エッセイ LOST VACATION
先日、”LOST VACATION “という短い漫画を描きました。舞台はパンデミック騒動で廃れたリゾートホテル。そこにある男が訪れる。男はそのホテルを、数年前、いまは亡き恋人と訪れていたのだが、パンデミックの勃発で早々に退去、せっかくのバケーションは失われてしまった……
現実の世界でも、コロナ禍で予定していたバケーションをキャンセルした、なんて人は多いのではないでしょうか? バケーションに限らず、日々あらゆるものが失われていく気がします。オリンピック、甲子園、お盆の帰省、満席の飲食店でコロナビールを無邪気に飲むこと……
失われる、と僕たちが言うのは、本来ならあったはずだから。となると、その本来あったはずの世界、想像してみたくなりませんか? つまり、何かが失われる毎に、失われなかった並行世界が生まれるわけです。こっちでは家にこもって部屋着で宅配ご飯、あれこれ余計なことを想起しつつコロナビールを口に運ぶ。一方あっちでは南の島のハンモックに揺られ、恋人の水着姿にうっとりしつつ椰子の木の下無邪気にコロナビールで喉を潤す……(イメージが貧弱ですみません)
そんなしょーもない生産性もないことぐだぐだ考えずにさっさと新しい日常に馴染みなさいよ、なんてつっこまれそうですね。
ところで漫画の中で、男は幽霊の恋人からこんな風に問われます。「あなた、(私たちの失われたバカンスを)また一人で再開するつもり?」そして、「出来れば君と一緒に」と答える男に、恋人は「永遠に終わらない夏になっちゃうよ」と警告します。
エンドレスサマー。
サーファーが一年中夏を求めて世界を旅する同名の映画をはじめ、“終わらない夏”、というメタファーはある種のユートピアを意味してきました。“毎日が夏休み”、なんて言い方も同類ですかね。夏じゃないとダメなんです。終わらない春、なんて言い方しないですし。長い春ならあるけど。毎日が冬休み。なんか調子が狂います。
でも、終わらない夏、というのは、ちょっと怖い。この世にはないユートピア、つまり、あの世にいかないとたどり着けない場所。だからこそ漫画の中で、男は覚悟を決める必要があった、もうあと戻りできなくなるから……。(ユートピアという言葉自体、語源は“どこにも無い場所”、だそうです)
もっともこの世も、温暖化で気温が上がり続け、異常気象で四季が失われ、文字通りエンドレスな夏が続いていく、ディストピアに近づきつつある気もしますけど……。
書きながら、ちょっと鬱々とした気分になってしまったので、次はもう少し明るい夏の話を描きたいと思います。
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