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いまどき春闘事情~むかし労使、いま取引先との価格転嫁交渉


■価格転嫁の継続へ
 2月下旬の価格転嫁ファーラム取材から3か月。当時の「価格転嫁」への熱気が冷めていないと良いのですが。当時の記事に追加修正しています。
■取引適正化・価格転嫁フォーラム
 大企業の大幅な賃上げで終えた大企業の春季労使交渉でした。次は中小企業の動向に注目が集まっています。もう一つの春闘といえるのは、大企業とその取引先企業との価格転嫁交渉です。資材価格や燃料コスト上昇分に加えて、労務費まで取引価格に上乗せできるかによって、中小企業の賃上げ原資につながるからです。
 春闘渦中の2024年2月27日、名古屋市中村区のホールで愛知県や国の出先機関、経済団体による「取引適正化・価格転嫁フォーラム」が開かれました。適正な取引価格の流れを確かなものにしていくためです。
■公正取引委員会からの指針

フォーラムで公取委から説明のあった価格転嫁の実態(公正取引委員会、2月作成)

 冒頭は公正取引委員会事務総局から「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針について」と題した講演がありました。価格転嫁の監視役も担ってきた公取委。コストに占める労務費の割合の高い業種として、「ビルメンテナンス&警備業」(62・7%)、「情報サービス業」(57・9%)などデータを紹介。
 指摘事項として、約30年の取り引き以降、一度も価格改定がなされていないなどの事例を列挙。適切な転嫁に向けた取り組みとして「受注者からの要請の有無にかかわらず、1年委1回以上、価格交渉をする取締役会からの指示を車内に周知した」などを挙げていました。■5団体・社の事例発表 一社・日本自動車部品工業会(部工会)は「発注者の立場で『襟を正す』活動」を紹介しました。中小企業と情報を共有するため、部工会ホームページに鉄鋼などの価格推移や各地域のガス代の推移などをコストをグラフで提供。さらに価格転嫁事例もHPに掲載して、交渉の共通の土俵づくりを進めています。
 大同特殊鋼はコロナ禍でもオンラインを活用して、社長が出席して、取引先企業と意見交換をするパートナーズミーティングの実績を発表しました。取引先の優れた技術への表彰などを通じて付加価値を共に創り(共創)、共存共栄に向けた取り組みでした。パイを大きくできれば、取引先にも適正な取引価格につながっていくことになります。
■労使代表と愛知県知事の決意表明 フォーラムの最後に3月中旬の集中回答日に向けた決意表明がありました。
 まず、連合愛知の可知洋二会長の要請を受け、愛知県経営者協会の大島卓会長が登壇しました。 大島会長は「サプライチェーン全体の中で、取引を適切化して燃料費だけでなく労務費も正当な価格として取引関係が構築されていくことが必要になる」と力を込めました。
 また、「大同特殊鋼の事例発表で、企業間の対話が進むことが最終的にはさらなる付加価値を生み出し、日本経済のために役に立つのだというふうに聞かせいただきました。単なる価格転換の問題だけではなく、日本経済を再生させるために愛知県が率先して、経営者協会としてもサプライチェーン全体でできるようにしたい」と決意を述べています。
 締めくくりに大村秀章愛知県知事が「取引・適正化・活展化推進法案の決意表明」を読み上げました。(1)原材料及びエネルギー価格上昇分に加え、労務費を含めた適切な価格転嫁の促進を図るため、中小企業振興法に基づく振興基準及び労務費の適切な転嫁のための活性化に関する指針を踏まえた行動をすること。(2)パートナーシップ構築宣言の更なる参加拡大と実効性向上に向け各機関団体の役割を果たすこと。(3)適正な取引発展となる社会運動の醸成に向けて各機関団体が連携して取り組むこと。
■様変わり 企業内の労使交渉は今も昔も重要です。
 一方で、下請け企業へしわ寄せがいく日本の悪しき慣行を見直すことが賃上げ原資を増やす近道でもあります。発注先と受注先との「付加価値共創」(大同特殊鋼)のパートナーシップも、ますます重要になってきます。 かつて取材した四半世紀も前の「トヨタ春闘」も様変わりしています。ジャーナリズムは、企業グループやサプライチェーン全体の適正価格交渉にこそ目を向けなければならない時代になっています。
(2024年4月8日)※初稿に追加し掲載 

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