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南信州米俵保存会~お米農家とわら細工を救う

 各地で田植えが始まりました。濃尾平野でも水をたたえた田んぼが広がっています。一方で、秋の収穫のあとに稲穂を天日干しする「はざ(稲架)掛け」の光景は少なくなっています。
 そんなことを思っていたとき、中日新聞や市民タイムス(長野県松本市)で、南信州米俵保存会のことを知りました。合同会社形態で、本社は長野県の伊那谷のほぼ中央、飯島町にあります。代表社員の酒井裕司さん(45)に電話してみました。
 会社員だった酒井さんは、お米農家が減り、高齢化も進み、耕作放棄地が増えていることを心配していました。2015年に会社を辞めて、南信州米俵保存会を設立します。農家から、わらを買い取って、職人さんたちと、わら細工の製品を作る会社です。稲わらの付加価値を高めていくことで、お米農家を少しでも支えていこうという思いからでした。

(写真は南信州米俵保存会のHPから)
 酒井さんは保存会設立後、米俵を担いで走る「米俵マラソン」を企画、毎年11月に開いてきました。1㎏から10㎏までの4種類の重さの米俵を選び、これを担ぎながら5㎞または10㎞の距離を走るのです。最近では900人も参加する大会に育っています。
 この「米俵」の評判が伝わり、いまでは大相撲の東京・両国国技館や名古屋場所の土俵の俵も酒井さんが用意しています。各地の神社から、しめ縄飾りの発注も増えています。
 稲わらを籠状に編んで作る民具も人気商品です。猫が入る「猫つぐら」、地域によっては「猫ちぐら」という籠は、愛猫家に人気です。
 ただ、これだけでは稲わらを使い切れません。そこで、長野県木曽町の開田高原で作られている青大豆を稲わらに詰めて発酵させる納豆キットを考えました。商品名は「木曽おんたけ納豆」(税込み1100円)。木曽おんたけ観光局の話では、わらと60㌘の大豆入りで、家庭用の納豆3パックほどの量になるそうです。

(写真は、納豆の手作りキット)
 稲わらで思い出した事件がありました。40年前の地方記者のころ、田んぼのはざ掛けごと燃やされたと聞いて現場に行くと、目の前に黒焦げになった稲わらと、奥に脱穀を待つ稲の束が干してありました。調べが進み、5件の連続放火事件と分かりました。当時、「小売価格にして18万円の被害」と書いています。お米ひと粒でも大切にするように教えられた世代です。やりきれない事件でした。
 南信州米俵保存会のある飯島町は、飯(めし)の島と書きます。お米農家の稲わらを有効活用する試みを応援したいものです。酒井さんは「信州各地の大豆を使って、わらに詰めた『ご当地納豆プロジェクト』を広めていき、稲作農家も支援したい」と夢を語っています。
 結婚式の引き出物や米寿のお祝いに、契約農家のお米を入れた米俵を贈るサービスも用意されています。粋なギフトにはぜひ、ご当地納豆キットもご一緒に。
(2021年5月22日)
【追伸】
 筆名の荒玉(あらたま)は、祖父が信州の田舎相撲をとっていたときの四股名です。これから大相撲中継を見るときに、土俵の俵にも注目します。

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