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「Be-Bop Tango」の笑い声

Jazz is not dead, it just smells funny.
(ジャズは死んじゃいない、妙な臭いがするだけだ)

「Be-Bop Tango (Of The Old Jazzmen's Church)」フランク・ザッパのライブ盤「Roxy & Elsewhere」の最後を飾る曲で、彼をして"This is a hard one to play"と言わしめるほどの難曲である。実際どんな曲なのかは上記の動画から聴いていただくのが手っ取り早いだろう(演奏は1分23秒~)。ブルース・ファウラーが吹くトロンボーンのフレーズに注目されたい。

 ザッパは現代音楽をロックのフォーマットに持ち込むという試みを積極的に行ってきたミュージシャンであり、その成果は様々な曲で聴くことが出来るが、「Be-Bop Tango」もその一つといえよう。こうした試みは凡庸なミュージシャンであれば独りよがりな作品に終始しがちなものだが、ザッパは現代音楽の諸要素をプログレ的な複雑さやスリリングさへと上手く「翻案」しており、故に現代音楽にあまり馴染みがない人でも比較的親しみやすい音楽を生み出すことに成功している。これはポピュラー音楽と現代音楽の双方に深い造詣がなければ到底不可能なことであり、自分はそこにザッパというミュージシャンの類稀なる才能を感じて止まない。


「Be-Bop Tango」はザッパの遺作となった「The Yellow Shark」においてもドイツの室内楽団であるアンサンブル・モデルン / Ensemble Modernによって演奏されている。ここでは大地を一歩一歩踏みしめるようなスローテンポにアレンジされており、これまた非常に格好良いのだが、自分が聴いていて特にゾクゾクするのは、中盤で奏者によるクラブの客の声を模したような笑い声が聞こえてくる場面である。

 順番が前後するが、そもそも「Be-Bop Tango」はイージーリスニング的なジャズへのアンチテーゼとしての性質を持つ曲であり、それは「Of The Old Jazzmen's Church」という副題や、冒頭で引用した曲中のザッパの発言からも明らかである。また、「Roxy & Elsewhere」では曲の中盤以降にダンスコンテストが行われているが、その実態はキーボード奏者のジョージ・デュークによるスキャットに合わせて観客がクネクネと踊るという、クラブにおけるムーディーな音楽に乗ったダンスのパロディとでも言うべきものだった(映像作品「Roxy The Movie」で一部始終を見ることが出来る)。早い話、この曲は「踊れない」曲なのである。

 そんな曲の中で楽しそうなざわめきが聞こえてくるのは、聴く側からすれば強烈な違和感がある。恐らくそれこそがザッパの狙いであり、ユーモアなのではないだろうか。あるいは、アンサンブル・モデルンは「Be-Bop Tango」のような曲でも「踊れる」ほどに演奏を極めているという自負の表れなのかもしれない。今となってはその真意は知るべくもないし、各々が自由に解釈すればそれで良いと思うが、ただ一つ言えるのは、自分はザッパのこの曲が、そして曲に込められた皮肉や諧謔のセンスが大好きだということである。

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