグというバンドの在り方を俯瞰してシニカルに描いたのではないかとも思ってしまうが、これは流石に深読みだろうか。

06. The Song Of McGillicudie The Pusillanimous (Or Don't Worry James, Your Socks Are Hanging In The Coal Cellar With Thomas)
 タイトルが長い。
リズムを強調したハードロックで、切迫感溢れる曲調が格好良い佳曲。クライブ・ブルックスのドラムプレイは時として変拍子のガイダンスかと思うほどカッチリしているのが特徴的だが、この曲にはその硬質な演奏がマッチしている。

08-12. Symphony No. 2
 レコード時代のB面全てを埋めていた全4楽章の組曲。その内容はスチュワートが二十数分に渡ってひたすらキーボードを弾き倒すというものだが、巧みに緩急が付けられており殆どダレずに聴き通すことが出来る所にスチュワートの天才ぶりが表れている。特に、猛烈な勢いでスタートした演奏がジャジーなオルガンソロへと展開していく「Movement 1」と、7拍子のリズムの上でベースとドラムに見せ場が用意される「Movement 4」は傑作。「Movement 1」ではエドヴァルド・グリーグの「山の魔王の宮殿」、「Movement 3」ではイーゴリ・ストラヴィンスキーの「春の祭典」の引用もあり。ただし、約5分間に渡ってトーン・ジェネレータがノイズを発する「Blane」というパートはややフラストレーションが溜まってしまうかもしれない。個人的には最悪ここは飛ばして聴いてもいいと思う。
 なお、現行版に収録されている「Movement 3」はレコード時代はカットされていた。どうやらこの楽章で引用されている「春の祭典」に版権の問題があったらしい。この辺りの経緯についてはRiding The Screeというサイトに詳細な解説があるので、興味があればこちらもぜひ一読をお勧めしたい。

2nd→

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