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TOP interview vol.6

10年後の大野を考える

人口減少や高齢化、空き家問題など、まちなかの景色はどんどんと老いていく。
不安に駆られて考えれば考えるほどブクブクと潜ってしまい、思考が停止しかける。
遠くない未来にやってくる地域の問題を業界トップの方々はどう見ているのか?
そんなお話をお聞きする企画です。

第6回はずっと気になっていた農業というお仕事。
大野は見渡す限り田んぼや畑があり、田舎=農業のイメージもあるけれど
ビジネスとしては厳しいって声をよく聞きます。

実際はどうなのか?
お話を聞くと、農業は作物を作って売るだけではなく
農地を管理することで地形を守り
そこに暮らす人の未来まで考えているんだと知りました。
まさに農業は地域をコンサルタントする重要な仕事。

人が減っていく農村集落ではこれから5~10年が分岐点になります。
その時、何が起こるのか?
農地を手放しても田畑を感じて豊かに暮らせる新しい田舎を作るのか、
耕作放棄地となりなくなってしまうのか。
農業+アイデアで新しい暮らし方を創造していくことは
働き方の多様性にもつながっていくと感じました。
これからの地域づくりに興味のあるすべての人に読んで欲しいです。

企画・編集:荒島旅舎 桑原圭 / 横町編集部 三浦紋人

Interview 6

合同会社上田農園
上田輝司さん(65歳)
上田智亮さん(37歳)
※2023年4月現在

>上田農園について

「初代がいつなんかはよく知らん。」
代表の上田輝司さんは過去帳がつけられた記録からだと13代目になる。
先祖代々受け継がれてきた土地を耕し作物を育て商いする農業という仕事。
上田農園の農業の歴史は古い。
輝司さんが継いだのは26歳の時。
当時は農業従事者も多く気楽な農業をやっていたそうだ。
危機感を覚え始めたのは50歳になってから。
農業をやめていく人が増え、水稲の受託が急増、管理する田んぼの面積がどんどん増えていった。30haを越えたあたりから個人でやっていくには広すぎると会社化。
合同会社上田農園となった。

「ちょうどその時から私も関わっています。」
上田智亮さんは、大学時代からバイトで上田農園を訪れ、合同会社にするタイミングで輝司さんに声をかけられ移住。
農業という仕事が変わっていく様子を輝司さんとともに見てきた。

これまでの“気楽な農業”が加速度的に変化していく。

>農業の現状

「農業の現状を聞きたい?ブルーになるよ(笑)。」と輝司さん。
上田農園のある上庄地区は大野市でも農業が盛んな地域で
田植えや稲刈りの時は当たり前のように家族が協力して農作業をしていた。
しかし、社会は多様化し、仕事を求めて都会に出る人が増え、後継者問題や人口減少など、日々の暮らしのなかにある農業を維持することが困難になってきた。
加えて、高価な農業機械が追い打ちをかけ、故障を理由に農業を辞める人も多い。
家庭の中で”稼ぎ”の中心になかった農業をやめる理由はいくらでもあった。
国策の後押しもあり大規模農業へ農地を預ける流れも加速していき
やめていく農家からの上田農園への相談は多くなっていく。

今では100haの田んぼを管理する上田農園。
上庄を1つの地域と捉えて広大な土地を管理している。
顕在化していないだけで、耕作放棄地はどんどん増えていくそうで
「山際からどんどんと農地は減り、山が侵食してくるんや。」
日照条件や獣害、水はけの悪さから環境の悪い山際から耕作放棄地は増え、
土地が形を変えていく。

現在は100〜200人が関わっていると思われる上庄地区の農業。
「農業従事者が減ってもおそらく危機的状況にはならんやろうけど、それやと若い人が本腰にならんやろ。年寄りばっかになってまう。」
やりたい人しか残らない農業となっていく危機感。
仕事(就職、稼ぐ)という観点では選択肢から外れ、
農業は未来が描けない仕事に陥ってしまう。

これからの農業の考え方を変えていかなきゃいけない。

年々増えていく上田農園が管理する上庄地区の田んぼ

>農業のイメージを変えたい

智亮さんは現在37歳。
「農業ってメディアで流れてくるイメージで止まっていると思っています。」
昔の3K、汚くて、キツくて、危険に思われる農業イメージに問題があると智亮さんは考えている。
働く環境もまだまだ手を使う仕事はたくさんあるけど、
機械は大型化し自動化もかなり進んでいる。
倉庫を見せていただくと見たことものない巨大な機械が並び、少年心をくすぐられる。
動く姿を想像するだけでワクワクする。
「トラクターの空間って最高のプライベート空間なんです。天気のいい日に好きな音楽聴きながら運転するのは気持ちいいです。」

「農業=会社員のイメージがつきにくいんだと思いますね。でもこんなに自由な職場はないと思うんです。髪型も自由だし(笑)。」
農業には経営能力も必要になる。
管理する圃場では、自分が経営者として誰に売るかを考え、肥料などを選び管理していかないといけない。
教科書通りではうまくいかないし、肉体だけでなく頭も使わないと良いものはできない。
そこも面白いところだ。
「こんなにも成果がはっきり出る職種ってないんじゃないかなって思うんです。自分の責任で采配して管理して、1年一度成績表がもらえて、結果は毎年違う。やればやるほど面白くなる仕事だと思います。」

農業の面白さを伝え、門戸を広げること。
新しい考え方で農業のイメージを変えていく。

>農業は地域コンサルタント

「農業は地域一体を預かるもんやでさぁ。」
輝司さんが考える農業という仕事。
「田んぼを作るっていうよりは地域を作るってことも考えなあかんねん。あこにおばあちゃんとおじいちゃんがいるでここに畑作ったら2人でやるかもしれんなぁ。とかそういう社会学的な頭も必要。」
上田農園には集落単位で相談がくるそうだ。
これまで守ってきた土地を、これからの人にどう整理して残すか。
暮らしの中に残る農業と、景観、環境、循環から農地を維持していくことも考える。
農業従事者が増え、移住者が増えることは人口減、空き家問題解決にもつながる。
上田農園の農業は地域全体のことを深く考えていく仕事にもなっている。
まさに農業で上庄全体をコンサルティングし、まちづくりをしているのだ。

「でも、そういうコンサルのような仕事は年間1ヶ月くらいで、残りの11ヶ月は地道な仕事をしていかなあかん。それができるかどうかは覚悟の問題や。」
輝司さんの地道な積み重ねと覚悟が、説得力を生み、頼れる存在になっているのだと感じる。

>未来へ

上田農園は大野の農業に対して挑戦し続けている。
その1つがカルビーに収めるじゃがいも農家になったこと。
しかも福井県唯一の生産量を誇る農家になった。

「社長が0から1を作るのが得意なんです。カルビーの話もたまたま行った会合の温泉で決めてきたんです(笑)。」と智亮さん
たまたま朝風呂で一緒になったカルビーの人から、じゃがいもが足りないという話を聞いて、作れるんですか?という質問に「作れる・・・と思いますよ」と話を決めてきたそうだ。
じゃがいもを作るといっても簡単ではなく、これまでの上田農園の設備ではできない。
機械を借りてきて試作を繰り返し、巨大な機械・設備に投資し事業化した。
「社長はサウナや寝る前だとかいろんなところでひらめくんで(笑)。それを形にして現場に落とすのが僕の役割です。」
突拍子もないアイデアと現場の実行力。
このバランスが上田農園の挑戦を実現させる。

北海道から取り寄せたというじゃがいもを収穫する機械

「従来の方法では農業のパイは大きくはならん。だからこそ新しいことを仕掛けていかなあかん。例えそれが失敗するかもしれんけど、持てる能力を使い続けて、手の届く範囲で挑戦し続けていきたい。」
これが輝司さんの今後の夢だ。
新しい挑戦を生むためにアイデアは常に頭の隅っこに置いておくことが大事。
そのためには自分のベースを作ることがもっと大切だと輝司さんは語る。
日々、土を触るように、自分が触ってみて感じるその質感を大切にする。
その作業にどのくらい汗かくのか、それはどのくらい重いのかなど。
“手がどれだけ感じてるか”を輝司さんはとても大切に考えている。

輝司さんは2年後には智亮さんに世代交代する予定だと言う。
上田農園は新しいフェーズとなる。

今後のことを智亮さんに聞くと、
「現実的に地域の高齢化に伴って委託を受ける規模は200haが見えてきていると思っています。会社を存続させることは上庄地区を支えること。これは避けては通れない使命感です。私には子どもが3人いるので誰かがついでくれるといいですね。そして、親子3代で上庄を支えているんやって。今後も農業は選ぶ価値のある仕事だということを伝えていきたいですね。」
あとは女性が働ける環境づくりにも力を入れたいそうだ。
「女性は入社しても出産を機に辞める方も多いんです。これは、農業が男性の作業量ベースで仕事が作られているからで、今後は女性の働き方や居場所なんかも考えていかないといけない課題です。」

農業を働く選択肢にする。
これは、新しい仕事のあり方を提示していくことにもなる。
先祖代々受け継がれてきた農地を維持し稼ぎとしていくこと。
農業の考え方は今後いろんな業種と混ざることでまだまだ可能性が広がると感じた。

>編集部memo

・地域課題は仕事の軸となること
・農業は地域の課題を解決する地域コンサルタント
・“手がどれだけ感じてるか”を意識すること

お付き合いいただきありがとうございました。
ご感想・ご意見ありましたらコメント欄によろしくお願いします。
次回をお楽しみに!


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