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『すばらしき世界』の話(ネタバレあり注意)

犯した罪は殺人。役所広司演じる三上は13年の懲役を終え、娑婆に出てつぶやく。
「今度こそは、カタギぞ」

元殺人犯だ。悪いやつに決まってる。でも、罪はつぐなったんだもんな。社会復帰できるといいね三上さん。あれ?でもこの人反省してないな。人殺しておいて反省してないのやばいな。あ、でも実はいいとこあるな。とてもまっすぐで、困ってる人を見たらほっておけない正義感の持ち主だ。でも喧嘩っ早いな三上さん。うまくいかないことあるとすぐキレるじゃん。いやいや喧嘩っ早いけど、やっぱり悪人ではないよ三上さんは……

観てるこっちが、ぐらつくのだ。いいヤツなの?悪いヤツなの?三上ってどういう人間なの??

映画ってのは大体いいヤツと悪いヤツが出てきて、いいヤツが勝つとハッピーエンドっていうことになってて、最後に実はいいヤツが悪いヤツでしたーみたいな展開もあったりして、僕らはそういうのを観すぎている。

人間ってそうじゃないんだよね。人間なんていいとこも悪いとこもあって、いろんな面があって、バランスとってるんだよ。みんなそうなんだ。そんで、中にはたまたまバランスがとれなかった人もいる。それが三上だ。

今「みんなそうだ」と言ったけど、例えば三上は特に仲野太賀と六角精児と北村有起哉の世話になる。僕はずっと不安だった。仲野太賀が、六角さんが、北村さんが、いつか愛想つかして三上を捨てるんじゃないかって。だってそうじゃん。最初は笑顔だったけど、いいヤツとは確定できないんだよ。だって現実の人間ってそうだから。だから観ていてずっと怖くて不安でつらかった。

橋爪功だってそうだ。橋爪功って悪役やらないじゃないですか。この映画でももちろんいいヤツとして登場する。だけど、あるシーン、三上が橋爪功のマンションに生活保護について
質問しにくるけど、孫の誕生日だからとインターフォンで追い返すシーン。あれはつらかったよ橋爪さん。橋爪さんには悪気はない。ないんだけど、三上さんめちゃくちゃ傷ついたと思う。それって三上さんが正義感から喧嘩して他人を殴ってしまうのと何が違うんだろうね。

物語も後半になってくると、僕らはわかってくる。三上のような人間がまともに生きられないのは、この社会が、世界がおかしいからだ。それが凝縮されてたのが三上の誕生日のシーンだ。みんなが集まって三上のために梶芽衣子が歌を歌う。むちゃくちゃ泣ける最高のシーンだ。(ちなみに僕は誕生日のシーンをどう撮るかに監督の力量が出ると思っている。『永い言い訳』の誕生日シーンも素晴らしかった)
ここでみんなが三上にするアドバイスがもうなんというか、地獄なのだ。まっすぐに生きてはダメだ、何かあっても見てみぬふりをしろ、みんなそうやって生きてる。あんたもそうしたらまともに生きられるよ。
ああ、このすばらしき狂った世界よ!!

家に帰った後テレビを点けたらソニー損保のCMが流れた。役所広司がガソリンスタンドで働いていた。僕は泣きました。

(後でパンフレットを読んで初めて気付いたのですが、あのシーンは誕生日じゃなくて就職祝いでした…)

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