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記者七つ道具のあゆみ~自動メモ起こし「オートメモ」使い始めの記

 「ちょっとトイレお借りします」
  駆け込んだトイレの中でメモ帳を出し、要点をメモして、まだ座談の輪に戻る。1992年頃、通産省(現経済産業省)の幹部宅で毎週開かれたキャップクラスのオフレコ懇談会。1時間を超えると、頭の中だけでは記憶できず、密かにメモを取っていました。
 かつての記者会見では、ノートやメモ帳を拡げて筆記。脇に置いた録音テープは、記事のポイント部分を聞き直すためでした。夜回りのメモは、ほとんど記憶力の世界。記者クラブに戻る車のなかで、一生懸命思い出しながらペンを走らせたものでした。
 いつしか記者会見では、若い記者たちがノートパソコンを拡げ、会見者の顔色もそっちのけ。キーボードとにらめっこするようになりました。いまではパソコンを打ちながらの記者会見が当たり前の光景になっています。
 かくいう私は、60歳を超えた頃からICレコーダーで録音した会見内容をパソコンに打ちながら起こしてきました。打ち間違えと変換ミス。手間のかかる、まるで修行のようでした。
 そのうち、会見と同時進行でパソコンに打ち始めてみました。経済部の仲間たちに「粗起こし」(粗々のメモ)として送信して共有。もう一度聞き直して「完起こし」(ほぼ言い回しを正確に再現したメモ)していましたから、労働時間ばかり増えていました。60歳超の給与体系では、ファストフード店の時給に限りなく近付く日々でした。
 定年後の新たなジャーナリスト生活では、メモ起こしは欠かせません。しかし、正確さの一方、生産性も考えて今月、ソースネクスト社の「オートメモ」を買いました。本体1万8000円。消費税とコンビニでの振り込み代金110円を加えて、計1万9110円でした。
 早速、中部経済産業局長の記者会見で使ってみました。マスク越しで、一定の距離がありましたが、録音自体はよく録れていました。wi-fiを別室に置いていましたが、あとで自動メモ起こしもできました。
 さて、その内容はといえば、自分の記録用としては申し分ありませんでした。急ぎで発言内容を確認したいときなど、20分後に文字になってメールで送られてきて便利です。
 ただ、会社などへ正式なメモを出そうとすると、「あぁ」「えー」などがしっかり文字に起こされていて、BackspaceとDeleteキーを操作し続けて、表現を直して、重要ポイントに★印も付けて・・・と時間がかかりました。
 そりゃそうだ。機械任せですから文句はいえません。そこでマイルールを決めてみました。
 30分程度の短い記者会見なら、できるだけ会見者の表情を見つつ、自分でパソコンを打つ。
 15分から20分程度の記者会見では、ICレコーダーとオートメモの両刀遣いで録音。時間の余裕があるときは、自宅で音声文字変換のアプリを活用して、イヤホンで録音を聴きながら自分の声で会見者の発言を読み込みます。修正しながらですから、結構いい文章になっています。
 1時間、2時間のインタビューや講演会取材は、オートメモを働かせます。相手に相づちを打ったり、質問をしたりすることに神経を集中させることができます。
 新聞社の駆け出し記者のときは1970年代後半。重いフイルムカメラにフラッシュ、交換用のフィルム。背広のポケットに入るメモ帳、ボールペン数本、公衆電話用の十円玉。タクシーもあまり使えなかったので、警察署の移動用に拾得物を修理した中古自転車を譲ってもらいました。
 その後、インタビューにはカセットレコーダーを使い、のちにマイクロカセットレコーダー、そしてICレコーダーへ。
 電話は会社貸与のショルダーフォンから個人のガラケー、そしてスマートフォンへ。
 記者の七つ道具は大きく進化してきました。進化(?)の一方で、記者の記憶力や筆記のスピード、取材者の表情の変化を読む勘は退化してきたようです。
 変わらないのは、足で稼ぐ、すり減った「靴」…といいたいところですが、最近はインターネットやスマホで情報を調べるので、靴底の減り方は昔ほどではありません。
 この際、アナログも併用した取材活動に戻してみようかと思っています。果たして、どれだけ記憶力が戻るのか楽しみです。取材とは、相手との真剣勝負と教えられてきましたが、自分との闘いでもあるようです。
(2023年2月25日) 

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