格ゲー英語の謎を追う -アンダーナイト・インヴァース「Notes」編-

【文字数:約二三〇〇 初稿:二〇二〇/一〇/二六】

 先日、アークレボと云うオンラインの対戦格闘ゲームの大会動画を観ていたんですが、これにはチャット機能が有りまして、観戦者同士で文字を入力する事で会話等が出来る訳です。で、その中でも、アンダーナイトインヴァースと云う作品はどうやら海外にて人気が高いようでして、チャット欄では英語がたくさん飛び交っている訳ですよ。

 で、最近、私は歴史の記事を書くために漢文の翻訳をやっておりまして、翻訳癖みたいなものが付き始めているので、英語のチャットの意味も調べたくなる訳です。今はインターネットと云う文明の利器が発達しておりますから、翻訳は検索機能を使えばだいぶやりやすいので、中学生の時には英語で赤点を取った私でも手間を惜しまなければ英語を理解できる訳です。

 しかし、この場所で飛び交っているのは対戦格闘ゲームつまり格ゲー用の英語。直訳して意味がそのまま通じるとは限りません。スラング(業界特有の方言)も混じっているかもしれませんし、上品な云い回しだけ使われているとは限らないので、意味を理解しづらい事も起こる訳です。

 とは云え、「IT'S KURUSII」ってチャットは読めますね。ネイティブのように。

 それはともかく、私は観戦がてら気になった英語のチャットの意味を調べていたのですが、「so much for Notes」と云う文章に出会った時に困ってしまいました。「notes」は直訳すると記録みたいな意味になって理解できない。なので、ちょっと意味を推測しました。「notes(ノーツ)」は「譜面」と云う意味で音楽ゲームで使われていたはずなので「音ゲー」と訳する事が出来るのでは。つまり、「so much for Notes」は「この対戦は音ゲーだね」って事になるでしょうか。この対戦動画で行われているのはいわゆるコンボゲー、つまり、ボタンを拍子良く押し続ける事で一方的に攻撃する時間が長くなりがちなゲームなので、それを揶揄《やゆ》して「音ゲーのようだね(つまり、一人でボタンを押して遊んでいるだけだね)」と云う皮肉な云い回しが出てきても不思議では無い訳です。

 私自身も『ギルティギア』のRev2にてラムレザルと云うキャラのエリアルコンボを練習していた時には音ゲーみを感じましたよ。事実、コンボゲーは半分音ゲーみたいなものかもしれないですね。自分との戦いです。

 ともあれ、他のチャットでも「​Is Notes in this tourney?」や「notes just lost」と云っているので、もし、Notesを音ゲーと訳すと「このトーナメントは音ゲーなのか?(煽り)」「音ゲーキャラは今負けたよ(煽り)」ってなるので、ちょっとキツい云い回しが飛び交っている事になります。すごく格ゲーマーっぽくはありますが…これで本当に合っているのでしょうか…。

 結局、その時には、これで翻訳を終えたのですが、後日、新しい解釈を思いつきました。Notesは「音ゲー」では無く「音ゲーみたいな戦い方をする特定のキャラの綽名《あだな》」の可能性も有るのではないでしょうか。

 例えば、ヒルダと云うキャラが「Hildy(ヒルディー)」と呼ばれていたり、ゴルドーと云うキャラが短縮形で「Gold(ゴード)」と呼ばれていたりするので、それと同じように、特定のキャラを「Notes」つまり音ゲー君みたいな意味の綽名で呼んでいる可能性が有るなと。例えば、日本人がアメリカにて現地の人と馴染み深くなると全く英語の名前で呼ばれる事が有るみたいなので、格ゲーでも日本人的な名前をしていて英語としては発音しづらいキャラの場合だと、英語的な綽名を付けられるのは自然な事かもしれません。

 そう考えると、すでに述べた「​Is Notes in this tourney?」は「音ゲー君はこのトーナメントへ出てる?」となりますし、それに対して「notes just lost」と返すのも自然になります。では、もし、この訳が正しいとすれば、「Notes」とは誰の事を指しているのでしょうか。

 そんな訳で、大会動画を見返してみたんですが……。

 大会出場者の中に、
 「Notes」と云う名前のプレイヤーさんがいらっしゃいました。

 そう来たかあ~。ここまでスルドい推理みたいな事を決めておきながら、オチはそれかい。セトやビャクヤ、特にビャクヤ辺りが正解だったら、オチがキレイに決まるなあ、みたいな事を期待していただけに、このマヌケなオチで許されるのか恐怖すら覚える。

 チャットを見返すと、ノーツさん、ノーツさん、って日本語で呼ばれていますね。英語ばかり読んでいて日本語を見落としていたァ? 視野の狭さを咎《とが》められてフルコン決められてブレイクダウンッ。私の負けです……。翻訳家としての未熟さを思い知らされる対戦でした。対ありでしたッッッ。策士、策に溺れるとはこの事か。意味が分からない単語はたいてい人名か地名の法則ですな。

 ちなみに、この動画のチャットを少々訳したおかげで、私の語学用の記録帳に英語の情報が追加されたのですが、その例文が「This Hildy got some nice combos.(このヒルダはぼちぼちええコンボ決めたなあ)」みたいな内容になっているので、格ゲー以外では使いそうに無い。でも、好きな事や得意な分野から入っていくのが最も身に付きやすい勉強法ではないでしょうかね。興味が無い文章を「歯ァ食い縛れェ!」な厳しいスパルタ式で訳そうとしてもやる気が出ませんからね。[了]

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<更新履歴>
2020/10/26:notesの直訳の意味を「記録帳」から「記録」に修正。
10/27,11/20:文字以外の部分を微調整。

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