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大学病院の医師はなぜ忙しい?

1.診療業務だけではない。様々な業務

医師の業務といえば、まず診療業務が思い浮かぶと思います。

私も約1年前までは、医師不足のために医師が診療業務に追われて、結果として長時間労働に繋がっていると考えていました。

しかしながら、特に大学病院に勤務する若手の医師からは、診療業務以外の大学病院や医局の雑務で忙しいという声を耳にしました。


2.アンケートの実施

診療業務以外にどの様な業務があるのか、勤務医のドクターにアンケートを実施しました。

3.アンケートの結果

(1)大学病院の雑務(医師以外でも可能な業務)

テストの監督、採点、大学(教育機関)としての会議への出席

大学の試験監督、採点業務は、複数寄せられました。大学病院が教育機関も兼ねているため、医学部生に対する教育関連業務も含まれます。

採血スピッツのラベル貼り

ラベル貼りは、多数寄せられました。

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薬局に点滴や薬を取りに行く、採血管を検査部まで持っていく、輸血を取りに行く
薬を取りに行く、検体を検査室へ運ぶ、輸血を輸血室に取りに行く、患者さんの搬送、検査室に案内(医療補助が不足している)

物品等を運ぶ、搬送業務は、多く寄せられました。

大きなポータブルX線透視装置の準備、片付け(市中病院では放射線技師が行う)
保険会社からの傷病手当の書類や労災の書類(病名、通院日等を過去のカルテを見返して日付に○を書いたりする作業。(市中病院であれば、医療事務が記載してくれていて医師は最終確認して署名するだけ)

一から作成する書類作成業務は多くの医師から寄せられました。


患者の嗜好に合わせた食事のオーダー(牛乳をヨーグルトへ変更など)

個人的に最も驚いた中の1つ。牛乳をヨーグルトへ変更も、複数寄せられました。

牛乳からヨーグルト


点滴・採血
市中病院では看護師さんの業務なので、ほとんどやったことが無かった。
点滴は、ルート確保のみならず、抗菌薬初回投与時の医師立ち合い、疼痛緩和目的のモルヒネフラッシュ(注)の実施なども病院のルールで、医師が行うこととされており、昼夜問わずに呼ばれる。

他病棟や当直室から駆けつけたとしても時間がかかるため、特に疼痛増強時のモルヒネフラッシュは、すぐそばにいる看護師さんにして頂いたほうが、患者さんのメリットが大きいと思う。

(注)もともとモルヒネを持続注射で投与しており、疼痛が増強した際にあらかじめ決められた量を追加することを言いう。シリンジポンプを使うため特別な技能は不要とのこと。
尿道カテーテル留置
市中病院では看護師の業務。カテーテル留置が難しい場合は医師が行うべきだが、全例医師が行う必要はない。
ルート確保

ルート確保は、多数寄せられました。

点滴づくり、高級薬品を混ぜる。

(2)医局の雑務

医局関連業務は、お茶入れといった雑用から学会関連業務まで多岐に渡りました。

教授に依頼された論文の査読、講演会等の写真撮影、他施設からの共同研究依頼のあったデータ入力、外勤の調整、医局員への論文の催促、上司が部屋を移動する際の部屋のものを移動させる
接待、医局のコーヒーいれ、お茶入れ、お歳暮やお中元の手配、当直時の上級医の食事手配
駐車場係、図書係、バイト調整係
医局や研究室の勧誘動画の作成、上司の先生方の学会で使用する動画制作

動画制作というスキルがあるとあらゆる動画作成業務を依頼されると感じました。

学会に提出する癌を発症後5年後に生存しているかカルテや電話で確認

元患者さんの現況を1人1人確認するのは、とても手間がかかりそうです。

教授のセミナー講演のポスター制作

教授のための仕事は多数寄せられました。

学会の運営スタッフ(ホテルの担当者と打合せなど)

大学病院は研究機関でもあるため学会関連の業務も多く寄せられました。

カンファレンスでは画像検査結果をスライドショーに貼り付けてプレゼンすることになっているため、CTやMRIの画像を1スライスずつスクリーンショットしてスライドショーに貼り付ける。多いと100枚超。(ちなみに、電子カルテを直接スクリーンに映すことも可能な環境)

直接スクリーンに映すのではだめなのでしょうか。

100枚以上の画像を1枚ずつスクリーンショットして貼り付ける。気が遠くなりそうな作業です。

学会発表や科内の勉強会が民間病院と比べて多い
患者の症例の写真の整理、病理標本の整理、医局費会計、医局年報の編集

写真整理は、沢山寄せられました。

(3)雑務の負担感、その他思うことなど

雑務は飛び込み・差し込み業務であることが多く、その業務にかかる所用時間に加え、差し込み前に行っていた業務の連続性が途絶えることの負担感が大きい。大学病院では40歳代(場合によっては50歳代前半まで)「若手」の扱いになり、年齢とともに増えていく他の業務とともに雑務もこなさなければならないので、改善されない状況に閉塞感がある。その状況を見ている若手が大学病院に残りたがらないのは当たり前である。

若手の定義に驚きました。民間企業では管理職、執行役員クラスの年代です。

大学病院ですが、少しずつ雑務を看護師やアシスタントという補助業務専門の方に移譲しつつあります。そのため、雑務がとても多いという実感はありません。

タスクシフティングが進んでいるという声も少ないながら寄せられました。

診療に支障を来すと患者さんに迷惑がかかる。そのことに責任を感じている、負わされているために行なっている雑務がある。
とにかく雑用しかない。お茶入れとか食事準備とか医者の仕事じゃない。
外来医長と研修医指導もして手取り20万円台は辛かった。

薄給を嘆く声も複数寄せられました。

深夜に麻薬の溶解で呼び出されるのが本当に辛い。看護師さんにやらせてほしい。当直の次の日も仕事なので、こういう雑用で消耗させないでほしい。当直中の雑務で寝不足になった次の日の勤務時間帯は注意が散漫になる。

当直の前は日勤、当直明けも日勤のため、翌日の勤務のためにも、せめて当直中の業務は最小限にしてほしいです。

診療時間内に外来、手術、処置が終わらないことが多いのに、やむを得ず時間外に処理する雑務関係は、患者を診察しない時間という扱いで時間外申請が出来ない。ただ自分の病院は診察や手術だと時間外申請が出来るのでまだマシな方。一切時間外を付けられない大学病院もある。

診療業務以外の雑務は、時間外の申請対象外とのこと。

医師としての労働と医師である必要がない雑務は半々くらい
採血やルート確保については、研修医であれば数ヶ月は実施するのが良いと思われるが、全ての医師がする必要はないと考える。朝の採血やルート確保で出勤時間が早まり、その分睡眠時間が減ってしまう。
市中病院では、定期処方は病棟薬剤師が代理処方して変更があれば医師が確認しているところもある。紹介状や退院サマリーの大枠を事務方が下書きしてくれるところもある。
「何かあったら責任取れませんので医師がしてください」と言われるため、責任を伴う仕事は全て医師が行わざるを得ない。
大学病院は独立行政法人化以降はどこも経営難なので、とにかく医師を安くたくさん働かせることしか考えていない。一部の正規スタッフ以外は福利厚生や各種補助も全くない。若手〜中堅医師のほぼ全てが日雇いの非常勤扱い。医師がストライキでも起こさない限り状況は変わらない気がする。
雑用多いと通常の医療に注ぐ精力が削がれる。当直明けでも普通に朝から通常業務で、そんなフラフラな状況で内視鏡治療してます。大学のみの給料が低い。30万以下!
医療安全の観点から、なんでも医師が行えば良いということなのかもしれませんが、朝夕の回診、検査や処方などのオーダー、検査結果の確認、病状説明、内視鏡などの検査業務や外来業務、カンファレンスなど医師としての業務が減ることはないため、かなり大変です。
後輩たちを見ていても、多忙により、かえってミスが起きるのではないかと案じています。
市中病院ではできる限り医師でないと出来ない業務に絞っているので10人主治医で担当していても余裕があるが、大学病院では5人を越えると時間が足りなくなる
医師たち自身が激務薄給をもはや美徳かのように受け入れてきた事実のせいで今の惨状があると思う。40代、50代以上の医師には特に休みや給料について前時代的な考えの人ばかり。しかし若手は声を上げれば間違いなくキャリアはそこで潰されてしまうので、長崎の過労死の事件など、誰かが人柱となって労基署や政府など外部の力が介入してくれるのをじっと待っているのが実情だと思う。

4.最後に

最後のコメントの点は、いつも感じていて、声を挙げるとキャリアにおいて不利益な扱いを受けるリスクがあり、労基法を無視した長時間労働や時間外手当の未払に声を挙げるドクターがほとんどいないため、依然として改善されないという状況が続いていると感じています。

大学病院は、臨床、教育、研究の3つの役割を担っており、大学病院の勤務医は、診療業務、医学部生への教育、学会発表など3つの役割それぞれの医師としての業務があります。

これらの医師としての業務に加えて、市中病院では通常コメディカルや医療事務、医療補助が行う業務を大学病院の医師が行っており、更に多忙、長時間労働の原因になっています。

2024年からは医師にも、時間外労働の上限規制が適用されます。医師にしかできない業務は医師が行わざるを得ないので、まずは、医師以外でも可能な業務は医師以外が行うことで、時間外労働の削減につながることを願っています。

最後まで読んで頂きありがとうございました。また、お忙しい中、アンケートにご協力いただいたドクターの皆様、ありがとうございました。

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