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最近新聞紙学~元旦の地域版から見えてくるもの

 あらたまの新年を迎え、新聞紙面で1年の動向を探るのも楽しみのひとつです。
 毎年、主要各紙の独自の記事を比較してきましたが、今年は購読紙の中から読売新聞を選んで、沖縄を除く46の都道府県の地域版の連載企画を読み比べてみました。
 主題として多かったのは、「ともに生きる」とか「つながり」といったキーワードです。ここ2年、コロナ禍で密を避けるため、人と人の交流が疎遠になっていましたから、あらためて地域社会や家族、友人との絆を取り戻したいという思いが込められているようです。
 長野県版は「かぞくのかたち」のタイトルで、多様化する家族の物語が始まりました。初回は青木村の山間地で旅館を経営する43歳の夫婦です。ご主人が手の難病を乗り越えて、定年後の夢だった「宿」を経営しています。ちなみに青木村は、東急グループの創始者五島慶太の出身地です。3日の2回目は今年開催の諏訪地域のお祭り、御柱祭で柱を建てるときにぶれないようにする「網巻き」を代々担ってきた家族の話。4日の3回目は事情があって実の親と暮らせない子どもを受け入れる「養育里親」のご夫婦の話でした。
 このほか岩手県版「家族のかたち」、秋田県版「集い再び」などが目を引きました。
 コロナ後を見据えた石川県版「コロナ禍を越えて」、滋賀県版「コロナ下を生き抜く」、広島県版「コロナ後世界へ」など新しいライフスタイルや産業の活性化の芽生えを紹介する連載も目立ちました。地域版らしく、自分たちの住む地域の素晴らしさに目を向けています。背景には東京圏から地方への移住が増える傾向が続いていることが挙げられます。
 今年はSDGs(持続可能な開発目標)を主題に展開している県版が8県ありました。新聞はややもすると新しいものに熱しやすく、そして冷めやすいのですが、昨年来続くSDGsへの関心の高さから具体的な事例で深掘りしていこうという狙いのようです。
 なかでも四国4県が共通タイトル「未来へSDGs@四国」で展開している様々な事例が参考になります。400年続く傾斜地農耕(徳島県)や、果物などをやわらかく包む天然の緩衝材「もくめん(木毛)」の国内最後の専業会社(高知県)など知らないことばかりです。
 ニュースは「ほぉ!」とか「えぇ!」といった意外性や驚きが大事です。その意味で「宇宙」を取り上げた地域版が6県あったことも意外でした。愛知、岐阜、三重の東海3県共通の連載記事「私を宇宙へ連れてって」は、航空宇宙産業が集積する地域ならではのテーマです。
 また和歌山県版は「くしもとから宇宙へ」と題して、串本町で建設中の民間初の小型ロケット発射場にまつわる人々の物語を紡ぎます。大分県版「近づく宇宙」は、大分県と米宇宙企業が協定を結び、大分空港が「宇宙港」となって、年内に人工衛星を打ち上げるという内容です。福井県版「宇宙新時代 福井の挑戦」は、県と地元企業が開発した超小型人工衛星「すいせん」が2021年に打ち上げられたのを機に地元企業などの宇宙との関りを追っています。
 新聞記者1年生のころ、先輩記者から「新聞は1面から読むんだ」と教わりました。駆け出し記者が担当する「サツ回り」(警察署担当)だと、つい事件事故が載る社会面や地域版に目を通して、仕事に取りかかるということになりがちです。良いアドバイスですが、今回のように地域版に注目して各地の年頭の主題を横串に刺すようにして読むのであれば、先輩も納得でしょう。それにしても各地の地域版を自宅や図書館で一覧できるとは、40年も前のアナログ時代からは考えられない醍醐味です。
 庶民の生活感やトレンドを教えてくれるのが地域版です。地方から外国人観光客に着目したり、客船誘致を報道したり、貧困や高齢化など社会課題の一端をいち早く報道したるするのが強みです。各地から集まったリポートがひとつの潮流になると、やがて国の政治や経済を動かします。
 筆者はいまも「新聞紙」を1面から読みますが、政策やトレンドの「素(もと)」は地域版にあるとの思いは変わりません。「地域版の源流から全国版の大河へ」ということでしょうか。
(2021年1月4日)

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