100年前からデータドリブンな経営を研究する経営工学という学問の話
いつもよりちょっとポエム感薄めだけどポエムです
導入
データサイエンスブーム以降、ちょくちょく話に聞く「データドリブン経営」という言葉がある。2019年にはハーバード・ビジネス・レビューが特集を組んでたりとか、ちょいちょいバズワード化していた感のある言葉である。
昨今のDXブームと、ちょっと前のAIブームと混ざってよくわからない言葉になりつつあるこのデータドリブンな経営。今でもデータサイエンス界隈では「データに基づく意思決定」みたいな言葉がしきりに言われるけれど。なんとなく、元経営工学徒的には違和感のあるムーブメントだったりする。
別に否定する気は無いし、私以外の経営工学出身者がどう思うかも知らないけれど、こういう「経営において(データを用いて)科学的/数理的/工学的に意思決定をする」というのは何も新しいことではない。
どうも、ちょっと前まではデータサイエンス=情報工学屋のモノだったのが、ここ最近になって経営工学屋がデータサイエンスをツールとして用いるようになったのではないか、という気がする。実際、弊社弊部の直近の中途採用を見ると、情報工学系出身者よりも経営工学系出身者の方が"ビジネスに成果を出す"という意思の強さを感じる。
ということで、今日は経営工学という学問をちょっと紹介しようと思うよ。
経営"工学"とは
意外と理系の人にも知られてないけど、経営課題を工学的なアプローチで解決するための学問。一般的に経営学の方が間口が広くて、大学にも「経営学部」とか「商学部」みたいな学部が存在するけれども、これらは"文系"に括られることが多い。
これに対して、経営工学は"工学"なので、理系に括られる。こないだも理系の人に「え、経営工学って理系ですか?」って聞かれたけど理系です。工学とは何かっていうのもまた難しい定義だけれど
基礎科学である数学・化学・物理学などを工業生産に応用する学問
だそうです。まあこの手の定義は明確な仕切りがあるわけじゃないし突き詰めると沼が深いので、とりあえずは「数字で解決する」くらいのイメージで良かろう。
大学の授業のレベルでいうと、経営学(MBA)と共通の部分は多いのだけれど、経営学がフレームワークの学習とケーススタディが中心なのに対し、経営工学は実験(とは言ってもシミュレーションだけど)と統計的な分析が多いのが違うところだろうか。あんま授業の内容とか覚えてないけど。
対象領域もたくさんあるけど、わかりやすいところで言うと工場の効率化だったり、物流の効率化だったり、モノづくりの品質管理だったり。マーケティングとか金融分野なんかも対象で、まあ大抵どの業界でもおおよそ"会社"っていうものは対象になっている。
私の学生時代の専攻は(多品種少量生産の)工場の効率化。他に同じ研究室には生産拠点の立て方だったり、新製品開発だったり、医療現場の効率化だったり、介護施設の効率化だったりを研究してる人がいた感じ。
となりの研究室行くとマーケティングだったりライフサイクルマネジメントだったりリスクマネジメントだったり。面白いのだと食品開発のための味覚研究なんかしてる人もいた気がする。
大学でいうと、東大のシステム創成とかがそうらしいけど、有名なのは東工大の経営工学とか、慶応の管理工学(今は違う名前になったらしい)とかだろうか。
経営工学の歴史
タイトルの通り、この経営工学って分野は実は100年以上前から存在している。その歴史はたいていフレデリック・テイラーの科学的管理法が元祖として語られる。 まあ読んだことないけど貼っておく。1911年の出版。
彼がやったのが、まさに今のデータドリブンな経営の元祖で、ストップウォッチで時間を測りながら仕事の早い優秀な作業員を分析し、その人に基づいて作業を標準化する、というやり方。当然、当時の技術的には自動でデータを取得することは簡単ではなかったので、手作業で時間を記録して計算していた。
実はマネジメントといったらドラッカーの方が圧倒的に有名だけれど、その元祖はテイラーだと言われている。経営の世界ではバッハみたいな存在だ。
このテイラーと一緒に経営管理の研究をしていたのが、みんな大好きガントチャートで有名なガントさん。
ガントチャートだって、予定をデータ化してそれに基づいて作業を最適化していくっていう、データドリブンな管理ですよね。
最近はIT屋さんたちがこぞって「データドリブンだ!」って言うからまるで新しい概念のように聞こえるけど、基本は100年前からあんまり変わっていない。細かい手法の話は色々あるので言わないけれども、トヨタだってコマツだって、何十年も前からデータドリブンな経営をしている。
経営工学とデータサイエンスの融合
最近の事情をそんなに知っているわけではないのだけれど。どうも最近はIT業界のデータサイエンス領域に経営工学徒が増えてるような気がする(私調べ)。冒頭にもちょっと触れた通り、ここ数ヶ月で何人か面接面談をしていたり、中途採用に関わっているのだけれど、かなり経営工学徒によく会う。
私が学生だったころはIT業界はそこまで人気ではなくて、結構異端的な扱いを受けていたんだけれど(まあ工場の研究してたから余計にだけど)。私が入社した当時、データサイエンス系の部署に30人新卒が配属されて、経営工学系は2人だけだった。それがここ数ヶ月中途採用は半分が経営工学系。
以前、大学の研究室の助教に会いに行ったときに聞いた話だと、ロジスティクスにディープラーニング的なアプローチで研究を進めていると言っていた。
元々データサイエンスというか、機械学習というのは数学屋と情報工学屋の基礎研究に近かったのが、ここ数年で一気に実務利用が増えて実務に近い分野に広がっているんだろうなあというのを感じる。
2013年の入社当時は結構カルチャーショックで、「自分たちが大学院でやっていた研究はなんて遅れてたんだろう」って思ったものだけれども、どうやらここ数年で様変わりしているのかもしれない。
まとめ
今はDXとAIとデータドリブンとかがごっちゃになっててよくわからない領域になっちゃったIT周りだけれども。おそらく機械学習やAIといった道具を元に経営や管理を効率化していくという学問自体は変わらず進歩していくのだと思う。
ちなみに"経営工学"の大学院は社会人でも結構受け入れてるのでちゃんと学び直そうと思ったらMBAと並んで選択肢に入れてみると良いと思うよ。しんどかったので自分はもういいです。
ということでこの分野は深堀りしてみると中々面白いと思いますという話でした。
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