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しっぽをたてろ!――斎藤惇夫作品について(1880文字)

斎藤惇夫

という作家さんをご存知でありましょうか?

今回は、

斎藤惇夫さん

の作品について書かせていただきます。

――

「児童文学研究会に入っているの」

と、春浅きキャンパスの、うらぶれた学生棟の片隅で郁美ちゃん(仮名)は言った。

僕は郁美ちゃんに興味があった。ので、児童文学に興味があるふりをしてこんなふうに応えた。

「ガンバの冒険、ってば、サイコーにいいよね!」

すると郁美ちゃん、

「冒険者たち、いいわよね!」

と話にのってくれた。

斎藤惇夫先生に感謝した。

『ガンバの冒険』ってのはアニメ化されたあとのタイトルであって、原作のタイトルは『冒険者たち』。

町ネズミのガンバが、ひろーいひろーい海に出て、15ひきの仲間たちとともに、ある島にたどり着き、そこでイタチのノロイと対決する物語。

――

「これも海かっ! とか叫ぶんですよ、ガンバは。で、甲板をずうっと走っていって、船の外を睨んで、でもってまた叫ぶんです、これも海かっっ! みたいに……!」

だなんて僕は捲し立てた。入社試験の一次面接で。好きな本について語ってください、とのリクエストに応えて。

『ライ麦畑でつかまえて』について語ろうか……と一瞬迷ったんだけど、ホールデン・コールフィールドみたいなバカだとバレたら落とされちゃってただろうから、『冒険者たち』について語って正解だったなって今でも思う。

「高校生の頃に読んだんですよ、『冒険者たち』。すっごくよかったです。僕も出たいなって思いました、広い海に! 信頼できる仲間たちと!」

なかなかに好ましい騙り、いや、語りだったんじゃないかと思う。児童文学を「高校時代に」読んで、でもってやたらと熱くなってた……、僕が面接官でもそういうバカを採りたい。

斎藤惇夫先生に感謝である。

――

で、今。

今は『冒険者たち』よりも『グリックの冒険』のほうが好きかもしれない。

『グリックの冒険』は斎藤惇夫先生の処女作。

カゴから逃げ出したシマリスのグリックが、足の悪い、のんのんというシマリスとともに北の森を目指す物語――。

北の森、っていうのは野生のリスたちの楽園で。

のんのんは、ある悲壮な決意を胸にそこを目指しているのであった。

旅の途中、流されてしまった小舟の上でだったか、のんのんは言う。

「もうダメだわ。こうなったらわたし、いちかばちか飛び込んで、岸を目指して泳いでみるわ!」

とかなんとか(記憶によればそんな感じのことを)。

グリックは、「ダメだ。飛び込むことは許さない!」みたいに言い放つ。

のんのんは逆上する。

「じゃあ、どうしろって言うのよ!」

だなんて叫ぶ。

「わからない」とグリックは応える。「わからないけど、無駄死にはさせない」

「あなたになんて、わたしの気持ち、わかりっこないわっ!」

みたいにまた叫ぶのんのん。

のんのんは思い詰めていて。だからいつも追い詰められていて。

そんなのんのんを励ましたり、叱ったり、慰めたり、笑わせたりしながらグリックは旅を続ける、投げ出さないで――。

ペットだった頃のひよわさを捨て、旅に鍛えられながら成長してゆく。そして北の森にたどり着き――。

『冒険者たち』は、悲壮な戦いを描きつつも、どこか明るく、そして軽い。たぶん、海が引き受けているからだと思う、哀しみや痛みを。

一方で『グリックの冒険』は、グリックとのんのんが分かち合っているのだと思う、哀しみや痛みを。だからそのぶんのっぴきならない。

社会に出るとき、僕は、海に出たいと思いながら『冒険者たち』を愛していた。

今、妻と暮らしながら僕は、グリックの強さを目指しているのかもしれない。

――

斎藤惇夫先生の三部作を紹介します。

・1970年
『グリックの冒険』
日本児童文学者協会新人賞受賞


・1972年
『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』
国際児童年特別アンデルセン賞優良作品


・1983年
『ガンバとカワウソの冒険』
野間児童文芸賞受賞

――

机上の、ガンバと仲間たちのフィギュア。
中央がガンバ。ヨイショと睨み合っている。
奥の帽子はシジン。
その横がガンバの町ネズミ時代からの友人、ボーボ。
穴の中で、手にサイコロを握っているのがイカサマ。
手前のぐりぐり眼鏡はガクシャ。
ヨイショは力で、ガクシャは頭脳で、
船乗り仲間をリードしている。
そして、ガクシャの横の小さい子が忠太。
背中に地図を背負っている。
イタチのノロイに襲われた島を抜け出し、
港にやって来て、助けを求めた。
忠太の真摯な求めに、無謀にもガンバが応えて、
みんなの旅が始まった!!

――

テレビアニメのエンディング主題歌『冒険者たちのバラード』(子供向けアニメの主題歌にしては深すぎる名作であったかと)↓


文庫本を買わせていただきます😀!