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#4【1日1冊紹介】ものすごく愛おしくて豊穣な、本をめぐる本。 -第2日目-

『この本を盗む者は』
著:深緑野分(KADOKAWA)

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《座長の1ヶ月チャレンジ 暫定ルール》
・6月の1ヶ月間、1日1冊の本を紹介する記事を毎日投稿する。
・翌日、Twitterにて通知する(深夜の投稿になると予想されるため)。
・ジャンル、新旧、著者、長短編など、できるだけ偏らないようにする。
・シリーズものは「1冊」として扱う(or 1タイトルのみチョイス)。
・数十巻単位の長期連載コミック作品は原則、対象外とする。


* * *

「本をめぐる本」というテーマに、それだけで心をくすぐられるのはなぜだろう?
 誰も読んだことのない幻の本、謎に包まれた伝説の小説家、紙から解き放たれ現実を侵食していく文字、関わる人を死に至らしめる物語、書庫を自由に舞い飛び、意志を持ったように増殖する書物――大いなる空想や想像力を綴じ込めた本というものそれじたいに、人知を超えるほどの深い想念や力が宿っていてもおかしくない。そう思わせるほどの不思議な深度のような何かが、本というアイテムには秘められているからじゃないか……?
 そんなことを夢想しながら、今日も書店の棚に『本』という字を見つけてはまた、「おっ?」と手に取ってしまいます。

 さて。深緑野分(ふかみどり・のわき)さんによる、昨年10月に刊行された最新長編『この本を盗む者は』もまた、タイトルが示すとおり、本をめぐる本の系譜にある1冊。

 舞台となる「読長町(よむながまち)」は、新刊書店から小さなセレクトブックストア、専門古書店にブックカフェまで、本に関連する多種多様な店が立ち並び、全国から本の蒐集家が集まってくるほどの書店街を擁する町。その真ん中に位置するのが、著名な書物の蒐集家にして評論家が建てた「御倉館(みくらかん)」。地下二階から地上二階までがすべて書庫(!)であり、かつては町の誰もが一度は訪れたことがあるほどの町の名所だったが、同じく蒐集家であった娘のたまきが蔵書のコレクションとともに引き継いだ後、その御倉館から約二百冊の書物が盗まれるという事件が起き、激昂したたまきにより御倉館は閉鎖されてしまう。
 やがて御倉の家の者だけが入ることができ、管理されていくことになった御倉館だが、たまきの孫にあたる深冬(みふゆ)が小学生のとき、祖母たまきが逝去すると、ある噂が流れるようになった。それはたまきが厳重な警備だけでなく、町の神社で書物の神様として祀られている稲荷神に頼んで、御倉館の書物のひとつひとつに奇妙な魔術をかけた、というものだった。
 そして深冬が高校生になった初夏。本が大嫌いで、御倉館のことも避けてきた深冬だったが、入院した父あゆむの代わりに、ひとり暮らす叔母のひるねの様子をみるために御倉館を訪れることに。すると名前のごとく眠りこけているひるね。その手にふと一枚の御札を見つけ、つまみ上げてそこに書かれた文字――“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”――を読み上げると、どこから現れたのか、気配もなく傍らには雪のように白い髪のあどけない少女が立っていた。
 驚き混乱する深冬に、少女は真白(ましろ)と名乗り、本が盗まれてしまったことで「呪い」が発動した、と告げるのだった。

 ――「信じて。深冬ちゃんは本を読まなければならない」

 2015年には『戦場のコックたち』で本屋大賞7位、「このミステリーがすごい!」国内編2位。さらに2018年の『ベルリンは晴れているか』で本屋大賞3位、「このミステリーがすごい!」国内編2位、第9回Twitter文学賞国内編1位という、歴史を下敷きに入念な調査の末に織り上げた重厚な作品を続けて発表したことで、ミステリファンだけでなく文学読みの人たちにも確実に認知と評価を高めてきた印象が強くありました。
 そんな中で発表された今作。何と現代を舞台に、現実主義的な女子高生を主人公に据えた、“ブック・カース(本の呪い)”なる超現実的な現象をめぐる冒険ファンタジー。たしかに意表を突かれた読者もいるかもしれないし、本屋大賞候補にも選ばれたものの、惜しくも前2作を超える結果とはなりませんでした。
 ご自身でも今作を「運動神経で書いた」と述べているように、かなり趣が異なるのは確かだけれども……いやいやこれ、ものすごく愛おしくて豊穣な作品じゃないですか! と声を大にして主張したいです。
 マジック・リアリズムにハードボイルド、スチームパンク的SF冒険譚と、現実の読長町を呑み込み変貌させてしまう“ブック・カース(本の呪い)”を引き起こす、1話毎に風味の変わる作中作のバリエーションの豊かさ(目次でピンときた人も少なくないはず!)に頬が緩んでいくこと必至。
 初めは目の前の超常的な出来事が理解できず、「これだから本は嫌いなのに」と叫びながら真白に手を引かれるばかりの深冬が、けれどもだんだんと明らかになる本を盗んだ犯人とその理由の謎を自らの意志で追いはじめ、バディとなって疾走する深冬と真白の姿に心が躍ります。そしてその先で御倉館と盗まれた蔵書、そして真白の正体をめぐる真実に辿り着いた時に、胸を埋め尽くす懐かしさと切なさたるや……!

 本が好きな人はもちろんのこと、深冬のように「本なんて嫌い」という人にこそおすすめしてみたい、著者の新たな代表作だと思います。(ま)


※ブクログにも短評を投稿しています。



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