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熱い小宇宙、地域と業界から見る「一年の計」(専門紙編)

 新聞には、「朝毎読」といった全国紙や中日新聞のようなブロック紙、岐阜新聞などの地方紙があります。こうした一般紙だけではなく、地域や業界を細かく取材している専門紙が実に多いのです。小売業界にたとえると、何でも扱っている百貨店が一般紙で、衣食住をはじめとした得意分野に特化した店が専門紙といえます。 
 経済新聞というと、日本経済新聞が定番ですが、愛知、岐阜、三重、静岡の東海4県をエリアとする中部経済新聞(名古屋市)は、日本新聞協会加盟社で唯一のブロック経済紙です。一般紙が太刀打ちできないほど、地域の経済ニュースや中小企業の動きを細かく報道しています。
 元旦号には、「コロナ下の新ビジネス」として、中小企業の様々な取り組みや新商品が出ていました。中部経済新聞社の知人からのメールに、コロナのような局面では、おもしろい動きがたくさん出てくるので、掘り起こして報道していきたいという決意が書いてありました。感染拡大が続く中で、中小企業のアイデアが次々と商品化されてきましたが、今年も目が離せません。
 日本農業新聞は1面連載企画「にっぽんの針路」のインタビューで農政の課題を示していました。1月9日までに5人が登場し、うち3人が女性でした。
 東京大学名誉教授の上野千鶴子さんは「女性活躍は不可欠、男と組織が変わる時」と強調しています。イラン出身の俳優のサヘル・ローズさんは、小さい頃、いじめに遭った心を東京都立園芸高校の定時制で「耕していた」という思い出を語っていました。2020年のノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(WFP)の日本事務所代表の焼家直絵さんは、日本の食品ロス量がWFPの年間支援量の1.5倍あることを指摘し、「飢餓は人ごとではない。日本の知見や農業技術を生かしてほしい」と訴えました。 
 筆者はかつて、読売紙面で写真入り記事の男女比率を調べたことがあります。ある月の写真付き記事が1759本ありましたが、女性は425本で、比率は24%でした。農業のみならず、新聞紙面に多くの女性たちの登場を期待しています。
 食糧や繊維、住宅といった業界を専門に扱う新聞社にも注目しています。日本専門新聞協会(約80社)に加盟する、化学工業日報社は世界で唯一、化学専門の日刊紙とされています。元旦号は、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政府の目標に対して、化学が果たす役割を特集しています。化学産業はマスクや消毒液など私たちの生活に関わりが深い分野です。今年はワクチンや治療薬といった動向にも注目したいものです。
 35年前に出版された「新聞をどう読むか」(講談社現代新書)を読み直しています。ジャーナリストの佐野真一さんは「一般紙の記事は総花的で、どうしても突っ込みに欠けるが、業界紙の記事はディテールが生きており、想像力をいたく刺激するのだ」という一文を寄せていました。タイトルは「熱い小宇宙を読む」です。
 全国紙にも「小宇宙」があります。たとえばインバウンドという用語は、2000年に地域版に登場してから各地に広がっていきました。地方の記事が全国のトレンドになっていく例は多いのです。
 地域、業界の「小宇宙」の紙面から熱量を感じる年になりそうです。
(2021年1月11日)

メモ:日本農業新聞「にっぽんの針路」の6回目(2021年1月12日)は、農業活性化アイドル「りんご娘」王林さんです。6回中4人が女性でした。

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