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第8章 教育県とは(下)~先駆けて♪「信濃の国」の文化と経済(note8-2)

~目次~
第1章 県歌「信濃の国」秘話
第2章 文化圏と美術館
第3章 2022年の大遭遇~伝統の祭り
第4章 個性的な企業群
第5章 地場産業
第6章 食と農
第7章 人国記~「信濃の国」では
第8章 教育県とは(下)★
第9章 長野県人会の活動
最終章 あとがきにかえて~名古屋と長野県との一体感

 (上)は、なぜ長野は教育県だったのか、信州の児童文学を中心に書いてきました。続く(下)では、「聖職の碑」(新田次郎)を軸に考えてみました。
■中学生の集団登山
 年配の信州人は中学校で登山を経験しています。私は「西駒登山」といって、中央アルプスの最高峰、木曽駒ヶ岳(標高2956m)に登りました。宝剣岳に向かう途中、雪渓を渡ったり、カモシカを見たり、中学生には驚きの連続でした。
 事前に「西駒」について勉強して、新田次郎著「聖職の碑(いしぶみ)」のことも知りました。1913年(大正2年)に長野県箕輪町の中学生(中箕輪尋常高等小学校)が校長ら3人の引率教師と青年団の応援で木曽駒ケ岳(本では伊那駒ヶ岳)の登山に臨みましたが、校長や生徒計11人の命が失われました。山岳道には遭難記念碑が建てられ、事故を今に伝えています。
 「聖職の碑」には、主人公が碑に接したときの思いが書かれています。
 「このような場合、一般的には遭難慰霊碑とするのが当たり前なのに、なぜ、遭難記念碑としたのであろうか」と。そして「碑は遭難の事実だけを後世に告げるために建てられたもののようであった」として、本文へと導くのです。
 「聖職の碑」は、山岳小説であるとともに、信州教育、特に東京で1910年に発刊された雑誌「白樺」に影響を受けた若い教師たちが唱えた理想主義教育にもふれています。
 遭難死した校長が理想主義教育を目指す若い教員と議論する場面です。校長は文学雑誌がなぜ、長野県の若い教師たちに影響を与えているのか分からないのです。「聞くところによると、雑誌『白樺』の購読者数は東京に次いで長野県が第二位…」と話し、雑誌に教育について、何か書いてあるのかと問います。若い教師は「教育については一言片句も触れていません。だが、われわれはその中から新しい教育法を見つけ出そうとしているのです」と答えています。
 若い教師たちは、明治以来の臨画教育法(画の手本を写すこと)に飽き足らず、唱歌や綴方(つづりかた)についても改善をしなければならないと思っていたという熱意が伝わってきました。
 西駒登山も、こうした遭難事故がありながら、「遭難記念碑」について知り、山登りの準備を整え、気象条件や安全に配慮した教育を愚直に続けてきた結果かもしれません。
■先駆ける教育
 最近知ったことです。山村留学を受け入れた最初の村が長野県の八坂村(現・大町市)だったということでした。公益財団法人「育てる会」が1976年に全寮式で始めた試みが、全国の市町村に広まっていったということです。NPO法人全国山村留学協会の調べでは、2020年度の実施しているのは67市町村で計668人。都道府県別の受け入れ人数は、鹿児島県が194人でトップで、次は長野県の118人でした。
 また、「信州やまほいく」も先進的な取り組みです。長野県こども若者局によると、2015年にスタートして、県が一定の条件を満たした保育園などを認定し、「やまほいく」の水準を維持しているそうです。78%が森林という信州ならではの取り組みで、週に5時間、山や川や畑で遊び、四季折々の花を見たり、鳥のさえずりを聞いたりして自然教育を進めている保育園など225園を認定し、助成をしているとのことです。
■思えば身近にも
 最後は母親の言葉です。2度の大火で家や家財を失った経験から、「知識はなくならない。知識を身につけなさい」と教えられました。 
 濃尾平野のように広大な沃野に恵まれた地ではないので、子どもの教育に投資していく気質がおのずと醸成されていったのでしょう。
 県歌「信濃の国」の6番の歌詞です。
 みち一筋に学びなば
 昔の人にや劣るべき
 古来山河の秀でたる
 国は偉人のある習い
    ♪
 長野県庁に電話をかけると、待ち受けの曲は「信濃の国」のメロディーでした。西駒ケ岳(表紙写真)など、ふるさとの風景を思い出しています。
(2021年7月21日) 
 このリポートは、長野県の文化や経済について人からたずねられたときに、関心を持ってもらえるようにと、個人的にまとめたものです。タイトルにある「信濃の国」は、1900年に発表された県民の唱歌で、のちに県歌に制定されました。多くの長野県民によって今も歌い継がれています。この歌詞を話の軸にして、信州の文化と経済を考えてみようと思います。少しでもご参考になれば幸いです。

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