炎の男の実録檄白手記!~俺の備忘録~最終話
思った以上にアラケン軍団はお荷物だった。
全員がクビになりかけた劣等生ばかりなわけで実力が無いのはわかってたんだ。
だけどまさかこれほどとは思わなかったんだよね。
俺の経験を元にしてスカウトのノウハウを教えたらなんとかなるんじゃないかと甘く考えていた。
いやほんと甘かったね。
あいつらやる気が無いって言うか飲み込みが悪いんだよ。悪すぎる。
それにだよ。
軍団はやたら人数が多いから一人一人に直接レクチャーするわけにはいかないんだ。
よくわかったよ。
俺の背中を見て動いてくれるだろうなんて、マジで甘い考えだった。
脅したりすかしたりもした。朝のミーティングでも、とにかく街に出て声をかけろと口が酸っぱくなるまで言ったよ。
だけど、笛吹けども踊らずだった。
しばらく様子を見たけど、駄目だった。ものの一週間でギブアップしたね。
勘弁してよって。
さすがに諦めかけた。
あの統制のとれたチームKをまくるなんて不可能だと思ったんだ。
粋がって軍団なんか作るからだよ。ザマアミロ。
そんなKの声が聞こえてくる。
街で出会うスカウトマンも軍団をもてあましてる俺を好奇の目で見ている気がする。俺のやることには口を挟まない事務所のボスも何か言いたそうな感じだ。
マジで四面楚歌だった。
半年後に迫ってきた団体のポイント制。このままだとチームKにダブルスコアで敗れること必至だった。
逆に燃えてきたね。
確かにアラケン軍団はお荷物軍団だ。事務所からお払い箱になる連中を集めたんだから無理もない。
チームK以上の業績をあげるなんて不可能ってことは百も承知だ。
お荷物、上等だよ。
こうなったら、不可能を可能にしてやろう。
俺の中でメラメラとやる気が燃え上がってきたんだ。
考えてみれば、俺の問題だったわけだよ。人が多すぎるということを逃げ口上にして彼らと向き合ってないことがわかったんだ。
オタクな奴、真面目な奴、引っ込み思案な奴……そう彼らは素晴らしい個性を持っている。
彼らに必要なものは成功体験だ。こいつらは、今まで負け犬だったはずだ。
結果を出して人に褒められたことなんてない。
自信が持てないまま自我だけが大きくなってしまった奴らなわけだ。
一度でいい。
成功を体験し、自信を持てればこいつらは変わる!
一流のスカウトマンになれる!ほんとの意味での「アラケン軍団」になれる!
その日から俺は彼らに密着した。自分のスカウト業務は棚上げして、彼ら一人一人に向き合った。
歩いてる女の子に声をかけるタイミング、立ち止まった女の子に話を聞いてもらうノウハウ、紹介する店との連携……そういったスカウトの実務を現場で体験させていった。
○美人に声をかけなくてもいい
○自分が話やすい相手を見つける
○その子にあった店を誠意を持って探す
○店のマネージャーとは本音でぶつかる
そんな基本を現場で体験させた。
俺のサポートもあったが、軍団の中でも一番の劣等生がスカウトに成功した。
一人がスカウトに成功すると何人も後に続いた。やれば出来るんだということが彼らにも実感としてわかってきたんだと思う。
それからは驚くくらいスカウトの実績があがっていった。今まで封じ込まれていた彼らの真の実力が解放されていく瞬間だった。
成功体験は人を変える。
アラケン軍団は見事に生まれ変わった。
彼らは毎日生き生きした表情で街に飛び出して行ったよ。俺に強制されたわけじゃなく、自分の意思でだ。
Kが焦っているのは手に取るようにわかった。アラケン軍団に追い上げられているのを実感しているんだろう。
Kがかなり悪どいことをしてるって噂が聞こえてきた。
女の子をダブルブッキングしたり、契約の途中で店を辞めさせたりしてるらしい。
スカウト業界のルールを無視して、なりふり構わずポイントをあげ始めたわけだ。
その時点で俺は勝利を確信したよ。
スカウトマンの本分はポイントの高低ではない。
いかに女の子の気持ちを理解してあげるか、そこにかかっている。
なのにKは女の子の気持ちなんてお構い無しに、ただポイントの犠牲にしているだけだった。
結果としてスカウトの本分を放棄したKは、すでに俺の敵ではなかった。
ポイント発表のその日、Kは事務所に顔を出さなかった。僅差でアラケン軍団がチームKを上回った。
ほんと、際どかった。
Kが悪どいことさえしていなかったら、チームKの勝利だったろう。
軍団の勝利に酔いながら、俺はそろそろかなと考え始めていた。そう、結果を出したからこそスカウトの向こう側が視野に入ってきたんだ。
このままスカウトマンとしてやり続けていいんだろうか?
俺の中でそんな疑問が芽生えてきた。
たまたまスカウトの実績はあげることが出来た。
軍団も育てることが出来た。でも、果たしてそれでいいのか?
俺の居場所の問題だった。
スカウト業、ここが俺の居場所として正しいのか?
まだ何も見えてはいなかったが、ここが居場所じゃないことだけはわかった。
俺も変わる時期に来ていると実感した。まだ見ぬ何かに向かって一歩踏み出すのは今なんだと俺の中の誰かが俺に言い始めた。
予感だった。
予感は当たった。
その後、しばらくして俺はスカウトの世界から離れることになる。
俺がどの世界へと旅立ったのか、そこで自分の居場所を見つけられたのかはまた別の機会に語りたい。
なんの取り柄もなく、出会い系でナンパばかりしていたポンコツな俺でもこうしてスカウトマンして実績を残せたことを伝えてこの連載を一旦閉じようと思う。
長い間、駄文に付き合ってくれてほんとにありがとう!
感謝してます。
アラケン。
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