帰る場所
名前がなければ、帰る場所もない少女がいた。
少女はただの一語も言葉を知らなかった。だから会話ができなかったし、名づけるという行為もできなかった。
少女はいつも笑顔だった。歳を一つとると、笑顔の種類が一つ増えた。少女は笑顔を使い分けるのに苦労した。
少女にとって、愛するとは思い出すことだった。意識的に思い出すことだった。
少女は、死ぬ直前にようやく、自分を愛することを覚えた。それまで少女は周囲を愛するのに夢中で、ただの一度も、自分を愛したことがなかった。愛したいと思ったことはあっても、愛されたいと思ったことはなかった。
少女は混じりけのない笑顔を浮かべながら息絶えた。
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