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#9【1日1冊紹介】隠れた本格派にして、ビターな連作ミステリ -第7日目-

『少女ノイズ』
著:三雲岳斗(光文社文庫)

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《座長の1ヶ月チャレンジ 暫定ルール》
・6月の1ヶ月間、1日1冊の本を紹介する記事を毎日投稿する。
・翌日、Twitterにて通知する(深夜の投稿になると予想されるため)。
・ジャンル、新旧、著者、長短編など、できるだけ偏らないようにする。
・シリーズものは「1冊」として扱う(or 1タイトルのみチョイス)。
・数十巻単位の長期連載コミック作品は原則、対象外とする。
(※現在入手困難なタイトルを紹介させていただく場合もあります)


* * *

 さて、いきなりですが、先に謝っておかなければなりません。
 実は今回紹介したいタイトルは、いわゆる「新刊書店」では残念ながら、すでに入手困難になっているものなのです。
 しかも、どうやら電子書籍版もないらしく、もはや二次流通でしか手に入らない模様。
 けれどもこればかりは……モノである以上、「品切重版未定」「絶版」になっている本というのは、いかに思い入れがある本だろうと話題になった本だろうと、挙げればその数は限りないわけで。
 なので、致し方ないものと割り切らせていただくとして、気を取り直して今日は三雲岳斗『少女ノイズ』を取り上げたいと思います。

 2011年からスタートし、先日ついに完結した『ストライク・ザ・ブラッド』シリーズをはじめ、ライトノベルレーベルを中心とした活躍を続けている印象が強い作家・三雲岳斗。デビューもやはり電撃ゲーム小説大賞(現在の電撃小説大賞)ではあるものの、実はその翌年に『M.G.H. 楽園の鏡像』で、あの小松左京が選考委員長を務めた日本SF新人賞を受賞しています。
 無重力空間である宇宙ステーションの中で、“墜落”死したとしか思えない宇宙服を着た死体が発見される――というたいへん引きの強い謎を孕んだ内容と科学的なテーマ、そして実際の作品の評価からもうかがえるように、硬派なSFやミステリにおいてもその実力を早くからしっかりと示しており、注目すべき作品をいくつも発表してきました。
 その代表的な一作に、この『少女ノイズ』が挙げられると思います。

 高須賀克志(たかすか・かつし)は大学の夏休み、訳あって研究の手伝いをしている女性准教授から、自分に向いているアルバイトがあると言われ、大手進学予備校である雙葉塾(ふたばじゅく)を紹介される。採用試験を必要とするような、正式な講師の仕事ではない、という曖昧な説明に首を捻りつつも訪れたその雙葉塾で、ごく短時間の面接を終えて伝えられた仕事内容は、「斎宮瞑(いつきのみや・めい)」という女子生徒を“担当”してもらう、というもの。しかし監督は必要だが、彼女を無理に講義に出す必要はないという。一見優等生に見える面立ちの写真と資料を受け取り、講義室で待つも時間になってもその斎宮なる女子生徒は現れず、仕方なくあちこち建物内を探し回ってから、ふと思い当たって屋上に出てみた高須賀。するとそこには――スニーカーを脱ぎ捨て、密閉型の大きなヘッドフォンをつけたまま、死体のように足を投げ出して座るセーラー服の少女の姿があった。そしてその少女――斎宮瞑は、新しい担当になったことを告げた高須賀のわずかな素振りを見て、彼が抱えている恐怖症を言い当て、その原因となった、記憶の欠落している過去の事件についての興味を示すのだった。

 ――「嫌よ。だって私はとても疲れているの」

 聡明な優等生にして、気怠げで謎めいた振る舞いを見せる瞑と、実はある特殊な“蒐集癖“を持つ大学生の高須賀。とても映像的で強く印象を残すこの邂逅から早くも、ふたりの間には、この先きっと深く分かちがたく結びついていくであろうことを予感させる、互いに共通して抱える“何か”が濃密に見え隠れします。そんなふたりのバックボーンも相まってか、ルックに対してどのエピソードも、濃淡はあれど全体的にビター。ミステリとしても、謎やトリックはかなり本格派です。高須賀の過去に起きた出来事を発端として、彼の一人称視点で語られる、ふたりが関わることになる5つの事件。そしてひとつひとつ謎が明かされていき、物語が進むにつれて変化していく高須賀と瞑の関係性と、その未来は――。
 このまま埋もれていくのはもったいない、ボーイ・ミーツ・ガール&連作ミステリの隠れた逸品。加えて、帯文にも引用のある有川ひろ(当時はまだ有川浩表記)による、本編をぐっと引き立てる名解説とともにぜひお楽しみいたたきたいので、見かけたら即レスキューを!

(追記)
 なんと、こちらもまた長く入手困難だった『M.G.H. 楽園の鏡像』が新装版で刊行とのこと。ブラボー!



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