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子預け神事の「井戸のぞき」~名古屋の高座神社新緑の中で

 子育ての神様として知られている神社が名古屋市熱田区にあります。いま新緑も鮮やかな高座結御子神社(たかくらむすびみこじんじゃ)です。
 毎年6月1日になると、小さな子どもを抱えた母親らが参拝し、境内の井戸をのぞかせています。「井戸のぞき」というお祭りで、かんしゃくの虫封じができるという信仰が今も続いています。

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 高座神社は熱田神宮の摂社です。熱田神宮は6月5日に勅使(天皇のお使い)をお迎えして国の安泰を祈願する例祭「熱田まつり」を控えています。
 郷土史を研究する熱田研究よもぎの会編「史跡あつた」(名古屋泰文堂)では、高座神社について「熱田神宮創建時代よりともにあると伝えられている」と記しています。地元では熱田さん、高座さんと親しまれているのもうなずけます。
 子育ての神様とされるのは、幼児が無事に育つことと虫封じとをお祈りして、15歳まで神様に子どもをお預けし、満期になったらお礼参りをするという信仰があるからです。境内の高札に書かれた説明文によると、高座神社は現在5万人余の子どもを預かり、台帳に登録し、毎月1日には無事育成の祈願祭を執り行っているそうです。
 「井戸のぞき」については、井戸の脇に言い伝えが書かれています。
「昔、天皇の娘が病気になったときに、天から龍が現れて病気を治しました。天皇が『ほうびはなにが良い?』と尋ねると、龍は「どこかわたしの住める場所を下さい」といって、天へと帰っていきました。そこで、『高蔵の森』に社を建てて、そこに井戸を掘り、龍を呼ぶことにしました。龍が住まいを移してからは、子どもが井戸をのぞくと病気にかからないといわれるようになりました」
 子預け神事や井戸のぞきについて細かく記述したのには、わけがあります。駆け出し記者の1979年6月に「井戸のぞき」を取材しました。その記事がスクラップブックに貼ってありましたが、そこには「祭りのいわれをほとんど書かず、デスクに書き直しを命じられた」とメモがありました。42年前のことが思い出されます。

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 さて、高座神社には、豊臣秀吉が幼少の日吉丸といわれた頃、母に連れられて参詣したという太閤出世稲荷が鎮座します。私事ですが、「万願成就」と書いた赤い幟旗を寄進させていただいたところ、ほどなく地元テレビ局のコメンテーターに採用されたことがありました。個人的には御利益があると信じています。
 境内の森の中には、健康長寿を思わせる歌碑もあります。尾張浜主(おわりのはまぬし)という舞楽の大家が承和12年(845年)正月8日、仁明天皇の御前で自作の「和風長寿楽」を舞ったときの和歌とされています。この時、尾張浜主は113歳。

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 「翁とて詫びやは居らむ 草も木も栄ゆる時に 出でて舞ひてむ」
 子預け、出世、そして健康長寿。この神社には、人の世の願いが集まっているようです。
 かつての「井戸のぞき」には、縁日のように屋台が出て、1万人が訪れていました。高座神社に今年の人出を伺うと、ここ2年は屋台もなく、400人から500人ほどだったそうです。それでも子を思う親の気持ちはいつの時代も変わりません。神様に15年預けたのですから、子どもの頭をたたいてはいけないとも教えています。高座神社は「うるわしい信仰と伝統を末長く守り続けていきたい」としています。

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尾張浜主の健康長寿にあやかりたいものです

 ちなみに42年前の駆け出し記者が撮った「井戸のぞき」写真は、露出アンダーで使い物にならなかったことを正直に書いておきます。
(2021年6月4日)

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