アルカナ

通りすがりの言葉  したためられた一節
たやすく安堵しては 亡霊のように綻んでゆく

同じ言葉を重ねても
輪郭が重なるように込められた意味も重なるわけではない
重ならない違和感へ着地する勇気は何ものも保証はしてくれない
それでも

愛の始まりは 誰かに求め与えられるものではなく
誰も届くことのない 身代わりのできない座標へ立つこと

誰も届かない 沈黙の部屋や 静寂の庭
孤独を引き受け 一切の借り物の言葉が剥ぎ取られて
感情への定義のフレームも諦めて

誰にも取り上げられることのなかった赤子を取り上げるように
そこからしか通うことのない血がある

易しく言葉を手繰り寄せるのと
回帰した血が易しい言葉を選ぶのとでは
同じ輪郭をしていても喚び声が違う

沈黙の部屋に満ちている星霜を暴けない
静寂の庭で紡がれている原始の戦慄きを暴けない

誰もがはじめから 誰にも代わることのできない位相と
たやすくは形容しがたい相(すがた)を暴くパレットを持つ
たやすく既成の容れ物を答えにしなければ

   (肺胞には 本当に血が通いきっているか
    当てがわれないまま照らされない真実の一片は無いか)

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