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医師として働くのが辛くなったときの対処法

こんにちは。あらきんこと弁護士の荒木優子です。Twitter:@arakin_1019

1.はじめに

大学病院や市中病院で勤務する中で、長時間労働、職場の人間関係、ハラスメントなどによって働くのが辛くなるドクターも少なくないと思います。

特に、若いドクターの場合、初めての経験でどのように対応したら良いか分からない、周りに相談できる人がいない、先輩ドクターや同僚のドクターと比較してしまい更に自分を追い詰めてしまっている方もいらっしゃると思います。

アンケートで、「医師として働くことが辛くなったときの対処法」を募集しました。35名もの年代も科も様々なドクターに回答いただきました。(2021年1月16日午後1時時点)



アンケートの結果を共有いたします。

2.医師歴と現在の状況

医師歴と現在の状況

3.勤務先

市中病院が約70%、大学病院が約20%です。

勤務先

4.診療科

様々な診療科の方から回答をいただきました。

診療科(画像)

5.医師として働くのが辛いと思ったことがありますか?

97%もの方が医師として働くことが辛いと思ったことがあるとの回答でした。

医師として働くのが辛いと思ったことの有無

6.医師として働くのが辛くなった理由

医師として働くのが辛くなった理由

(複数回答可)

・TOP3

長時間労働・・・27件(約80%)

職場の人間関係・・・19件(約55%)

ハラスメント(パワハラ・セクハラ)・・・15件(約44%)

個別に寄せられた回答を紹介します。ご自身に当てはまるものもあると思います。

・仕事のやりがい

病院としてのスタンスや方向性がはっきりせず今の仕事の意味を見出せなかったから。(脳神経内科 11~19年目)

・大学病院勤務とアルバイト勤務がストレス

大学の給与が不十分で生活のためにアルバイトをしないといけない。複数の勤務地はストレスだった。大学の診療は休み時間が不十分で一日中フル稼働で判断を求められる状況だった。(内科 11~19年目)

・患者さんや家族に対する対応がストレス

患者さんやご家族からの八つ当たり。(呼吸器内科 11~19年目)
クレーマー対応(産業医 11~19年目)
患者からの自分やスタッフへの暴言(放射線科 20年目以降)

・医師としての責任の重さや臨床能力についての悩み

責任の重さ(産業医 11~19年目)
環境変化への不適応(脳神経内科 11~19年目)
自分の医師としての臨床能力の低さ(初期研修医)
能力不足(専攻医・後期研修医 消化器外科)

7.医師として働くのが辛くなったときの対応

・とにかく休む系(業種を問わず仕事で疲れたら仕事のことを考えずにひたすら休むことが大事ですよね)

・1週間休んだ(初期研修医)・1日休む/医学情報から断絶(内科 20年目以降)・休みの日にひたすら寝る(専攻医・後期研修医 耳鼻咽喉科)

・辞めて、転職(転科)

休み時間もPHSがいつ鳴るかと思うと、ストレスに感じて動悸がするようになって、大学を離れた。(内科 11~19年目)

退局した。今は、フリーランス。(糖尿病内科 6~10年目)

今の仕事は年度末までと決め、年度替わりに一旦仕事から離れた。
そして、やりたいこと、学びたいことが出来る地域、病院を半年探した。(脳神経内科 11~19年目)

自分が納得いくまで勤務先を探すのは大事だと思います。

大学医局を辞め、個人交渉にて市中病院勤務。その後に親のクリニックを継承。(消化器内科 11~19年目)

辞めた。人生逃げないといけないときがある。(内科 6~10年目)

転職活動(救急科 11~19年目)

外科を辞めて産業医になった(産業医 11~19年目)

辞めようとしたら、以前の職場から声がかかり異動できた(大学病院 整形外科 11~19年目)

・ストレス発散系

同業の恋人と話す、医療関係以外の激務の友人と話す、で紛らわせているが、朝起きて布団から出るのがつらい。(専攻医・後期研修医 耳鼻咽喉科)

家庭で発散(麻酔科 6~10年目)

・行動を起こした方、相談した方

上司に訴えましたが、あまり深刻に取り合ってもらえず。数日間休むことを繰り返しなんとか続けましたが、最終的に立ち行かなくなり休職、その後転科。(総合診療科(元は外科) 専攻医・後期研修医)

カウンセリングを受けた。信頼できる方に相談した。(腫瘍内科 20年目以降)

身近に相談できる方がいないときは、カウンセリングなど、プロに頼るのも選択肢だと思います。一人で悩まず、誰かに相談することが大事。

精神的不調で仕事に支障を来たし、精神科を受診して抑うつ状態の診断で休職を指示されました。復職時は別の職場(大学→市中)で長時間労働はやはりあったもののパワハラなどの全くない環境であり周囲と同じように働けました。復職後、産業医講習を受講しました。当初は産業医として働くことで自分のワークライフバランスを守りたいと目論んで受講しましたが、結局は外科医を続けています。しかし講習を受講したことで、自分たちの職場環境を客観的に分析することができ、精神的な安定には役立っています(休職したのは自分が弱かっただけではないと思えたので)。また現在の職場では、周囲や患者さんに自ら働きかけています。病状説明は平日日勤帯で調整することなど、少しずつ理解を得ているところです。(消化器外科 11~19年目)

休職されても復職して、外科医を続けられているとのご経験談ありがとうございます。一度、休んだら医師としてのキャリアが終わってしまうと思い悩んで、更に無理してしまいがちという状況があると思います。休職されたことで客観的に職場環境を分析することができ、少しずつ働き方改革を進められているとのこと、ありがとうございます。

ハラスメント→事務・院内の委員会に申し立て、必要に応じ警察(院内に出入りあり)、弁護士(病院委託の)に相談(放射線科 20年目以降)

・耐えた、何もしなかった

とにかく我慢(精神科 11~19年目)

長時間労働については自分でコントロールできず、僻地勤務で上司たちも激務で余裕がなかったので、気を逸らすようにして我慢し、忙しさが過ぎ去るのを待っていました。(呼吸器内科 11~19年目)

耐えた、歯を食いしばって耐えた(眼科 専攻医・後期研修医、麻酔・集中治療 11~19年目)

仕方ないと心を無にした(麻酔科 専攻医後期研修医/大学病院)

慣れた(脳神経内科 11~19年目)

何もしていない(小児科 11~19年目、外科 20年目以降)

8.長時間労働、パワハラ等で働くのが辛くなっている主に若手医師に対するメッセージ

まず、このメッセージを読んで下さい。

まず辛いときは、考えも視野も狭くなっていて、こうしなければならないとか、こうでなければ終わりだというような思考になりがちです。ただ10年ちょいの自分のこれまでを振り返って見ると、その時はそう思えたけど、通りすぎてみるとなんとかなってたことが多いです。
上記のような破滅思考に陥ったら、まず寝て休む。危ない状態で仕事を続けないことです。世の中には、他人を壊して生きている、まさに鬼滅の刃の鬼のような人が実在します。意外と名医とよばれていたりします。
そういう人に喰われて辛くなったとしても、それはあなたが悪くはないです。
名医もあなたの人生の責任はとってくれません。どうせ一度の人生、納得いくようにした方がよいです。決断なんてすぐしなくても、なんとなく流されたって良いじゃないかとも思います。休んで寝てご飯たべてからでも、遅くはないです。(大学病院 整形外科 11~19年目)

自分が弱いから、出来ないからと思うかもしれませんが、それは間違いです。あなたは十分特別です。受験し医学を学ぶ資格を得て、国家試験にも合格し医師免許を取得したのです。自分を大切にして下さい。まずどうどうと休みましょう。
すぐに休む決断をするのが難しければ区切り(初期研修医であれば科の変わり目、専攻医であれば年度など)を決めると休みやすいです。
休んで少し元気が出てきても、すぐに元の道で全力で走ろうとしなくてよいです。あなたが思っている以上に選べる道はあります。道を変えてもそれまでやってきたことも無駄になりません。世の中は広く、必ずあなたを必要としてくれる人や相性のよい職場があるはずです。(脳神経内科 11~19年目)

必要に応じて休職する。多忙科だと良くも悪くも実は休職してた先生が結構いたりします。
専門研修プログラムは意外と場所を簡単に変えられますから環境を変えてみるのは良いかもしれません。
医局はどこに配属されるか、配属される場所の労働環境など基本的に選べませんから注意を。地方医局の僻地派遣病院は人員の少なさ、停滞感が想像していたより地獄でした。
個人的にはダメな労働環境なら、しがみつくよりもさっさと辞めたほうが医学界全体の考え方を変えていくためにも良いのではと思っています。(専攻医・後期研修医 総合診療科(元は外科))

・とにかく逃げるのは大事

逃げる。人間やめる前に医者やめよう。医者じゃなくても生きてりゃいいことあるし、一度逃げたくらいじゃ医師免許はなくならない(脳神経内科 11~19年目)
死んだら終わり。やばければ逃げて。今の科をやめても生きていける。なんなら医者やめても生きていける。(外科・産業医 11~19年目)

・相談も大事

信頼できる知人を見つけて相談して下さい できればそんな職場からは離れて下さい。(長時間労働、ハラスメントを我慢している)私のようにはならないで下さい。(精神科 11~19年目)


僕らが仕事手伝うから帰って寝ろ。(大学病院小児科 11~19年目)

唯一、医師として働くことが辛くなったことが無いというドクターから頼もしいメッセージ頂きました。

どの職場にも超人的に働くドクターいらっしゃると思います。比較して無理するのではなく、ときには超人的な先輩ドクターに頼って、休むこと大事です。

上司に率直に相談した方がよい。上司の評価や研修の遅れが気になるかもしれないけれど、医者人生は長いので、一時的に休職や仕事量を減らしても後から見れば殆ど問題にならないと思う。心や体を壊す方が取り返しがつかない。(消化器内科 11~19年目)

一時的に休んでも、長期的な医師人生からみれば、些細なこと。無理して取返しがつかなくなる方が、医師人生におけるダメージが大きい。

・是非読んでください

"その辛さが未来の自分の糧にもなるだろうけど、今の時代にはそぐわない。
パワハラが行われているならメモでもいいから記録として残しておけばいい。それだけで抑止力になるかもしれない。
なんにせよ、勇気を持って職場を変えるのも1つ。医局や上司もあなたの人生を最後まで面倒見るわけではない。流されず自分の責任で、自分の選択で職場を選ぶこともあなたの権利。流されてその職場に居続けて文句を言っているのだとしたらそれは自分にも責任がある。人が辞めるということはその環境に問題があるわけで…辞めたことで自分を責める必要はない。"(麻酔科・集中治療 11~19年目)

これまで私たちは、24時間365日全力で対応できる人間だけが医師1人分とカウントされてきました。今でも普通に休みたいと主張すること自体を医師失格のように扱う職場があるかもしれませんが、それは誤りです。長時間労働やパワハラを受けて、あなたが働くのが辛いと感じるのは、あなたが弱かったり、能力が低いせいではありません。自分を責めないでください。(消化器外科 11~19年目)

長時間労働で辛かったのは、自分が研修医から3年目の低学年の頃でした。責任感や、これに耐えなきゃ一人前になれない、みんなも頑張っているのだから自分だけ甘えは言えない、という若さゆえの思い込みもあったと思います。今になって振り返ると、自分でハードルを上げずに、もっと周りに相談すれば良かったと思います。(大学病院 呼吸器内科 11~19年目)

別にブランド病院でなくとも医師は続けられるし、探せば専門医の修練を積み、QOLを上げ、医師の収入を上げる方法は割とある。人生をそこで終えてしまったらそれこそ今までしたことが0になる。その職場がつらくて辞めたいなら辞めた方がいい。辞めた職場のことを何とかするのは上層部の責任であり、仕事。そもそも、そういう環境を変えなかった上層部の責任。(消化器内科 6~10年目)

うつ状態になる前にとにかく逃げてほしい。何とかなる。(心臓外科 11~19年目)

①働くことそのものが辛いのであれば、絶対的に休養が必要です。半年でも1年でも、もっと長くても、心が軽くなるまで休むべきです。責任感が強い人ほど「自分が休んだら周りが困る」と思いがちですが、医師一人いなくなっても世の中は回ります。そういうものです。まずは「休むのだ」という確固たる意志を持つのです。休まれては困ると言ってくる人がいたとしても、その人はあなたの人生に責任を持ってくれるわけではありません。あなたが病気になろうが自殺しようが、その人はあなたやあなたの家族をを救うような手を差し伸べてはくれません。次のコマを探すだけなのです。


②あなたの人生を救うのはあなた自身です。自分が弱っているときは休むことを恐れないで。そして少し周りを見る余裕ができたら、医師としての仕事をまたしたいと思うのかどうか。働くとしたらどのくらいのペースで働きたいのか。それを叶えるにはどのような職場を選んだら良いか。しっかりリサーチしていきましょう。そのころには、自分が今置かれている立場や状況を俯瞰してみることができるようになっているのではないでしょうか。

③私は幸いに医師として働くことを辛いと思ったことはありませんが、早く辞めたいと思った職場はあります。今は開業医となり仕事量を自分で調節できるようになりましたが、ここにたどり着くまでには様々なことがありました。過去には精神科に通院したこともあります。そういった波を越えてきて、「休養は大事」という、実にシンプルなことに、やっと数年前に気付きました。休養をとればパワハラ上司からも距離を置くことができます。がんばりすぎる必要はないのです。(①~③ 泌尿器科 20年目以降)

医師の世界は、辞める権利は働く側にある、という事が全く浸透しておらず、先輩、上司に迷惑かけるやつはおかしい奴だという観念が横行しています。そのために自殺する人までいます。まず大事にするべきは自分であり、自分の家族であり、決して先輩でも上司でも無いことに気づいて欲しいです。(脳神経内科 11~19年目)

患者さんのためを思って無理するドクター多いと思います。まず、大事にするのは自分と自分が病気になったら悲しむ家族。

アンケートへのご協力ありがとうございました。アンケートに協力いただいた方のお陰でこのnoteを作成できました。

97%ものドクターが医師として働くことが辛くなった経験があると回答したように、医師として働くのが辛くなることは誰しも経験することだと思います。辛くなったときの対処法を共有することで、現在働くのが辛い方や将来辛くなったときに参考になれば嬉しいです。

9.追記(2021年1月22日)

このnoteを公開後もアンケートに回答が増えていきました。一部をご紹介します。

①その職場や上司などのルールや考え方が正しいとは限らず、少数派に思える自分の考えが正しいことも多い。職場外の友人などは辞めるべき、と簡単に言うかもしれないが、仕事が生活の中心となり洗脳されたような状態では、辛くても退職などの判断もできなくなっている。そのような中でも、その場所が世界の全てではないということを頭におき、少しずつでも自分の職場以外と繋がり続け、他の病院の状況ややりたいこと、趣味などなんでもいいのでアンテナを外に向かって立てて世界を閉じてしまわないようにする。Twitterも繋がるツール。

②私個人は、転職後に振り返りを行うと、上記のようなことをしていたら、すべての条件が転職は今!と示している状況となり、転職した。
「ここで働けないなら外へ行っても働けないよ」「訪問診療なんてまだ早い(年取ってからでもやれるでしょ)」と対象を見下して翻意を促すような、おそらく多くの人が言われている発言は、全くそんなことはなく、辞められないための一種のパワハラです。
またこれまでの専門を続けないといけない、それしかできないと思う必要はなく、先々続けられることはなにか、が大事です。私は専門を変える決心がつくのに2年ほどかかりましたが。いずれにそよ、上司よりこちらの方が長く働かないといけないし、上司は今後の人生にも、体を壊しても責任は取ってくれません。(①~② 11~19年目 血液内科→訪問診療)


10.追記(2022年6月7日)

沢山の方にお読みいただきありがとうございます。
このnoteを読んで泣けてきそうになった方、今、頑張り過ぎているのではないでしょうか。
医師の労働時間の平均は他の職種とは一線を画する激務です。医師の中では普通でも客観的にみると過労死基準を超える危険な状態だと思います。
激務(長時間労働)に加えて、職場の人間関係が良く無かったり、パワハラがあったりすると誰にも相談できず孤立して追い詰められてしまいます。激務は正常な思考まで奪ってしまいます。
特に3年目以降の専攻医は激務であることが厚労省の調査によっても明らかになっています。
医師として病気になった患者さんを治療して病気を治すことも重要ですが、患者さんが病気になることを防ぐことができるのであれば予防したいと思われると思います。
私も長時間労働やパワハラに遭って働けなくなった後に相談に来られるよりもできることなら働けなくなる前に何とかできなかったのかなという気持ちでいます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(おわり)


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