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#6【1日1冊紹介】スタイリッシュで絢爛たる“異形”のショーケース。 -第4日目-

『ダーク・ロマンス 異形コレクションXLIX』
監修:井上雅彦(光文社文庫)

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《座長の1ヶ月チャレンジ 暫定ルール》
・6月の1ヶ月間、1日1冊の本を紹介する記事を毎日投稿する。
・翌日、Twitterにて通知する(深夜の投稿になると予想されるため)。
・ジャンル、新旧、著者、長短編など、できるだけ偏らないようにする。
・シリーズものは「1冊」として扱う(or 1タイトルのみチョイス)。
・数十巻単位の長期連載コミック作品は原則、対象外とする。


* * *

 近ごろ書店で文庫の棚を眺めていると、ショートストーリーを銘打つアンソロジーや超短編のシリーズを、さまざまなレーベルで目にするようになりました。『5分後に意外な結末』(桃戸ハル)『4ページミステリー』(蒼井上鷹)『超短編! 大どんでん返し』などなど――スキマ時間でも読めるという需要か、順調に版を重ねているタイトルも少なくないよう。
 話題作では、昨年の『余命3000文字』(村崎羯諦)や、今年は『ない本、あります。』(能登 崇)といったユニークなものも含め、いわゆる「ショートショート(掌編小説)」のジャンルが昨今、にわかに活気づいているように感じます。
 そんなショートショートの「神様」といえば星新一。彼が生前に選考を務めていた「星新一ショートショート・コンテスト」でデビューし、以後も活躍を続ける作家・井上雅彦監修による、全編書き下ろしのテーマ・ホラーアンソロジーのシリーズ。それが「異形コレクション」です。
 1998年にスタートして以来、2011年の48巻(!)までそのすべてを氏が企画・監修し、総勢200人以上の作家が参加した伝説的なシリーズながら、震災の影響を受け、その後は長く企画を見送られていました。
 しかし昨年、9年ぶりに満を持してのシリーズ再開が発表され、49巻目となる『ダーク・ロマンス 異形コレクションXLIX』は、大きな反響とともに迎えられました。

 ――「井上君の書くものは異形のモノの博覧会みたいだね」

 新本格ムーブメントの生みの親として有名な編集者、故宇山日出臣(先述のショートショート・コンテスト発案者でもある!)に言われた言葉に由来するという「異形コレクション」は、ホラーアンソロジーを謳うものの、その収録作は幻想ファンタジーにSF、伝奇にミステリと常にバラエティ豊か。モードファッション界でトレンドだった「ダーク・ロマンティック」に着想を得たという今回のテーマ――『ダーク・ロマンス』への豪華な執筆陣によるアンサーもまた、いずれ劣らぬ粒ぞろいの作品群です。
 ヴィクトリア朝時代イギリス。芸術家の卵たちが暮らす屋敷にやってきた、肖像画を描いて欲しいという黒い面紗(ヴェール)で顔を隠した貴婦人を巡る不穏な昔話(「黒い面紗の」篠田真由美)。“ホラー映画の現場で怪現象が起こる”ホラー映画を撮影する現場。相次ぐトラブルやスタッフの降板により製作は遅れに遅れ、「呪われている」と噂される映画の参加オファーを受けた編集マンは、映像に不可解な影が映り込んでいることに気づく(「禍 または2010年代の恐怖映画」澤村伊智)。草原の民である部族に生まれた少年は、毒草を飲まされ倒れているところを美しく艶やかな謎の青年・ゲンギケイに助けられた。東の国から逃げ延びてきたというゲンギケイは乗馬や狩り、話術にも長け、以来部族に溶け込んでいたが……(「兇帝戦始」伴名錬)。小さく貧しい港町で、異形生物の化石掘りとその加工で生活する紗奈。街の外の世界と学問への憧れを抱く少女は、浜辺で出逢った見知らぬ女性に「あなたのような子を探していたの」と告げられる(「化石屋少女と夜の影」上田早夕里)。
 他、菊地秀行平山夢明真藤順丈と、ベテランから新鋭まで贅沢な顔ぶれが並ぶ、目眩がするほど絢爛たる、まさに“異形”のショーケース。
 昨年は記念すべき50巻となる『蠱惑の本』が、そしてこの6月には早くも51巻『秘密』も刊行されるとのことで、スタイリッシュにリニューアルされた装幀とともに、今後がさらに楽しみなシリーズ。震えて待ちたい。


※ブクログにも短評を投稿しています。



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