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#13【1日1冊紹介】「遺棄する死体の謎」を推理する、歪なバディもの。 -第11日目-

『死体埋め部の悔恨と青春』
著:斜線堂有紀(ポルタ文庫)

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《座長の1ヶ月チャレンジ 暫定ルール》
・6月の1ヶ月間、1日1冊の本を紹介する記事を毎日投稿する。
・翌日、Twitterにて通知する(深夜の投稿になると予想されるため)。
・ジャンル、新旧、著者、長短編など、できるだけ偏らないようにする。
・シリーズものは「1冊」として扱う(or 1タイトルのみチョイス)。
・数十巻単位の長期連載コミック作品は原則、対象外とする。
(※現在入手困難なタイトルを紹介させていただく場合もあります)


* * *

 新紀元社――という出版社の名前を聞いて、「はいはい、あの新紀元社ね」となる一般の人は少ないだろうと思います。
 書店に勤務していた経験上で結びついていたイメージやジャンルでいうと、新紀元社といえば歴史・神話・西洋ファンタジー・クトゥルフ・TRPG、それにミリタリーといった分野。図解でわかる系の定番「F-Files」シリーズや、ボリューミーな辞典あるいは事典もの、古代や中世の武器や兵器の図鑑など、いうなれば写真やイラストを用いた「読み物寄りの資料本」といった類の出版物が主戦場である印象が強く、かの『刀剣乱舞』ブームの折りには、古刀・名刀に関する来歴やエピソードに触れた貴重なタイトルがあったことで、ファンからの注文が殺到する事態になったとか。
 そんな新紀元社が「ライト文芸の文庫レーベル」を創刊すると聞いたときは、本当にびっくりした……。いや、けれども確かに、ふと気づけばWeb小説の書籍化レーベルである「モーニングスターブックス」は順調に書店の棚の幅を広げ、昨年には日本初の幻想文学専門誌「幻想と怪奇」が45年ぶりに復活して継続中。さらにあの『三体』の翻訳監修を務めた立原透耶(たちはら・とうや)による日本オリジナルの中国SFアンソロジー『時のきざはし 現代中華SF傑作選』の刊行は大きな話題となり、今年は「幻想と怪奇」叢書と銘打っての第一弾『夢遊病者と消えた霊能者の奇妙な事件』(リサ・タトル)が発売……と、ライトのみならずSFや海外翻訳も含めた、小説作品の展開に力を入れている感が見受けられることに、正直未だに驚きを禁じえません(それはもう、竹書房文庫が海外SF・ファンタジーのラインナップに注力し始めた頃に匹敵するほどの!)

 さて、そんな新紀元社による新レーベル「ポルタ文庫」。その創刊ラインナップの中の一冊が、斜線堂有紀(しゃせんどう・ゆうき)著『死体埋め部の悔恨と青春』です。
 大学進学のため、東北から上京してきた祝部浩也(はふりべ・ひろや)。その登校初日、飲み会の帰り道の公園でナイフを持った見知らぬ男に襲われ、抵抗した末に意図せずその男を死なせてしまう。呆然としているところに、茶髪で赤いジャージの男・織賀善一(おりが・ぜんいち)が現れ「助けてやろうか?」と声をかけられる。死体を持ち上げ、車に運び込む織賀に促され、頭がついていかないまま乗り込んだ後部座席には、すでにもうひとつ別の、なぜか左手の指がすべて折られた女性の死体が座らされていた。聞けば織賀は、祝部の入学した大学の先輩にあたり、以前からビジネスとして依頼を受けては死体を遺棄する『死体埋め部』なるものの部長(そしてたったひとりの部員)なのだという。突然の事態と罪悪感、混乱するモラルの感覚の中で葛藤する祝部に、織賀は目的の山に着くまでの時間、なぜ死体の指が折られているのか、推理合戦をしないかと持ちかけてくるのだった。

 ――「承認しよう、それが今回の正答だ」

 はやみねかおるを原体験と語り、佐藤友哉作品がきっかけで作家を志したという経緯や、さらに『斜め屋敷の犯罪』(島田荘司にあやかってペンネームをつけたとの言などから、新本格を中心としたミステリ・ムーブメント作品群のミーム(=文化的遺伝子)を強く受け継いでいる自覚を持った作家であることがうかがえる著者。
(読書魔としても知られ、文芸サイト『tree』では斜線堂有紀のオールナイト読書日記の連載もスタート)
 一方で、その作風はどことなく“破滅の予感”のような空気をまとったものが少なくない印象で、本作でやや歪(いびつ)なバディを成す祝部と織賀のふたりもまた(それぞれベクトルは異なるものの)、ぐらりぐらりと少しずつ足場が揺らいでいくような不安感を伴って、その関係が深まっていくさまが綴られます。そして、じわじわと祝部とともに読者が気付かされていくある事実と、待ち受ける結末――。
「遺棄する死体がなぜ、どのように死んだのかを推理する」という異色にしてショッキングな謎解きフォーマットが見どころの、苦味強めでツイストの効いた青春ミステリです。


※ブクログにも短評を投稿しています。



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