ユリノキという木⑤
平和
2024年2月28日
「アカゲラのつがいが来ている!」
鳥好きの私と父にとってこのところ一番嬉しかったニュースはこれである。
穂の名やアウラが駆け回る庭にアカゲラ…!
何とも喜ばしい知らせ。
今年は1月2月とほとんど雪が降らなかった。
土が露呈しぐじゃぐじゃとした温い水は微小な生物を富ませ、
木立の先の新芽や昨年の名残の枯れた実は雪の衣を振り払って早くも裸んぼである。
鳥たちの腹を膨らすには魅力的な場所に違いない。
実際、雑木林然としたこの庭にはこのごろ本当にいろんな鳥が来る。
七音の透明なさえずりを聴き分けることができれば、何鳥が飛来しているのか見当もつきそうなものだが
残念ながら私にその能力はない。
とはいえ聴き分けがついたところで
限られた平仮名カタカナ文字表現でどれほど彼らのことばを正確に書き起こせるかは怪しいが。
太陽は空の真ん中。
逆光に眩む目にはオレンジの腹をした2羽の小鳥が見えるが、
影を帯びなければ褐色に近いのかもしれない。ヤマガラか。
黄の腹をした小鳥も見える。マヒワだろうか。
白地に黒字でTが描かれた洒落た腹も見える。シジュウカラ。
この庭をわが物顔で飛翔するのはヒヨドリ。日々よく見かけるのであまり感慨がないのも個性と言えば個性だろう。
ヒヨドリと同じくかしましいのはオナガに違いない。
朝は遠くに雁の群れの三角形も見かけた。
庭の木にもたれ、さえずりを浴びるひととき。
葉が落ちた冬の木立は鳥だけでなく、空が広く見えるからよい。明るい庭だ。
穂の名は私の姿が見えなくなり(隠れてるつもりはないのだけれど)
一生けん命せわしなく動き回っている。
耳、鼻、目。得意の感度を頭部にすべて顔の中心に凝縮したような生真面目な顔で私を夢中で探す姿が面白く、
つい木陰から音もたてずに観察してしまう。
あ、見つかった。そんなに慌てるほどじゃなかったでしょう。
この庭で一番の大木ユリノキの花は
今年の初夏で見納めだ。
木製のかたいミニチューリップのようなユリノキの実は
あまり鳥に好まれている気はしなかったけれども
この場所で落ち合う目印にくらいはなっていたのではないか。
思い入れがあるので悲しいが仕方がない。
今から蘖(ひこばえ)を愛す。
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