想像だけで描かない
はじめに
私は大学受験のために絵を学べる塾、通称「画塾」へ約10ヶ月間通い、静物デッサンを学びました。その画塾はいわゆる体育会系で、外を走ったり、替え歌をつくって踊ったり、煮干しを食べさせられたり、今振り返るとおかしなところがたくさんありましたがそのお話はまたどこかで…。今回はそんな画塾で得たことを綴っていきたいと思います。
モチーフと友達になる
この日もいつも通りモチーフを手に取りデッサンを始めました。ああでもないこうでもないと、にらめっこしている私に先生が声を荒げて言いました。
「あんた、モチーフとちゃんと友達になってへんやろ。モチーフの気持ちを理解できてへんのに描けるわけないやんか!」
私は意味がわからず固まってしまいました。モチーフと友達になるってどういうこと?相変わらずおかしなことを言う先生だなぁなんて思っていましたが、この日から私はモチーフと友達になる努力をはじめました。
「初めまして、あなたはスプーンさんですね!くびれがとても素敵で、思ったよりもひんやりしていますね。今日はあなたのことを魅力的に描けるように頑張るので、よろしくお願いします!」
文章にすると顔から火が出そうなくらい恥ずかしい思い出なのですが、当時の私は至って真剣に友達になりたいと思いながら話しかけていました。
友達の魅力を表現する
モチーフと友達になる努力を始めて数日、フワフワだと思っていたタオルはゴワゴワしているし、ビンは思っていたよりも細くて頼りないし、モチーフの観察がきちんとできていなかったことに気がついたと同時に、その頃から私の絵に変化が現れました。瓶の硬さやヌルッとした質感、ボールの球体の表現、タオルを折り畳んだ時の空気の通り道など、絵の中にモチーフの個性が描かれるようになりました。
「やっとあんたの絵からモチーフの声が聞こえてくるようになったわ」
モチーフと友達になるということは、その子の魅力を最大限絵に描き込める事だったんだと、先生の言葉が心にスッと入ってきました。
想像だけで決めつけない
私はモチーフを見たままの印象だけで描き進めてしまい、モチーフの個性や魅力に気がついていませんでした。これは人間にも当てはまることだと思います。その人のことを見た目や行動だけで理解した“つもり”になっていることはないでしょうか。私はこの文章を書きながらちょっとドキッとしてしまいました。
私はこれからも、もっと見て触れて言葉を交わして、ヒトやモノの魅力に気がつける人になりたいです。
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