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年の瀬の奈良

ふらっと奈良を訪れました。目的は、春日大社国宝殿で開かれている展覧会「杉本博司ーーー春日大社の御生」です。まずはこちらの感想から。

杉本博司氏をご存知な方は多いかと思いますので、この展覧会の趣旨を引用しますと、

(前略)
春日明神といにしえ人との邂逅によって生まれ、何百年ものあいだ守られてきた美術は、私たちに何を語るのでしょう?
敏感な感性の突出した杉本博司の示唆に導かれて、新たな美を見出すべく、御蓋山を目指して春日大社国宝殿へとお出かけください。

とのことで、私は氏の作品が見られるのかと(あわよくば新作も)と期待して訪問しましたが、この展覧会では杉本氏は展示ディレクターの役割を果たしたようです。実際に見られたのは、春日大社収蔵品が中心でしたが、特筆すべきは鎌倉時代などの木彫像にアレンジを加えて、杉本氏ほかの作品とのコラボレーションを行った作品があったことでしょうか。杉本氏の「光学硝子五輪塔」もその対象でしたが、古美術と調和しながらも新しい見方を提供していました。なお、流石に重要文化財は対象にはなっていませんでした。

もともと期待していた内容(よく調べなかった私が悪いのですが)と比べて、展示のボリューム感はやや物足りない感がありましたが、展示をプロデュースする立場としては興味深い展覧会でした。

追記
杉本氏の新作も展示されていたようなのですが、展示室では見つけられず…どこにあったのでしょうか。


奈良で写真に収めた建築をいくつか挙げていきます。

旧奈良県物産陳列所

春日大社を訪問する時に何度か前を通りがかっており、その度に入ってみたいなと思う建築です。設計は関野貞で、説明書きによると、全体の構成は平等院鳳凰堂を模している、とのことです。なるほど、言われれば確かに構成は平等院鳳凰堂と同じであることがわかります。しかし、意匠は全く鳳凰堂のもつ和様仏堂式とは異なり、1階の唐破風の車寄せが格式を持たせていますが、窓周りのビザンティン調や、2階に巡るバルコニーによって奇妙なバランス感を生んでいるように思います。また、翼廊部にあるクリアストーリーも、内部ではどのようになっているのか気になります。

春日大社国宝殿

設計は谷口吉郎です。氏の建築らしい、明快なモダニズム造形と切妻屋根の組み合わせで、内部はかなり改築されており原型は不明です。左右の妻入りボリュームをつなぐ平入り部分の正面は格子で覆われており、全体のリズム感やまとまりが心地よい建築です。余談ですが、谷口氏には同じような切妻・RCの構造・意匠を採用した大型の建築が多く存在しています。同時代のモダニズム建築家とは一線を隠す独自性を持っているとは思いますが、個人的に「刺さらない」意匠なのはなぜなのか…

鹿猿狐ビルヂング

内藤廣氏設計の建築で、ならまちの北端にあります。ここでも切妻屋根が特徴ですが、町家のスケール感に合わせた浅いけらばの出が、ほかの氏の作品と異なるところでしょうか。軒のスケール感など周辺の町並みの文脈をよく拾っており、町並みとよく調和していると思います。いささか地味かもしれませんが…

南都銀行本店

正面(写真左手)の古典主義建築に対して、村野藤吾設計した新館が並び立つ構成です。アーケードによって全貌を見ることはできませんが、古典主義建築の文脈を引用した、「基壇」にあたる部分は、コーニスを持つ様式建築調ですが、2階より上は村野藤吾らしい、框の浅い近代的な窓ファサード面となっています。サッシュはオリジナルのものがそのまま使われているようです。アーケード下で劣化しにくいのも貢献しているのでしょうか。


年の瀬が迫り、春日大社は初詣の準備を忙しくしていました。そんな中でも、海外からの観光客が多く来られており、彼らはこのまま日本で年を越すのだろうか、と不思議に思います。年越しを無事に迎えられますように。

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