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「めだかの学校」~善意に見守られて熱田の街で35年

 名古屋市の熱田神宮北側の熱田街園は、幹線道路に面した歩道の一角にあります。4月上旬に岩や滝を配した人工せせらぎを見に出かけました。桜の葉が漂う水辺に小さなヒメダカが群れをなして泳いでいる姿を見つけました。
 近くの幼児園の園児と親約110人が、4月7日にヒメダカを放流したのです。(写真は、名古屋熱田ライオンズクラブ提供)。
 そっとのぞいて見て、ホッとしました。というのも、いまから35年前、放流されたヒメダカが夏休み中に「乱獲」され、激減したことを記事にした覚えがあったからです。
 最初に放流されたヒメダカは、街園を管理する名古屋市熱田土木事務所の職員が事務所内の水槽で大切に育てたものでした。市職員が市民の憩いの場にしたいと、1985年6月に「めだかの学校」と名付けて池に放したのです。
 乱獲されたのは、その2か月後でした。当時の紙面に職員の手書きの看板が掲載されています。
 「"めだかの学校"です。そーっとのぞいてみて下さい。みんなでおゆうぎしているよ。みなさまの手でめだかの生徒をふやしましょう‼」
 職員は、放流してからも街園を定期的にパトロールして、市販のエサをあたえて、かわいがっていました。月に一度、池の水を抜いて掃除をするときには、ヒメダカを丹念にすくい上げ、池の底や大小の岩などをきれいにしていました。ふたたび水を入れたあとも、カルキ臭が抜けるのを待ってヒメダカを池に戻していました。手間のかかる仕事だっただけに、ショックも大きかったのです。
 めだかの学校が存続したのは、この記事を知った名古屋熱田ライオンズクラブ(LC)のおかげでした。ヒメダカを寄贈してくれることになり、翌年3月10日に200匹が放流され、その後は4月の入学シーズンに合わせて、「メダカの学校入学式」を開いてくれているのです。
 いまでは、乱獲もないようで、せせらぎで泳ぐヒメダカを見るたびに、当事者の一人として心が和みます。

20210425めだかの学校飾り

 ところで、名古屋熱田LCについて、別の話題で紹介したことがあります。
 明治神宮のお膝元、表参道を中心に組織された東京神宮LCと1985年9月11日に姉妹提携することを記事にしました。名古屋熱田LCはすでに、伊勢神宮を控えた伊勢LCとも1978年に姉妹提携を結んでいましたから、日本を代表する三つの神宮ゆかりのLCが縁をとり結んだということになりました。
 取材当時は、熱田神宮の緑の木々の間を歩くのが好きで、頻繁に熱田の杜に行っていました。たまたま熱田LCの広報役でもあった熱田神宮総務部長から、「神社を中心としたLCの姉妹提携は極めて珍しいよ」と話を聞いたのがご縁でした。
 年月を経ても、熱田街園にメダカが泳いでいることは、こうしたご縁がいまも生きている証です。暗いニュースが多い新聞記事のなかで、園児の笑顔はじける写真は、朝の清涼剤となったことでしょう。 
 名古屋市では、25日投開票の市長選挙が最終盤を迎えています。多額のお金をかけなくても、市井の人たちの善意で、小さな街づくりを積み重ねていけるような施策が良いのですが。

20210410熱田街園メダカ拡大

 近頃はあまり歌われなくなった「めだかの学校」ですが、幹線道路の喧噪を離れた街園では、これからも歌い継がれていってほしいものです。
(2021年4月24日)
 
 

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