見出し画像

信州と京都のアーティスト「自然を創る」~ヤマザキマザック美術館で開催 

 西澤伊智朗(にしざわ いちろう)さんは1959年生まれ。信州の山中のアトリエをもち、土肌のある作品を生み出す陶芸作家です。新野洋(しんの ひろし)さんは1979年生まれ。京都府南山城村の里山で合成樹脂を用いて未知なる生き物のかたちをつくりだす現代美術作家です。
 荒々しくも素朴な西澤さんの陶土と、みずみずしく透明感あふれる新野さんのアクリル樹脂の素材感―2人が創り出すそれぞれの自然のかたちを楽しむことができる二人展(会期8月28日)です。

進化のパズル(新野洋)©︎aratamakimihide

 ヤマザキマザック美術館(名古屋市東区)の正式なタイトルは「新野洋×西澤伊智朗 自然を創る」です。順番は逆になりますが、「信濃の国の文化と経済」(noteマガジン)に載せるので、西澤さんから紹介します。

西澤伊智朗さん(ヤマザキマザック美術館提供)

 西澤さんは長野市七二会(なにあい)の山中にアトリエを構えています。中学生のとき、信州の野山を駆け巡って、たまたま見つけた奇妙なキノコの冬虫夏草や廃墟、朽ち果てた果実などに着想を得て、大地の風合いを感じさせる土肌の作品をつくっています。
 西澤さんは日本体育大学を卒業して長野県内で体育を教えていました。柔道で鍛えた隆々たる体格ですが、「小さなありんこ1匹をもかわいがり、その命を愛でてしまうようなやさしさにみちている」(ヤマザキマザック美術館学芸員の坂上しのぶさん)といいます。
 希望していた中学校の特別支援学級に赴任してからは、生徒たちと一緒に「作業学習」の時間に粘土に触れて本格的にやきものを志します。教えるために1997年から1年間、京都市立芸術大学で学びました。
 以来、古生代前期のアンモナイトを具象化した大きな作品群「カンブリアの系譜」に始まり、冬虫夏草から発想を得たシリーズなどを発表。ヤマザキマザック美術館には約40点を展示しています。


「杜に在る」などの作品群(西澤伊智朗)©︎aratamakimihide

 西澤さんはガラス作家ガレの言葉「我が根源は、森の奥にあり」を会場のパネルで紹介しています。「森の奥に潜む生命の力を作品に込め、自然に対する恐れや祈りを時代や場所を超えて伝えたように、私もいつか『杜に在る』ものを伝えたい」といいます。
 私が愛知県瀬戸市で取材した陶芸作家の中に、異彩を放った作家がいたことを思い出しました。背丈ほどある土瓶をつくっていたころの鈴木五郎さん。巨大な土の塊を焼いていた美山陶房の寺田康雄さん。いずれも型破りな大作でしたが、大地(土)と格闘する気概を感じたものです。
 西澤さんの作品は、ずっしりとした重さがあります。40~50キロ、中には100キロを超える作品に圧倒されます。大作が並ぶ展示会場にしゃがんでみると、鬱蒼とした杜のなかで自然の息遣いを聴いているような感覚になりました。

Waldeinsamkeit(新野洋)©︎aratamakimihide 

 対照的に新野さんの作品は空から降ってくる雪や神秘的な水面の静寂さを感じさせます。異色の組み合わせだからこそ、会場に踏み入った人々にインスピレーションを与えてくれるのかもしれません。
 二人展ですが、今回が初対面です。美術館学芸員のカップリングが、不思議な世界を創り出してくれました。
(2022年4月25日)
追記 美術館1階には長野県長野養護学校高等部の生徒が授業で焼いた豆皿10枚セット(税込み880円)のほか、小皿や角皿、角鉢が440円から660円(いずれも税込み)で販売されています。

長野県長野養護学校高等部陶芸班の作品も販売



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?