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ラピュタへの道32 初めてのトレイン編

今日のライドはここに書くほどではないと思って走り出した。
ハナっから多摩サイ往復のつもり。
今日もやけに風が強いので。
春先って風が強いものなんだっけ?春の嵐。

どれくらい強かったかと言うと、向かい風で飛んでいるカラスが全然進んでなくって、ずっと同じ場所で羽ばたいているくらい。
ワイの口が、油断すると車の助手席から顔を出して進行方向を向いているブルドックみたいになるくらい。ちょっと大げさ。

前回のライドも暴風だった。
でも前回のことを書いているうちに、なぜか向かい風の中走ることが嫌ではなくなってきた。
いいトレーニングになるから?いや、そんなストイックなワイではない。
ヒルクラおかわりを欲してしまうヒルクラの呪いだ。

とにかくワイは多摩サイを大向かい風の中「グゥゥ…風のコノヤロウ…」とか唸りながら遡っていた。
多摩サイ改め多摩峠を。

伝わりづらいが爆風です

すれ違う自転車達は追い風を駆って余裕でかっ飛ばしている。
後部に子供用個室座席を装着したママチャリなどは帆船さながら漕ぎもせず、優雅ですらある。

そんな中、遥か前方で脇道より多摩サイに合流してきたロードバイクが見えた。
遠くてはっきりとは識別出来ないが、本格的なロードバイクのように見え、乗っている男性はリュックを背負い、カジュアルな長ズボンをはいていておそらくロードバイクで通勤しているのであろうと思えた。

彼は多摩サイをワイと同じ方向になかなかなスピードで遡り初めた。
ワイは彼を目標に定めどうにか追いつこうと踏み込んだ。
抜くことを目的としたのではなく、離されてしまうようでは情けないゾ、という自責の念からだ。…?

なかなか追いつけない。
少しずつは差は詰まっているが、まだ50Mはある。
その間ももちろん向かい風は容赦なく、対向車は我が物顔でワイは必死の形相。
いつしか向かい風に共に抗う彼に親近感が湧いてくる。戦友感が芽生えてくる。
同士よ!助太刀致す!
と一人勝手に盛り上がって踏み込む。
いつものぼっちライドでは頑張らない局面で頑張れるワイ。

ジリジリと差を詰めながら,
追いついたときどうしようか思案する。
そのまま後ろに付かせてもらってトレインを経験してみようか。その場合何か声をかけるべきなのか?
おじゃましまーす、かな?いやいやそこは真面目に「スイマセン、後ろ付かせてもらっていいですか?」かな?

すると彼は前方を歩く老人と対向車のために減速する。ワイは一気に差を詰め彼の後ろに付いた。
どう声をかけようかまだ決め兼ねていたので言葉が出てこない。
無言で付くのはちょっとな、と思い、それに重ねて彼もそれほど踏んでいるふうでもなかったのでワイはそのまま勢いで抜いてしまった。
スローペースの後ろに付いたらストーカーかと思われちゃう。
ホントは声をかけられなかった自分を誤魔化す為だったのかもしれない。答えは風の中さ…

向かい風は絶え間なかったが、それほど苦も無く彼をパスした。
深みのある青のTREKで、おそらくはかなりハイスペックなバイクであろう。
TREKに乗っている人ってお金持ちの印象があり、彼もその雰囲気があった。

ワイは追い越しておいてチンタラ走るわけにもいかないので、頑張って踏み続けた。

「後ろ入っていいですか?」
不意に声をかけられた。
驚いたけど反射的に「オッケー!」と言うワイ。自分が後ろに付くことなどを考えていたからか、自然と言葉は出てきた。
こうして生まれて初めてのトレインを組むこととなった。

TREK氏と呼ぶことにしよう。
TREK氏は爽やかに「あざまーす」と嬉しそうに後ろに付いた。
こういうときには何か話すべきなんだろうか?とかよぎったけど「はっはっはー」と【どういたしまして、すっげー風だねー】という意味を込めた笑い声で答えた。…伝わった気はする。

ワイはワイなりのエアロポジションで向かい風に抗っていたけど、見栄を張って風よけに徹っする為、状態を起こして走り続けたよ。

正直しんどかったけど、悪い気分ではなかった。チームのエースに尽くす気分をほんの少しだけど味わえた気がした。TREK氏はどこかエースの風格が感じられたし。

脚力は同じくらいに思えたのでそれほど気を使うこともなく一定のペースで走り続けた。
20分くらい牽いただろうか。TREK氏が不意に並走してきて、
「どうもありがとうございました。とても助かりました。僕はあの橋で曲がります。どちらまで行かれるんですか?」
と話しかけてきて、
「あ、和田(峠)まで行こうかと思ってたけど無理かなー」
とか少し会話を交わし、TREK氏は
「いずれにしてもお気をつけてー!ありがとうございましたー!」
と離脱していった。

しかし咄嗟に和田に行くみたいなことを口走ってしまったワイ。咄嗟の見栄だったのか?
それとも向かい風は辛いねトークをしたかったのだろうかワイは。答えは向かい風と共に…。

その後走りながらしみじみと、人と走るのも悪くないなぁ、と思いながら小一時間楽しい気分で走って

そういえばボトルを変えたよ自転車あさひで

福生南公園に着いて、一休みした後、追い風に乗って帰路についた。

復路は追い風。
前回書いたけど、向かい風のときは物凄い抵抗、ゴゥゴゥという風の音の中を走る苦行となりますが、追い風だと何のストレスもない。
だけどコリャ楽だ。という感じもしない。
のどか。その一言だ。追い風の恩恵ってなかなか実感って出来ませんな。
周りへの感謝を知らない若気の至りのようだ。

多摩サイではお馴染みの橋。ゆっくり渡ると電車が走り出すような音を楽しめるよ

あんなに苦労した多摩峠を若気の至り走法でぐんぐん進む。
でもスピードは控えめにね!

自宅まであと10キロ切ったくらいのところで、これまた高そうなGIANTの若者が派手なラチェット音と共に合流するところを横切った。
しばらく走って、車が少なかったので車道に出ようと後方確認すると、GIANT氏がすぐ後ろに付いていた。
ちょっと驚いたけど、そのまま車道に出てスピードを上げる。
付いてくるつもりかな?と思いながらかなり飛ばす。
ぱっと見TREK氏より若く見えたGIANT氏は付いてきている。
無言かい!
とも思ったけど、往路のTREK氏とのトレインに気を良くしていたせいか不快には感じなかった。

しかし結構踏んでいるにもかかわらず、時折GIANT氏のラチェット音が聞こえる。
余裕じゃねーか!必死で飛ばすワイを嘲笑っているのだろうか?
もはやミラーを見る余裕は無い全開ぎりぎりの走りを続け、前方の信号が赤に変わるタイミングで減速すると、GIANT氏もラチェット音を響かせる。まるでカジキマグロとファイトしているリールの音のようだ。

停車するとGIANT氏はちょっと離れて停車した。
少々息が上がっていたけどテンションも上がっていたし、TREK氏との交流でワイの心の扉も開いていたのでワイから自然と話しかけた。
「速いねー、お先にどーぞー」
するとGIANT氏は息も絶え絶えで
「む・無理…」
とお疲れ笑顔で答えた。余裕ではなかったようだ。
ほうほうの体って感じだ。
「ムリー?はっはっはー」
と俺も限界だよー、の意味を込めた笑い声で答えた。伝わったかは分からない。

その後再び踏み続けて、自宅近くのいつもの交差点でワイは離脱し、笑顔と手で挨拶して彼を見送った。

こうして本日のライドは終了。
ロングライド出来ないときは大体この多摩サイ往復を高強度で走るのが定番なのだが、いかんせん何度も走っているコース。
特筆することはなく、心を無にして走る修行ライドなのですが、今日は実り多き特筆ライドとなった。
いつもの何倍もの充実感を噛み締め、ロードバイクの楽しさを再認識しましたとさ。

誰も気にしていない前回の問題の答え。
「あらすじを書いて、行き詰まってから10キロほど走った」
だ。本気でどうでもいいですな…


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