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言葉にできない

「あたしのどこが好き?」

この問いに困窮することは多いだろう。

それは何故だろう?

思いつくまま列挙してみようか。

「君の長い黒髪が好き」

「君の艶めいた唇が好き」

「君のほの赤い耳が好き」

「君の黒目がちの瞳が好き」

「君の笑顔が好き」

「君が選んで着ている服の趣味が好き」

外から見えている姿と個々のディテールを挙げたところで、彼女は決して満足出来る回答を得られたとは思わないだろう。

それに、ほとんどの女性に備わっている特徴と「あたし」との間に、どれほどの違いがあるのか? その点も、はなはだしく「あたし」である彼女の事を好きだと言う説得力に欠ける。

ではもう少し考えてみよう。

「あたしのどこが好き?」

「君の柔らかな口調が好き」

「君が人と接している時に感じる優しさが好き」

「君が紡ぐ言葉が好き」

「君が新しい事に興味を持って、目を輝かせているのが好き」

「君が物事に真面目に取り組む、真剣な面持ちが好き」

「君が小さな事を大切に積み上げながら、今を生きている姿勢が好き」

外見的な特徴ではなく、彼女の精神性に焦点を当てて答えたとする。
それは彼女の欲する答えになるだろうか?

本当に彼女の欲しい答えはなんだろう?

果たして正解などあるのだろうか?

ふとしたきっかけで付き合いだした二人。

たくさんの言葉を交わして、お互いの生い立ちや成り立ちや出逢うまでに起きた事と、そこから今に繋がる答えとは一体なんだろう?

それはもはや言葉にする事が不可能なほどの、彼女への想いに他ならないんじゃないだろうか?

書き続ける事は出来る。

彼女に話す事は出来る。

けれども、それは「あたしのどこが好き?」という短い問いに対する答えとしては、あまりにも長く、とても語り尽くす事の出来ない言葉になってはいないか?

彼女と言う存在を深く知れば知るほど、彼女のあれこれすべてが素敵で大切になっていき、そのすべてを受け容れたいと望んだ時には、もう彼女の問いに言葉で答える事は出来なくなっているんじゃないだろうか?

「君だから・・・・」

その考えも、言葉も、今日の服も、目も鼻も唇も黒髪もすべてが好きだと。

君が好きだと言ってくれる。

愛してると言ってくれる。

逢いたいと言ってくれる。

心から甘えてくれる。

君が怒ったり哀しんだり拗ねたりした気持ちを、そのままぶつけて来た時に、どれほどの痛みを感じようとも、その痛みさえ愛おしい。

だからもう言葉にできない。









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