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『ルックバック』を見た。

今、最後の力を振り絞る様にして、この感想を書き出し始めました。

本作を見た事で生じたこの不思議な感情に身を任せたい気持ちが強いんだけど、何か記録に残さないのはダメな気がするので、振り返れる様に、ここに記録しようと思う。

率直に、自分でも意外なほどに本作を言葉に形容する事ができない。ただ、漠然とした苦しさと全身のエネルギーを持っていかれた事がわかる。映画が終わって、明かりがついても何故か画面から目を離せなくて、体のどこにも力が入らなかった。自分のからではないみたいな気分だった。まさか、こんな体験を社会人になってもすると思わなかった。

映画が終わって退場する時に前を通ってた人、ごめんなさい。通りにくかったよね。映画館から出る時、お辞儀をした時に、前の席に忘れ物があった事に気づいて、係員の人に届けに行ったんだけど上手く言葉を喋れなかった。

それくらい、自分の中に何か巨大な一撃を与えた作品のはずなんだけど、泣けたわけでもなければ、本当に心が震える瞬間もなかった。これはハッキリと断言できる。

私は今年に入ってかれこれ新作映画を10本以上見てきた。その中にはデューンのパート2や、『オッペンハイマー』などの傑作も含まれているし、一部の層に大人気の『トラペジウム』やデデデデの前後編、新時代の扉が含まれている。再上映と二回目とかも含めれば20本以上は見たと思う。

私自身、映画ファンと呼べるほど大した数の作品は見ていない。大学生になって、金銭的にも時間的にも余裕ができて、アニメに対する熱意が返ってきた事で結果として足を運ぶ回数が増えただけだ。それでも、日本アニメが始まってから傑作と呼ばれたアニメ映画達を半分くらいは見たと思うし、洋画もちょくちょく手を出して見てきた。少なくとも、日本人の平均ちょい上くらいには映画を観てきたと思うし、世間で傑作と言われる作品を見て、泣いたり色んな感情に蝕まれた事は何度もあった。

特に、FateHFの第三章は人生で一番と言って良いほど号泣した。映画館で、嗚咽を抑えきれないほどに情けないくらい泣いてしまった。帰り道、一緒に来た友人が色々話してたけど、過呼吸気味で言葉を返せなかった。それは、私自身が型月というコンテンツに並々ならぬ思いを抱いているからではあるが、少なくとも、あの映画は見た人の心を強烈に突き動かす力を持っていた。

何が言いたいのかと言えば、私自身は作品に簡単にしてやられる人間だという事だ。展開がわかっていても感動するし、テンションも上がる。

さで、では本作『ルックバック』はどうだろうか。私自身、原作者であるタツキ先生の作品で触れたことがあるのは『チェーンソーマン』と『ファイヤパンチ』、あとは今回の映画の原作である『ルックバック』くらいだ。とは言え、『ルックバック』に関しては一回読んだ事がある程度だ。けれど、その一回で物凄く心を揺さぶられたのを覚えている。

だから、私は本作を見る前は「きっと、泣いちまうんだろうな。堪えなきゃ」と思っていた。個人的に涙は作品から受け取った感情を外に流してしまうので、あまり流したくないのだが、涙腺が弱いので基本的に耐えられない。

で、実際に見て見てどうだったのかと言えば冒頭でも述べた様に何も感じなかった。胸の高鳴りとか、苦しさとか、思わず涙が出そうになる瞬間とか映画を観てる間には何も感じなかった。ここまで映画本編で何も心が動かなかった作品はなんだろうかと今書いていて、一本だけ思い当たる作品が自分の中にある事に気づいた。

『この世界の片隅に』

である。本作は片渕監督が作った映画で、アニメーションの限界点と言っても良いほどの生命力に溢れた作品となっている。本作を初めて観た時、画面に吸い込まれる様な錯覚に陥った事を覚えている。そして、私は本作を見終わった時にその場から動く事ができなかった。

こうして状況を並べてみると、『ルックバック』は『この世界の片隅に』と非常に近い影響を及ぼした様に感じる。そう考えると、私は『この世界の片隅に』にを観た時に近い何かを本作の中に見出したのだろうか。

『この世界の片隅に』の素晴らしいさは映画を観た方ならば、激しく同意してもらえると思うが、画面に映る世界の強さだと思う。言い換えれば、画面の向こう側がこの世界の何処かに実在していると信じられる。

そういう、強固な映像の中で、主人公達の豊かな人生が描かれる。そうして、色々なものが描かれ、最後には流れる主題歌である『悲しくてやりきれない』が流れる。個人的に、『この世界の片隅に』の全てはこのEDに詰まっていた。

悲しくて、悲しくて、やりきれなくて、虚しくて、それでも生きていく。その苦しみや悲しさが晴れる事は無くとも、明日は続いていく。

そういう、恐らく戦時下で暮らしていた人々の気持ちみたいなものをアニメーションとして写し出し、記録したのがこの作品だったのだと私は思う。

さて、話を『ルックバック』に戻そう。

上記の様に私は『この世界の片隅に』を観ており、それに近い状態に陥ったという事は、私は『ルックバック』という作品の中にも現実を観て、その中で描かれたものに強烈な一撃を食らったのだろうか。

いや、そんな事はない、と思う。

ここまでペラペラ話しておいてあれだが、どうにも自分の中で腑に落ちない。物凄い引っ掛かりを覚える。「そうじゃないだろうと」と言われている気分。ここまで軽く書いたが、やはりわからない。

わからないけど、確かにこの作品は私に強烈な後味を残したとだんげんできる。

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